第221話  夕陽、調子に乗る

 1



「じゃあ帰るよ」


「おじゃましました」


「また来てね」とばあばが手を振る。


 勇と朝華さんは一時間ほどで帰っていった。


「綺麗な子だったねぇ」


 ばあばが言う。


「そうだね」


 居間の片づけをしながら夕陽はふと思った。


 あれ? 


 そういえば、勇が誕プレを渡そうとしてた人って背が高くてカッコいい系って話じゃなかったっけ?


 朝華さんはどちらかというと深窓の令嬢といった雰囲気の人だったけど……?


 ま、あの勇が何人も女の子にアプローチできるわけもないし、きっと照れ臭くて適当なこと言ってただけだよね。


 このチャンスを逃したら勇の人生であんな美人さんと知り合う機会なんて絶対にない(断言)から、夕陽がなんとしてでもあの二人をくっつけてあげなくちゃ。


 それにしても夕陽って眞昼先輩からも恋愛相談をされてるし、もはや恋愛相談のプロって感じだね。


 やれやれ、みんな夕陽を頼っちゃって。


 夕陽ってそんなに頼りになりそうに見えちゃうかなぁ。


 困った困った。



 2



 ここまでことが上手く運ぶなんて、予想外だった。


 外堀から埋めていく。


 それが今の私の方針。


 これまでの私は最短距離で勇にぃをオトすことを念頭に入れて動いていた。というのも私は神奈川の寮にいるため、使える時間が眞昼ちゃんとは違うから、正攻法で戦っても使える時間――勇にぃと過ごせる時間――の差でジリ貧になってしまう恐れがあった。


 しかし未夜ちゃんの参戦により勇にぃを巡る争いが三つ巴になったことで、状況は変わった。まぁ、正確には私が未夜ちゃんを引きずり込んだのだから、変わったというより、変えた、という表現の方が的確か。


 箱根旅行が失敗に終わった時点で、眞昼ちゃん有利の状況が続くことは確定してしまうから、未夜ちゃんを参戦させるのは必須だった。


 場が膠着した今、以前のように勇にぃを直にオトす必要はなくなった。じっくり真綿で首を絞めていくように、勇にぃの外堀を少しずつ埋めていく。


 そのためにも、まずは勇にぃのおじい様おばあ様に接触をしたかったのだけれど、まさかここまでスムーズにことが進むなんて思ってもみなかった。


 眞昼ちゃんと交わした停戦協定の期間中になんとかとっかかりを作れたらいいな、と思っていたのに、まさか二日目にして実家に挨拶に行けるなんて。


 しかも、勇にぃの従妹の夕陽ちゃんとも繋がりを作ることができた。


 これはある種の既成事実となるだろう。


「そういえば、夕陽ちゃんは高校生ですか?」


「ああ、朝華の一個下だよ。北高だから、未夜たちと一緒だな」


「へぇ」


 未夜ちゃんや眞昼ちゃんと同じ高校か。一応覚えておこう。


「まだちょっと早いけど、どこかで飯食ってくか」


「そうですね」


 時刻は十時半を少し過ぎた頃。車は富士宮市街に戻っていく。


「朝華はなんか食いたいものあるか?」


「えっと、今日はなんだかお肉が食べたい気分です」


「朝華がガッツリ系なんて珍しいな。焼き肉でも行くか……あぁ、未夜と眞昼も行きたいとか言いそうだしな。焼き肉は夜でもいいか?」


「はい。お肉は夜のお楽しみにして、お昼はさっぱり系でも大丈夫です」


「じゃあいつもの蕎麦屋でも行くか」


「はい」


 勇にぃと一緒なら何でも美味しく感じるから、


 この人と一緒にいる。


 それが一番の私の幸せであり、人生だから……

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