第7話  VSクソガキ、救出作戦決行

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「なぁ、勇にぃもゲームしようぜ。これソフト一本でも通信対戦できるから」


 眞昼に手を引っ張られる。彼女はベッドの縁に座り、棒のような細い足を男の子のようにだらしなく伸ばしている。


「お、おう……!」


 これはチャンスだ。

 さりげなく彼女の横、枕側に座ることができた。


 さて、問題はここからだ。


 位置関係を整理しよう。まず救出目標であるエロ本は俺のすぐ後ろの枕の裏にある。


 しかし、今現在ベッド上は未夜が占領しており、やつのちっさい頭が枕の上にある。俺の横には眞昼がいて、少し離れた窓際のところで朝華が漫画を読み進めているのだ。


 手を伸ばせば届く位置なのだ。朝華は漫画に夢中だし、ゲームに熱中してる眞昼からは枕の方は死角になる。


 未夜がベッドから降りたタイミングで後ろに手を回し、背中側の服の中にエロ本を移動させる。そして俺は一度部屋を出て、別の場所にエロ本を隠すのだ。


 完璧な作戦だ。


 時刻は午後二時。救出ミッションスタートだ。


「うああん、もう。眞昼強すぎー」


「未夜、隙だらけだぜ」


「はい、じゃあ勇にぃと交代」


「え?」


 未夜からゲーム機を手渡される。対戦型のアクションゲームのようだ。この手のゲームは実は得意である。中学生の頃よくゲーセンで格ゲーやシューティングをやった。


 俺を舐めてるこいつらの鼻を明かすチャンスだ。


 が、今はそんな場合ではない。両手がふさがる上に、ゲームの画面に視線が固定されてしまう。

 ここはさっさと負けて未夜と交代したいところだが、簡単に負けるとまたこいつらに舐められる恐れがある。



『大人なのに子供に負けるんだ。弱っちぃな』と半笑いで言う眞昼の姿が容易に想像できる。


 ここは接戦を演じながらギリギリのところで負けるとしよう。





「おりゃ、どうだ」

「む、勇にぃ、なかなかやるじゃん。あたしもそろそろ本気出そうかな」


 眞昼の攻めが一気に苛烈になる。


「私、トイレ行ってくる」


 未夜がベッドから降りた。素晴らしいタイミングだ。十分接戦を演じることができたし、ベッド上がフリーとなった。よし、そろそろ負けるとしよう。


「よっしゃあ、あたしの勝ち」


「ち、ちくしょー。じゃ、じゃあ、次は朝華と交代かなぁ」


 と、思ったら、


「うぅ、暑いです」



 窓際にいた朝華は漫画を片付け、テーブルの上にあったジュースを飲むと、ベッドの方へ移動してきた。前髪が汗で張り付き、頬は林檎のように朱に染まっている。彼女はそのままごろんとベッドに横になる。



「うーん、私、ちょっと休憩したいです」


 なんだと。


 お前ずっと漫画読んでただけだろうが。


 どこに疲れる要素がある。



「朝華は体力ないからなー。お昼寝させてやれ。よし、勇にぃ二回戦だ」


 マジか。


「どっちが勝ったー?」


 未夜が戻ってくる。


「勇にぃがあたしに勝てるわけないだろ」


「ええー、じゃあ交代だぞー」


 未夜がベッドの上で飛び跳ね始める。


 スプリングがきしみ、不規則な揺れが発生。


「わ、分かった分かったって――っ!」


 未夜の起こす振動が枕に伝わり、じりじりとエロ本がシーツの上を滑り始めてきやがった。


 ま、まずい、角が。角が見え始めている。


「それ終わったら、交代しろよなー」


「分かったから、ジャンプすんな。店の方に振動が伝わるだろ」


 言いつつ、俺は背中から倒れ込んで枕からはみ出たエロ本を体で隠そうと試みる。


 あ、危なかった。


 いや違う。


 このまま体を倒すと、寝ている朝華の胸に頭が触れてしまう。



 ど、どうする?


 エロ本を隠すことが最優先事項ではあるが、小学生とはいえ女の子の胸に頭を乗せるなんて……





「あれ、それなんだ? 枕の下になんかあるぞ」


「!?」


 未夜に見つかった。



 どっちに転んでも地獄。



 ああ、俺はもう詰んだ。



 神様仏様、閻魔様でもいいから、誰か助けて。














「みんなー、スイカ切ったよー」


 階下から母の声が響いた。



「スイカー?」

「よっしゃあ、起きろ朝華」

「ふぇ?」


どたどたと部屋を飛び出ていくクソガキども。


一人残された俺は、ぼすっとベッドに体を預ける。




「た、助かった」




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