第47話  よくあること

 1


 午後四時半過ぎ。いつもの時間にいつもの二人がやってくる。


「おっす勇にぃ」


「こんにちは勇さん」


「いらっしゃい」


 眞昼と謎の美少女がここでテスト勉強を始めて一週間。


 いつもに訪れる。

 相当仲が良いのだろう。


 もう定位置と化した二人掛けの壁際のテーブルに座り、勉強に励む二人。


 時折こちらを見てにやにやしたり、何かを囁き合ったりしているのはなんだろう。


 俺の仕事ぶりでもチェックしてるのか?


「よーし、そろそろ休憩。勇にぃ、おかわりー」


 一段落ついたところでおかわりを持っていく。


「サンキュー」

「ありがとうございます」


 謎の美少女は優雅にカップを持つ。上品にコーヒーを飲む姿は本当に綺麗だ。しぐさや表情には思わず見とれてしまう愛らしさがあり、きっといいところのお嬢様なんだろうな。


 奔放な眞昼とはいい意味で対照的だ。


 シャツの胸元を大きく広げ、腕まくりをして、白い柔肌を晒す眞昼。全く、あいつには羞恥心というものがないのか。子供の頃から全然変わってない。

 謎の美少女の方はきちっとブレザーのボタンまでつけて、優等生の雰囲気を醸し出している。


 どちらも全く違うタイプではあるが、人の目を集める美少女だ。現に、二人が来店すると一気に店内の空気に華が出る気がする。


「そういえば」と俺は切り出す。


「二人ともきっちり勉強してて偉いなぁ。未夜のやつもちゃんと勉強してるかな」


「へ? さ、さぁ……してるんじゃないカナ」


 急に眞昼はピンと背筋を伸ばし、ぎこちない返事をする……


「あいつは昔っから直前で慌てるタイプだったからなぁ」


「そ、ソウダネ」


 眞昼はなんだか謎の美少女の様子を気にしているようだった。美少女はにっこり笑顔を張りつかせたまま、眞昼の方を向いている。


「あの悪ガキ、もしかしたら勉強なんかしないで遊び回ってたりしてな。よく宿題やらずに怒られてたっけ。はっはっは」


「ん、け、けほ。ゆ、勇にぃ、おかわりほしいなー」


 眞昼は一息にコーラを飲み、額に汗が浮かべる。


「お前、炭酸一気飲みして大丈夫か?」


「ら、らいりょうぶ」


「だいじょばねぇだろ」


 俺はグラスを下げてキッチンに戻る。


 2


 あの眞昼の反応に、俺の中で芽生えていたはますます大きくなる。


 やっぱり


 未夜とは、もうあまり仲良くないのだろうか。


 眞昼の方から未夜の話はあまりしないし、こちらから未夜の話題を出すと、なんだかどうもぎこちない感じになる。


 ここに来るのも一人か、あの美少女と一緒の時だし……


 今ではあんまり未夜とつるまないのだろうか。


 子供の頃に仲の良かった友達と、成長するにつれて疎遠になることはだ。


 俺にも覚えがある。


 中学や高校の友達なんて、もう何年も会ってないし、小学校時代の友達に至っては顔や名前すら思い出すのに苦労する。


 環境が変わるたびに、出会いと別れが繰り返され、人間関係は少しずつ変化していくものである。


 別にそれはおかしなことではない。


 世の中の全員が経験してきたはず。


 でも、なんだかそれって……


 姉妹みたいだったあいつらに限ってそんなことって……


 あってほしくねぇよな。


「勇にぃ、どうした?」


 眞昼が心配そうな声色で言う。


「ん、ああ、いやなんでもない。はいコーラ。勉強頑張れよ。あと一週間だろ?」


「おう」


 眞昼は満面の笑みを返す。


「はい、頑張ります」


 向かいに座った美少女も、こちらがドキッとするような可愛い笑顔だった。


 

 *



 もう、馬鹿にぃめ。


 余計な事言うんじゃない!


 未夜なら目の前にいるだろうが、全く。


 あたしは新しいコーラに口をつける。


 あー、その前にコーラ一気飲みしたから喉が痛い。


 それにしても、ここまで気づかないとなると、鈍感というレベルを通り越してないか?


 なるほど、未夜がムキになる気持ちも分かる気がするよ。


 もしあたしが未夜と同じ立場だったら、きっと未夜以上に荒れる気がするなぁ。


 早く、また四人一緒に遊んだりしたいなぁ。


 夏には朝華も帰ってくるだろうし、それまでにはなんとか決着をつけて欲しいけど。


 左手首のリストバンドを撫でながら、あたしはため息をついた。


 これからどうなることやら。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る