第13話 ささやかなゲーム
1
緊張と高揚感が混ざり合い、体温が上昇する。
有月は恩人の名前を何気なく聞いただけなのだろうが、未夜の心臓は自分で分かるくらいバクバクだ。
このにぶちんめ。
俊とさやかもこちらの方を心配そうに盗み見ているのが分かる。いや、さやかの方はただ単に面白がっているだけだろうけど。
偽名を使うのは嫌。
(勇にぃに嘘なんてつきたくない)
かといって、こちらから名乗るのも嫌。
どうすれば……
有月との懐かしい日々が、まるで走馬灯のように蘇る。
そうだ!
それらの思い出が、未夜に子供の頃のいたずらごころを思い出させた。
「秘密、です」
有月はぽかんとする。
「え?」
彼に向き直り、未夜は微笑を浮かべた。
「勇さんとお呼びしてもいいですか?」
この感覚、久しぶり。
有月を振り回し、翻弄する、あの心地よい感覚。
「いいけど」
「では勇さん。私とささやかなゲームをしましょう。もしあなたが勝てたら、なんでも一つ言うことをききます」
「なんでもって、え? ゲーム?」
「はい。期限はありません。私の名前を当ててみてください」
2
「答えるチャンスは一日一回。もしあなたが見事に私の名前を当てることができたら、私はあなたの言うことをなんでも聞きます」
名前を聞いただけなのに、なぜか女子高生と勝負をすることになってしまった。
って、いやいや。
なんで?
「も、もし、当てられなかったら?」
「その時は、罰ゲームを受けてもらいます。さぁ、どうぞ」
「さあ、どうぞ」と言われても、会って間もない人間の名前なんか分かるわけがない。
母に助けの視線を送る。口元を手で押さえて笑いをこらえている顔が返ってきた。
「もちろん、他の人にこっそり聞くのはダメですよ」
「うっ」
ええい、当てずっぽうだ。
「それじゃあ……」
妙な緊張感が店内に張り詰める。
何が目的なんだ。それとも俺に名前を教えたくないだけなのか。
「
「……」
「……」
「ハズレです」
そう言って、女子高生は俺の脇に手を差し込む。
「!?」
そしてさわさわとくすぐり始めたではないか。
「ふ、うはははは」
「耐えてください。罰ゲームです」
ひとしきりくすぐり終えると、女子高生は達成感に満ちた表情で、
「ふぅ、くすぐりすぎて汗かきましたね。それではまたお会いしましょう」
*
「西連寺まどかて、西連寺まどか……ぷくくく、なにそのネーミングセンス。ないわ」
母がテーブルに突っ伏し、肩を震わせている。
「うるせーな。いいとこのお嬢様っぽい雰囲気だからそれっぽい名前考えたんだよ。つーか、俺だってわけ分かんないんだよ。母さん、あの娘のこと知ってるんだろ?」
「知ってるけど、あたしらが教えちゃルール違反だって」
なんなんだよ。
脇の下が熱い。いや、体全体が熱い。
あの娘が帰った後も、体の火照りが治まらない。
いやいや、相手は女子高生。こんな感情は犯罪なんだって。
でも……
「あの子、ここの常連なんだろ?」
「そうよ。また明日も来るかもね。それより、あんたハローワーク行ってきたんだろ? いいとこ見つかった?」
「ん、ああ」
俺はバッグから持ち帰った求人票を取り出し、それらをくしゃくしゃに丸める。
もうこんなもんいらん。
「なぁ、俺、この店継ぐわ」
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