特別編 クソガキとの『思い出』 〈ムーンサイド〉その1

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 苦しいな。


 なんだ、この押しつぶされるような圧迫感は。


 生暖かい何かが、腹の上に……


 しかもなんか揺れて――




「ふはははは」


 目が覚めると、まず視界に入ったのは、小さな背中だった。


 黒い短髪によく日焼けした小麦色の肌。


 ゴーゴー〇ァイブのプリントがされたTシャツにデニム素材の短パンという夏らしい服装。


「てめぇ、このクソガキ。人の腹の上に座ってんじゃねぇ」


「早く起きろたっちゃん」


「おいやめろ。腹の上で揺れるんじゃねぇ」


 昨晩の酒がまだ残っている気がする。二日酔い特有の鈍い頭痛が俺を襲う。


「はーやーく」


「おい、マジでやめてくれ。は、吐く」


「しょうがないな、ザコめ」


「このクソガキ……って、今何時だ?」


 時計に目をやるともう十時を過ぎていた。


 かなり飲んだとはいえ、こんな時間まで寝過ごしてしまうとは。


「太一くん、起きた?」


 さやかさんがやってきた。


「ご飯食べる?」


「く、食うっす」


 昨晩、あんなに飲んでいたのに、さやかさんはけろっとしていた。相変わらず強い人だ。


「こら、勇。人のお腹の上に座っちゃいけません」


「へっへーん」


 さやかさんが注意するも、勇は俺の腹の上から飛び降り、そのまま部屋から出ていった。


 昨日は〈ムーンナイトテラス〉でさやかさんの晩酌に付き合って、そのまま二階の部屋を借りて寝たんだった。


「どこ行くの、勇!」


瑠奈るなちゃんと遊んでくるー」


「全くあの子は」


「クソガキっすね」


「可愛いんだから」


「……」




 *




 ――有月勇、四歳。


 始まりのクソガキ――






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