第43話 子供の勘
1
よくよく考えてみると、最近おねぇの様子が変な気がする。
なんか気持ち悪い笑顔をしてる時があるし、機嫌のいい日と悪い日の差が激しいし、前だって、いきなり占いの本を読み始めてたし……
いつもは家にいることが多くて小説ばっか読んでたのに、最近はやたらと帰りが遅い日が増えた。
ちゃ〇読者歴二年の私の勘が言うのだから間違いない。
これは男だ。
「怪しい」
「へ? 何が?」
晩御飯の後、おねぇはホットミルクを飲みながらリビングでテレビを見ていた。
祭りで知らないおっさんと姉が一緒にいるのを見てから一週間。
未空は悶々とした毎日を過ごしていた。
詳細を聞こうにも相手が知らない男――それもおっさんであったため、なかなか切り出せなかった未空だった。
「何よ、いきなり怪しいって」
「別にー」
「変な未空」
リビングにはパパもママもいる。「おっさんと恋人同士なの?」なんてそのまま聞いたら、かてーほーかいの危機だ。
「未空、そろそろお風呂入る?」
ママが聞く。
「うん」
ママと一緒にお風呂に向かう。
「ねぇ、ママ」
湯船にママとつかりながら私は聞く。
「なぁに?」
「パパとママって何歳差なの?」
「何よ急に」
「いいから教えて」
「えーと、ママが四十歳で、パパが四十五歳だからー、五歳差ね」
「ふうん」
けっこう差があるな。でも五歳か。それくらいならまだ……
おねぇとあのおっさんは十歳くらいの差があると見た。
「もしさ、私が十九歳の男の人と付き合うって言ったらどうする?」
「警察に通報するかなー」
ママは即答する。
「え、じゃあ十四歳の人とは?」
「それも警察に通報する」
「ええ~」
じゃあおねぇもやばいじゃん。ママに知られたら通報されちゃう。しかも眞昼ちゃんも一緒にいたし。
「……」
眞昼ちゃんも一緒……てことは……
「不倫だ!」
「未空、どうしたの!?」
2
「あ、もしもし眞昼ちゃん?」
四回目の発信でようやく繋がった。
「あ、未空ちゃん?」
「やっと繋がったよ」
「ごめんごめん、マナーモードにしてたから気づかなかったよ」
「眞昼ちゃんさぁ、今度いつ会える?」
「うーん、そうねー、明日なら部活オフだけど」
「じゃあ明日学校終わったら遊び行っていい?」
「いいよー」
「ほんと? じゃあまた明日ね」
「はいはーい」
冷静になって考えてみると、あの眞昼ちゃんがおっさんを相手にするとは思えない。かっこよくて綺麗でスタイル抜群のあの眞昼ちゃんが、ぽけーっとしたおっさんと付き合うなんてあり得ない。
ただ、あのおっさんと仲がよさそうにしてたのは事実だし、いったいどういうことなんだろう。
おねぇと眞昼ちゃんの両方に関わりがあるってなると、学校の先生とか?
でも先生と手なんか繋がないよね。
やっぱりあのおっさんはどっちかの彼氏なのかなぁ。
こんなこと、直接おねぇになんか聞けないよ。
しかも不倫の可能性もあるんだから。
まあいい。明日聞けばはっきりすることだ。
3
翌日。
私は眞昼ちゃんの家を訪れた。
「実は、聞きたいことがあって」
「えー、何よ改まって。ゲームの攻略法でも聞きたいの?」
「眞昼ちゃんってさ、彼氏いるの?」
「へ?」
分かりやすく顔が赤くなる。
「い、いや、いない、けど」
この反応は絶対に何かある。思い切って私は聞いてみる。
「この前のお祭りでさ、おっさ……おじさんと一緒にいたよね。あれ誰なの?」
「おじさんて……あ、まあ、もうおじさんっちゃおじさんか」
「あの人と手繋いでたよね」
「……うん」
いつも活発な眞昼ちゃんが、なんかもじもじしだした。
「彼氏、じゃないの?」
「ちちちち、違うって」
反応が可愛い。
「じゃあ何なのあの人」
眞昼ちゃんは左手のリストバンドをさすりながら、
「えと、大切な人……かな」
いつものキリっとした眞昼ちゃんからは想像もできないような、恥ずかしそうな顔。
私の頭ははてなマークでいっぱいになる。
「……?」
「未夜から何にも聞いてない?」
「うん」
「そっかー、たしかにあの頃は未空ちゃん産まれてなかったもんな」
何だろう、眞昼ちゃんは遠くを見つめるような目になった。
「話せば長くなるんだけどね――」
*
薄闇漂う夜の中を未夜はパタパタと走っていた。
今日はすっかり長居しちゃった。
早く帰らないと。
「ただいまー」
家に帰ると、未空がまた私の部屋でだらだらしていた。ベッドの上には漫画が乱雑に散らばって、テーブルの上には食べかけのスナック菓子の袋が置かれている。
「おかえり」
「あ、もう未空。本は読んだら片付けなさいっていつも言って……あっ、こうやって縦に開いたら食べきらないといけなくなるからダメっていつも言ってるでしょ」
全く、このクソガキは~。
「はいはーい」
やれやれといった表情を見せる未空。
「ま、頑張んなよ」
「え?」
「おねぇはぶきっちょなくせに意地っ張りだからね」
何の話だ?
「勇にぃ、だっけ?」
「……! 未空、それ、ど、どこから」
「眞昼ちゃんに聞いたよ。おねぇって昔はクソガキだったんだってね。ぷぷぷ」
未空はそのままベッドから飛び降り、私の肩をぽんと叩いて部屋を出ていく。
ま、まずい。
未空は私のクソガキ時代のエピソードをどこまで聞いたんだ?
あの話やあの話を知られたら、私の姉としての威厳が大暴落だ。
そして未空が今よりもっと生意気になるかも……
「ちょっと未空、待ちなさーい」
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