第31話 修羅場?
1
――昼休み。
思い思いの場所で、そして仲のいい者同士で、午前の間勉学に励んだ生徒たちは息抜きの時間を過ごす。
しかしながら、必ずしも安息の時間が流れるという保証はない。
食堂、窓際のテーブル席。
お昼時はいつも混み合うので、席を確保するのに苦労する。今日は何とか室内に座ることができた。運が悪いと外の芝生の上で食べることになってしまう。
「相変わらずよく食べるね」
眞昼の前に並んでいるのは大盛りのカツ丼セット。男子ですら食べきるのがやっとの量を、彼女はぺろりと平らげてしまう。調子のいい時はさらにおかわりをするのだから、恐ろしい。
あの胸は育つべくして育ったということなのだろう。私も大きい方だとは思うが、眞昼のそれは格が違いすぎる。
「今日は体育があったからな。未夜はむしろよくそんだけで足りるな」
私の献立はサンドイッチにサラダにデザートのプリン。特筆するようなことはない。女子高生の昼食としては、至って普通である。
「そういえば眞昼、土曜って練習試合だったんでしょ?」
「ん、ああ。そうそう、西高とな」
眞昼はカツを一口で頬張る。
「どうだったの?」
「勝ったに決まってるだろ」
眞昼は誇らしげに胸を張る。
「おめでと」
うちの高校の女子バレーボール部は地元ではなかなかの強豪として名が通っている。過去には日本代表として活躍する選手も輩出しており、眞昼が一年生の時には全国大会にも出場している。
「でもけっこうきつかったんだぜ? なんせ予定外のトラブルが起きちまったから」
「え? そうなんだ。予定外?」
珍しい。
メンバーに急な欠員でもいたのだろうか。それとも監督やコーチが来れなくなったとか?
眞昼はなぜか顔をほころばせながら言う。
「それがさぁ、勇にぃが応援に来て大変だったんだ」
「へぇ、勇にぃが……」
は?
2
「勇にぃには困っちゃうよな。もうぼろっぼろ泣きながら『眞昼ー!』、『頑張れー!』って。ほんと恥ずかしくってさぁ。勘弁してほしいぜ」
「へぇ」
顔を赤らめながら語る眞昼。
その正面で、別の意味で顔を赤くしている私。
「いい大人が人前であんなに泣いて、ただの練習試合だってのに、そんな感動することあるか? 全然集中できなくて迷惑だったよ」
「へぇ」
文面だけ見れば文句のように聞こえるが、彼女の顔に浮かんでいるのは、紛れもなく
「しかも帰り道にまた泣き出してさぁ。十年もあったらそりゃ人は成長するに決まってんのに、いつまでも子ども扱いすんなって感じだよな」
「へぇ」
は?
なに?
なんで勇にぃが?
「なんか客に相手の高校の親御さんがいたらしくてさ、こっちは知らせてないの勝手に来やがったんだ。別に頼んでないのになー」
言って眞昼は笑みを浮かべる。
「……へぇ」
ぐぬぬ。
頼んでないだぁ?
子ども扱いすんなだぁ?
自虐風自慢じゃないの。
「勇にぃって昔からそういうとこあるよなー。おせっかいっていうか、心配性っていうか」
「……そうだね」
私の心は嫉妬の炎で燃え上がっていた。
私が孤軍奮闘しているのをしり目に、勇にぃとイチャコラしおって。
幼稚園の年長さん以来の、十年以上の付き合いの、家族同然の親友だと思っていたのに……そう、そうやって抜け駆けするのね。
待てよ?
この赤らんだほっぺにとろんとした目。
もしやこのおっぱい、勇にぃに気があるの?
私の背筋に悪寒が走る。
だとしたらマズい。
勇にぃの嗜好はよく分からないが、胸だけで勝負したら、確実に私が負ける。
そういえば再会した時も抱き合うふりしてさりげなく勇にぃにおっぱいを押し付けてたし。
もし勇にぃがおっぱい星人だったら……
「あわわわわ」
「泡?」
そうか、そうやって勇にぃを誘惑する気なんだ。
男子にじろじろ見られるのが恥ずかしいって中学の時に相談してきたのに、今になって武器としてフル活用する気ね?
なんて破廉恥な生き物……
「そうそう、その時に話したんだけどさ。今度三人で一緒に遊びにでも行くか?」
「行く♪」
「早く元の関係に戻りたいだろ? あたしもさっさと十年前みたいにみんなでわいわいしたいからな。手助けしてやるよ」
行く行くぅ。
眞昼って本当に優しいなぁ。同い年だけど、お姉ちゃんみたいに引っ張ってくれて、気遣いができる子。
昔からそういうとこほんと尊敬してる♪
やっぱり持つべきものは親友ね。
さすがは幼稚園の年長さん以来の大親友。
「眞昼、プリンあげる」
「え? いいのか?」
「うん」
開け放たれた窓から春のそよ風が吹き込んでくる。
私の心にも、さわやかな風が吹いていた。
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