第5話同居の練習?

 卒業旅行での行き先もそうだが、受験が終わった今。

 親からは高校を卒業したら、二人で自由にすると良いと言われた。

 まあ、おそらく遠回しに実家を出て、アパートやらマンションを借りて、同居しろということだろう。

 これから、受験を終えた高校生たちが大学に通うため、一人暮らし出来るような部屋を探しに探し始める事から、不動産屋は混雑するはず。

 よって、混雑で慌ただしくなる前に、俺と涼香は部屋探しへと出た。


 数件ほど、内見させて貰う。

 するとどうだ。

 1LDKを借りるつもりだったのだが、思いのほか高い。

 大学がある駅でアパートを探していたのだが、家賃相場が高くて悩みどころ。


「一駅、二駅、離れた駅の近くに住む?」


「定期代を含めても、そっちの方が良さそうだよな。あと、大学の駅前って治安が少し悪いし」


「じゃ、そうしよっか」

 大学の最寄り駅に住むのは辞めて、少し離れた駅でアパートを探す。

 結果として、1LDKの良さそうな所が見つかった。

 で、春から契約して住むことにしたと母さんに報告する。


「3月から引っ越しても良いんじゃないかしら?」


「高校に通えなくはないが、定期代とかも掛かるし、お金がもったいなくないか? 幾ら、宝くじで当たったお金があるとはいえさ……」


「それもそうね。じゃあ、二人とも同居するのは初めてでしょうし、うちで練習しておかないと。私達の元を離れ、一緒に住み始めて、すぐに喧嘩とか最悪よ」


「うちで練習?」


「そう、涼香ちゃんと一緒に住むの。この家で」


「母さんたちは?」


「もちろん居るわよ。という訳で、涼香ちゃんのご両親に連絡して来るわね?」

 

 大学に通う4月から涼香とアパートで一緒に住む。

 そう思っていたのだが、どうやら、引っ越す前にうちで同居の練習だそうだ。

 当たり前と言えば、当たり前の事だが、冷汗が止まらない。

 この家で、涼香と一緒に住む……、いや、ほんとマジか?




 で、母さんから、涼香と、うちで同居の練習をしなさいと言われた日の夕方。

 大きなリュックを背負った涼香が俺の家にやって来た。


「4月から一緒だね~とか言ってたけど、まさかこうなるとは思ってなかったよ」


「仕方ないと言えば、仕方ないんだがな。ほら、さすがにいきなり同居して喧嘩したら確かに不味い」


「で、私はどこで暮らせば?」


「母さん曰く、狭苦しいだろうが俺の部屋で一緒だとよ。荷物はそれだけか?」


「ううん。後で、お父さんが車で色々持って来てくれるって」

 取り敢えず、持ってきた涼香の荷物を整理整頓する。

 俺の部屋にあるタンスの一角を受け渡し、そこへ涼香の服を仕舞う。


「ほれほれ、奥さんのパンツとブラだよ?」


「おい、おま。幼馴染とはいえ、恥らいをだな……」

 未だ抜けない幼馴染感覚。

 言いかけたそばから、自分で気が付いてしまう。


「夫婦だし問題ないか」


「そういうこと。なんか変に恥ずかしくしてた方が夫婦っぽくないじゃん?」


「そうだがなあ……」

 お試し夫婦。

 性的な関係まで及べばお試しではなくなってしまいそうなのが怖い。

 ずるずると相性が良くないのに夫婦関係を引きずるとか何の罰ゲームだ。


「祐樹ってヘタレ?」


「っぐ。心当たりがありすぎて反抗できん」


「あはは、てか、見てないで手伝ってよ」


「分かった。分かった」

 俺の部屋に涼香の荷物が整理整頓されていく。

 今は2月25日で、引っ越すのは4月1日。

 約1か月程の実家での同居生活だ。

 ……さてと、どうなるものやらとか思いながら、涼香の下着類を手に取りタンスに仕舞い始める。


「おお、これは中々。もしかして、勝負下着か?」


「え、あ、うん。そ、そうだけど? 高校生。さすがに勝負下着の一枚ぐらい持っておかないと」

 視線がうろちょろと動いている。

 もちろん訳は簡単だ。

 涼香は俺をからかう時は恥じらわないのだが、からかわれると恥ずかしくて顔を真っ赤にしやすい。

 さっき、俺に、ほれほれ、奥さんのパンツだよ? とか言って見せつけて来た仕返しだ。


「にしても、エロさは程々だが、勝負感は満載だな」


「そ、そのくらいはね?」


「これ、いつ穿いてくれるんだ?」


「え、あ、え、えっと」

 パクパクと口を魚みたい。

 そんな奥さんがあまりにも可愛かったので、ついつい調子に乗る。


「今日、穿いてくれるんだよな?」


「うぅぅ~~~~」

 真っ赤な顔。 

 ほれほれと言わんばかりに、涼香の顔の前にパンツを持っていく。

 で、煽りに煽ると涼香がパンクした。


「今、穿けば良いんでしょ、今!」

 脱いで穿こうとする涼香。

 ちょうどその時に様子を見に来た母さん。


「お盛んなのも良いけれども、早く片付けちゃいなさい。というか、うちではしちゃダメよ? 我慢する練習よ。二人で住み始めた時、爛れないようにもね?」

 早く片付けろ。

 そして、我慢する練習よ、とか言われてしまう。

 俺にとっては血の繋がった母。

 涼香にとっては義理の母。

 もう、気まずくて気まずくて仕方がない俺達は、そっと頷きを返し、部屋を綺麗に整頓していくのであった。




 さて、俺の部屋に涼香がやってきて、片付けも済んだ時だ。

 母さんが俺と涼香を食卓に呼ぶ。

 素直に食卓に行くと、豪華な食事が並んでいた。


「涼香ちゃんがやって来たお祝いしなくちゃでしょ? お父さんがケーキを買って帰って来たら、乾杯しましょうか」


「あ、ああ」


「そ、そうですね」


「あら、涼香ちゃん。敬語なんてしなくて良いのよ? 今まで通り、素直に振る舞って良いからね?」


「う、うん。ありがと、おば、いやお義母さん」


「ふふ、娘が出来て本当に嬉しいわ。だって、18歳ならまだまだ娘として可愛がってあげられる年齢なんだもの」

 ルンルンな母さん。

 お試し夫婦とか言っているが、ドンドン外堀が埋まり逃げられなくなっているのは気のせいじゃないはず。

 離婚するかもとか言ったら、ガチでヤバいのが良く分かる。

 ダイニングで食器やらを用意し、食事の準備をしていると、父さんがケーキ。

 それも8号くらいのを持って帰って来た。


「ただいま。涼香ちゃん。これから、短いがよろしく頼むよ」


「え、あ、はい」


「はは、いつも通りで良いぞ? さてと、母さん着替え終わったら、写真を撮って、盛大に祝おうじゃ無いか」


「ええ、そうしましょう」

 そんな感じで始まった我が家に涼香がやって来たことを祝う宴。

 食事中、ひっきりなしの母さんと父さんによる質問攻めに、俺と涼香は苦しむのであったとさ。





 


 



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