第45話ソファーを満喫する二人

 午前10時23分25秒。

 待ちに待ち構えた時が訪れる。


「こちら、新藤さんのお宅でお間違えないでしょうか?」


「あ、はい」


「それじゃあ、運ばせて頂きますね」

 運送業者の方がせっせとトラックと俺達が住め部屋を行き来した結果。

 リビングにソファーが設置された。


「ありがとうございました~」

 運送業者の人が去っていくのを見送り部屋に戻る。


「……」


「……」

 無言になる俺と涼香。

 ソファーが届いて、ワクワクとドキドキが止まらない。

 部屋の装いがより一層と、自分達の好みに変わっていくのが堪らないのだ。


 そして、何よりも。


「祐樹! ウェルカムだよ!」

 変なテンションでソファーに座った涼香は俺を呼ぶ。

 ポンポンと膝を叩いて。


「待て待て。あれだ。届いた記念に綺麗な状態のソファーの写真を撮っておこう」


「あ、そっか!」

 涼香は写真サークルに入った。

 で、活動の内容を楽しそうに話してくれることもあり、俺もすっかり写真というものが好きになっている。

 という訳で、仲良く二人でソファーの写真を撮る。

 

 写真を撮り満足するや、涼香は再びソファーに座り、膝をポンポンと叩く。

 決め顔で、来な? ってかんじだ。

 

「……」

 無言で柔らかな太ももを枕にする。

 今まで、正座していたこともあり、痛いとの事で長々として貰えなかった。


「えへへ。正座じゃないからラクチンだ!」


「にしても、ちょっと贅沢して長いソファーを買った甲斐があったな」

 俺が横に寝転がってもきちんと収まるサイズのソファー。

 涼香も正座じゃ無くて辛くなくなったのに加え、今まで床で寝そべっていた俺の体もソファーに包まれ夢見心地だ。


「それは私も思ってる。よしよし、良い子、良い子。長い奴にしよう! って言った祐樹のおかげだからね~」

 優しく髪の毛を撫でてくれる。

 俺、いつからこんな甘えん坊になったんだろうな……。

 自分でもみっともないくらいに甘えん坊になったのは事実でしかない。

 外側を向いていた俺。

 涼香のお腹側を向き、より一層と良い圧迫感を求め寝返りを打った時だった。

 

「んぐ」


「ふははは。騙されたな祐樹! 今まで優しくしてたのはこうやって、祐樹を圧死させるためだったのだ!」

 いきなり俺の顔を押さえつけお腹にぐりぐりする涼香。


「んが、ぐる、ぐるしい」


「ごめんごめん。寝て居る祐樹をぎゅ~ってしたくなっちゃったからしちゃった。てへへ?」

 謝る気なんてさらさらない。

 だって、したかったんだもん! って開き直っている。

 が、まあ、可愛いので許す!

 とでも思ったか? 後で覚えとけ! 絶対にやり返してやる!


「なあ、涼香」


「なあに?」


「ソファーって最高だな!」

 馬鹿みたいに気持ち悪いテンションでソファーの最高さを叫んだ。

 で、涼香はそんな俺の無邪気な顔を見てくすくすと笑う。


「こ、こんなに嬉しそうな祐樹なんて初めて見たかも」


「悪いな。日に日にお前が好きになって行くせいで、ドンドン気持ち悪くなる」


「ほんとだよ。もうそのせいで、私もドキドキしすぎてヤバいんだよ?」


「ん?」


「祐樹。気がついてないかもだけど、めっちゃ私への言葉遣いが丸くなってるもん。もうね、あ、やさし~って感じで、ドキドキだよ」


「あ~、それはちょっと違うぞ。俺も年を重ねるうちに自分のクソガキなのを治そうって思ってな。ほら、昔だと死ね! ボケ! カス! アホ! ってうるさかったろ? さすがにこのままじゃ不味い……と思って、言葉遣いに気を付けて話すようにしてんだよ。ま、まだまだ汚い言葉遣いだけどな」


「……あのさあ」


「ん?」


「そこは、私の言った通りに『ああ、お前が好き過ぎてな! 汚い言葉なんて使えん!』 って言ってくれた方が嬉しかったのになあ~」

 呆れた様子で言われてしまう。

 ったく、この面倒くさい奴め。

 どうせ、今言ったような御託を今更並べようが、『遅い!』とか言って受け入れてくれないだろう。

 ま、それでも良いか。


「お前が好き過ぎてな。汚い言葉で傷つけたくない」


「んふふ~。そっか、そっか~」


「おま、これで満足するのかよ!」


「だって、祐樹が好きなんだもん」

 満足させるつもりなど無かったのに、満足した涼香はよしよし~と上機嫌に俺の頭を撫でる。

 てか、あれだ。

『お前が好き過ぎてな。汚い言葉で傷つけたくない』と言った俺は膝枕されてる時点でカッコ悪すぎねえか?

 涼香め……。もう俺の言う事なら、何でも嬉しいのか?


「なあ、好き過ぎるからナデナデをもっとしてくれ」


「しょうがないなあ~」


「良いのか……。これで良いのか……」


「どうしたの?」


「いや、俺の言う事ならもはや何を言っても喜ぶのかよ……って微妙な気持ちに襲われてる」


「あはは。じゃあ、祐樹。私からも言うね! 昨日みたいに腕をふがふが齧りたいな~って思うんだよ。ねえねえ、齧らせて?」


「しょうがない。良いぞ」


「そういう事!」

 ビシッとした張った声。

 何がそう言う事なんだ? とか思う間もなく、説明が始まる。


「私は今、わりと気持ち悪い事言ったのに、祐樹が受け入れてくれたじゃん。つまり、好きなら何を言われても、簡単に受け入れちゃうんだよ!」


「なるほどな。言われてみれば、俺の腕を齧りたいとか、普通に結構凄いことを言ってるな。でも、好きだから別に良いって気分になるわけか」


「そうそう。だから、もう、今の私って祐樹好き好き人間だから、何言われても喜んじゃうんだよね~。あ、祐樹。今、私の太ももに、よだれ垂らしたでしょ」

 膝枕されたままだと話がしにくい。

 そのせいもあって、涼香のふとももによだれを垂らしてしまう。


「悪いな」


「ううん。私も昨日、祐樹の腕をガブガブして、よだれまみれにしちゃったし気にしないよ。それに、祐樹がよだれ垂らして可愛いな~って見えるから全然平気」


「よだれを垂らす姿が可愛く見えるとか、頭大丈夫か?」


「ダメかも。でも、良いもん。私、終身雇用で祐樹のお嫁さんになっちゃってるからね~」

 少し前までは相性が悪かったら離婚しよう。

 そんなことを互いに口走っていた。

 が、もはやそれを微塵も感じさせない言動に笑ってしまう。


「っぷ。おま、今の発言、ちょっと前までのお前に聞かせてやりたいぞ」


「あははは、絶対、前の私だった『え? え? え?』って驚くよね。もう、ほんと、おかしい!」


「ま、昔の俺に、今の俺を見せても大変なことになるだろうな『おまっ、男の威厳はどうした! お前が膝枕されてる女は腐れ縁だけの幼馴染だぞ!』って感じで」


「うんうん。ところで、祐樹。そろそろ交代しない?」


「っく、お前に言われたらしょうがない。ああ、良いぞ。ソファーの良いとこは膝枕をしやすくなっただけじゃないしな」

 名残惜しくも涼香の膝枕の上からどく俺。

 そして、普通にソファーに腰掛けた。


「今度は私の番~。よいしょ~っと」

 座る俺の膝の上に乗り抱き着く。

 俺と同じ方向を向いて座る形じゃ無く、俺の後ろを向いて抱き着く感じだ。

 で、ソファーがある事もあり、今まで以上にぎゅーっと激しい抱き着き。


「激しいな。が、ソファーの背もたれのおかげで背中に負担が掛かんなくて、良い感じだ」


「でしょ~。背もたれがあるおかげで、祐樹が後ろにバタンって倒れる事もないし、もう最高!」

 そう言って、柔らかい体をさらに押し付けて来た。

 腕も首の方に回し力強い。

 試しに、涼香を振りほどいてみようと体を動かすと、文句たらたらな涼香ちゃんが現れる。


「ぶ~。祐樹にいっぱい膝枕してあげたのにさー。振りほどこうとするなんて最低だよ? あーあ、傷ついちゃうな~。あんなに良くしてあげたのにな~」


「悪い。悪かったって。が、しかし、お前がどれほど俺の振りほどく力に耐えられるか勝負だ!」


「きゃっ。もう、強引さんめ! ぜーったい離れてやらない!」


「っく、お前は猿か?」


「お猿さんで良いもん。だって、抱き着きたいんだもん」

 お猿さんなことを認めた涼香を振りほどくことが出来ない俺は、しょうがないので、抱き着く涼香の背中を抱きしめてやる。





「えへへ。祐樹。だ~い好き! だから、ごめんね。ちょっと苦しいかもだけど、ぎゅ~ってさせて?」





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