第59話涼香がプルプルしてジョブチェンジ!

 お腹がいっぱい過ぎて何もかもする気が起きなくなった。

 それがゆえに涼香とベッドに寝転んで、お腹が苦しくなくなるのを待った後、そのまま流れるように眠りについた。

 時間は過ぎ去り朝日がカーテンの隙間から差している。

 若いからなのか、思いのほか食べ過ぎたことによる不快感は感じないのに、嗚咽をついつい出してしまった。


「うっ……」

 気持ち悪いから嗚咽を漏らしたのではない。

 体の節々が滅茶苦茶に痛むせいで声が漏れただけだ。

 昨日は涼香に負けじと筋トレを張り切り過ぎたからな。


「き、筋肉痛がやばい……」


「んっ、ゆうき? おあよ~」

 俺が動き出したのを察知し、横で寝て居る涼香も目を覚ました。

 あんな勢いよく腹筋しておいて、筋肉痛にならない訳がない。


「うひゃん!」


「中々に面白い声を出しやがる」


「朝から祐樹が酷いこと言って虐めてくる~。にしても、ヤバいよねこれ?」


「だな」

 筋肉痛でベッドに依然として横たわる涼香のお腹をそーっと撫でる。

 さっきの裏返った声がまた聞きたいからな。


「あはははは、くすぐったい上に痛い! や、やめ、ほ、ほんとにお腹が痛いから!」

 

「くすぐられるとお腹に力が入っちゃうもんな。ほれよっと」


「ゆ、ゆうきのば、ばか! あははは、いててて」

 くすぐる俺の手を遠ざけんと、抵抗される。

 それを掻い潜りながら、涼香のお腹にそーっと指を這わせてくすぐる。

 

「許せ。お前が悶えるところが見たいだけなんだぞ?」


「鬼畜! 祐樹のくすぐりフェチ!」


「どうとでも言え。俺はお前のそういう笑う顔とあんまり上げない声を聞くのが好きなだけだ。……ま、まだ聞けてないが、しょうがない。辞めてやるか」

 腹筋が筋肉痛で笑うとずきずきする涼香をちょっぴり虐めて楽しんだ俺は、ベッドから出ようとした。

 すると、張り切りすぎて痛む体を動かし俺の背中に引っ付く涼香。


「おんぶして! 体痛いから歩けない。お、ん、ぶ!」


「俺もかなり痛いんだが?」


「おんぶ!」

 くすぐってしまったせいでわがままっ子になってしまっている涼香。

 やられたらただじゃ置かないところは嫌いじゃない。


「ったく、しょうがない。ちゃんと掴まれよ? 俺は片手しか使えないんだから」

 きちんと背中を向けると涼香が背中から落ちないようにしっかりと張り付く。

 そして、ベッドから降りた俺は涼香をおんぶしながらリビングへと向かう。


「ぐっ。想像以上にヘビーだ」


「それは私が重いって事?」


「違う。筋肉痛の方だ。お前は重くない」


「んふふ~。そっか。えいっ! ほっぺすりすり~」

 おんぶされる涼香は俺の頬にすりすりと自身の頬をぶつけて来る。

 昨日お風呂に入っていないせいか、ほんのり油っぽい顔。

 てか、風呂に入らないどころか着替えてすらいないし、普通にチキンの匂いがするんだが?


「ふう。で、お前をどこまでおんぶしてやれば良いんだ?」


「ソファーまでよろしく」


「朝から甘えん坊過ぎないか?」


「え~、そんなことを言うとくすぐって来たのを許してあげないよ?」


「はいはい。すみませんでしたっと」

 ソファーに辿り着いたので涼香を下ろすべく腰を落とす。

 涼香は俺の体に巻き付けていた腕を解き、おぶさるのを辞めてソファーにすっぽりと収まる。


「よいしょっと」 

 すっぽりソファーに収まったと思いきや、すぐに立ち上がる涼香。

 普通に寝室に戻って行きやがった。


「おい? 俺の苦労は何だったんだ?」


「あははは、ごめんごめん。だって、お風呂入りたいんだも~ん。服を用意しなきゃでしょ?」

 それからお風呂で綺麗さっぱりになる俺と涼香であった。





 さて、お風呂を上がった俺と涼香。

 今日は日曜日。

 大学の講義も無ければ、特に予定もない。

 金銭的に余裕があるとはいえど、無駄遣い厳禁。

 よって涼香と遊びになど行かない。行きたいのだが、ポンポンと気軽に遊びまくれば絶対に金遣いが荒くなって破産してく未来しか見えないしな。


「おぉぉぉ……」

 プルプルとうめき声を漏らしながら歩くのは涼香。

 俺よりも痛がりなため物凄くリアクションが面白いったらありゃしない。

 なので、もっと面白いのが見たくて、生まれたての小鹿のように歩く涼香の足をつんつんしてしまう。


「祐樹ってSだよね」


「そうか?」


「絶対、Sだよ。私を虐めるのが大好きじゃん。今もさ、人が筋肉痛で苦しんでるのにつんつんしてくるし」


「さあ? なんのことだ?」


「しらばっくれるんだ。あ~あ。今日は祐樹があんまり好きじゃない茄子料理尽くしにしちゃおっかな~」

 食事を盾に脅される。

 涼香の事だ。普通に茄子を使った料理をたくさん出して来そうである。

 麻婆茄子、茄子田楽、茄子の揚げびたし、茄子のベーコン巻き、などなど。

 食べられるけれども、う~ん、あんまり美味しくないなと俺が感じる物を作る可能性が高い。

 まあ、別に苦手だとか嫌いだとかそう言うのじゃないので、出されても平気と言えば平気なんだがな。

 

「ぶっちゃけお前が作ってくれてるんだ。あんまり好きな料理じゃなくても平気だぞ?」


「っち。料理を盾にしてつんつんするのを辞めさせようと思ったのに効かないとは……。ぐぬぬぬぬ」


「悔しがれ悔しがれ。で、今日はどうすんだ?」


「お部屋のお掃除! 一応、毎日軽く掃除はしてるけど、そろそろ本格的な掃除を一回は挟まないとだもん。特にお風呂場がね~、水垢が結構酷いと思う」


「……あれか。昨日、良く落ちるという洗剤を買ったからか?」


「あははは、それもある~。んでんで、祐樹もお手伝いしてくれるよね?」


「当たり前だ。ま、片手しか使えないから戦力としてはイマイチだがそこは許せ」


「もちろん。ふっふっ~ふーん。お掃除、お掃除~っと」

 鼻歌を歌う涼香と俺は掃除を始めるべく準備を始めた。

 俺も準備をしようと思ったが、その前にトイレに行くか……。


「涼香。トイレに行ってくる。おそらく長めだ」


「いちいち、報告しなくて良いのに。ま、りょ~かい。先に掃除を始めてるね」


「ああ」

 トイレに行き用を済ます。

 宣言通り、長い時間を掛けて俺はトイレを出た。


 で、リビングに戻ったのだが、


「あれ? おかしいな」

 目の錯覚か? 

 掃除をする涼香の服が何故かメイド服に見えるんだが?


「おかえり~」


「た、ただいま」


「んふふ? 驚いた? 実は昨日、矢代先輩からメイド服を受け取ってたんだよ? えへへ、祐樹を驚かせたくて内緒で着ちゃった!」


「……」

 お茶目過ぎる涼香の行動が可愛すぎて声を失う。

 すると、涼香はもっと可愛くして来る。



「ねえねえ、可愛いって言ってくれないの? 私、メイドさんなんだよ?」

 




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