第58話ダイエットの意味なし!!!

「ただいま~!」

 うきうきで玄関を潜る涼香。

 矢代先輩に連れて行ってもらった倉庫型のお店で、良い買い物が出来たからだ。

 手を洗ってうがいをし、買って来たものを整理していく。


「パンがたくさんだ。これで、当分は困らない~っと」

 涼香はご機嫌そうに、少し小さめなパンがたくさん入った袋を取り出す。

 食べきれる量ではないので、小分けにして冷凍保存をしようって魂胆だ。

 そんな涼香を尻目に俺は冷蔵が必要なものを、冷蔵庫に仕舞っていく。


「でかい冷蔵庫を買って正解だったな」


「だね~」

 電気屋さんで買った冷蔵庫。

 二人暮らしだから一回り小さいのか、普通の大きさの物を買うかで悩んでいた。

 結局、涼香が自炊をたくさんしてくれるので、今となっては本当に大きな冷蔵庫を買って大正解である。

 

「よし。こっちは終わりだな」

 涼香がジップロックを広げて大量のパンを小分けにしている最中、少し小腹が減っている俺はひょいと一個をくすねて食べる。


「うまいな」


「ずるい!」


「お前も食べれば良いだろ」


「小分けしている最中に手元を口に近づけたくないんだもん。手につばがついちゃうかもでしょ?」

 なるべく清潔感を保つという意識から、手は口元に運びたくないらしい。

 個人的にはそのくらい気にしないが、涼香が気にするのなら仕方がないな。


「ほれ、口を開けろ」


「わーい。あむっ」

 口元にパンを運んであげると、嬉しそうに食べてくれる。

 なんか動物に餌付けするような気分だな。

 そんな失礼なことを考えながらパンを食べさせ続けていたら、


 ガブリ。


 指を齧られた。まあ、ちょっと痛い程度である。

 で、涼香は齧った後、少し怖い顔で俺の事を睨んで来た。


「なんか失礼なことを考えてる顔をしてたからね!」


「良く分かったな。動物に餌付けしてる気分だったぞ?」


「やっぱり!!!」


「悪い悪い。さてと、俺はどうせ小分けにして冷凍なんて片手じゃあ非効率。今日の晩飯を用意しとくか……」


「りょ~かい」

 涼香は小分けにして冷凍しやすくする作業。

 俺は買って来た晩飯をすぐ食べられるように、温めたり皿を用意したり色々とするのであった。






 15分後。

 涼香が冷凍庫に買って来たものを小分けして詰め終わった。

 同時に俺も晩飯の準備を終える。


「チキンの丸焼きが美味しそう!」


「これで、1000円を切るんだもんな」

 机のど真ん中に鎮座するのはチキンの丸焼き。

 手間を考えれば物凄くお買い得な一品であり、クリスマスシーズンは予約しなければ中々手に入らなくなるくらい人気らしい。

 そんなチキンの丸焼きに涼香はそーっと包丁を入れた。

 切り分け方をネットで見ながら、綺麗に切り分けて行く。

 引きちぎれる肉から溢れる肉汁と食欲を誘う良い匂い。

 あらかた綺麗に切り分けた後、涼香は我慢が出来なかったのだろう。

 油でベタベタな手でチキンの一切れをつまみ、口へパクリと運ぶ。


「ん~、美味しい。はい、おすそわけ!」

 美味しさを共感して欲しいのか、手で摘まんだ肉を俺の口元へ運んで来た。


「うまいな」


「だよね? ん~、ちょっとだけ舐めちゃえ」

 手についた良質な油がもったいなく見えたのだろう。

 涼香は手についた肉汁と油をぺろっと舐めた。


「ったく、幾ら美味しそうだからって手を舐めるか?」


「だって、こんだけギトギトしてるんだよ? 手に味が付いたかどうか気になっちゃうじゃん」

 

「まあ、確かにそうだ。俺もそんな手になってたら、興味本位で舐めたくなる」


「じゃあ舐める?」

 肉の匂いがする手をこっちに差し出してきた涼香。

 挑発ともとれるこの行動。どうせ舐めないだろ? と言う顔だ。

 ちょっとムカつく顔をする涼香の不意を突いて驚かせたい俺は、パンを食べさせた時のお返しで、舐めるどころか齧ってやった。


「えへへ、祐樹に食べられちゃった。でもさ、私を食べるならやっぱりベッドの上が良いんじゃない?」

 

「ったく、誘い上手め! ほら、馬鹿な事を言ってないで飯食うぞ!」

 馬鹿なことを言う涼香の頭をコツンと小突く。


「あたっ! 怒られちゃったし、手を綺麗にして来よ~っと」

 汚れた手を服につけてしまわないようにしながら台所へ行く涼香。

 一方俺は、サラダの蓋を開けたり、解体してくれたチキンを取り分けたりした。

 取り分けるのが終わると同時に、手を洗って来た涼香が戻って来たので二人で頂きますと口にする。


「いただきます」


「いただきますっと。祐樹。最初はもちろんチキンだよね?」


「てか、今日の夕飯はチキンとサラダだけだしな。そりゃあ、チキンからだろ」

 早速チキンに手を出す俺達。

 一口食べて二人して互いの反応を知るために話し始める。

 

「さすがモモ肉だよ。ほんとうにジューシーで柔らかい!」


「こっちは胸肉だが、全然ぱさぱさを感じないぞ?」


「え~、本当に?」


「ほれ、一口食ってみろ」

 俺が齧った胸肉を涼香に食べさせる。

 すると、涼香はもぐもぐと食べながら、もも肉の方を俺の口へ運んでくれた。


「ほんとだ、美味しい! ん~、こんなに美味しいとまた買いに行きたいよね……。けど車が無いと厳しいし……。という訳で、祐樹。手が治ったら、免許取り行こ?」


「確かにあのお店は車がなきゃ行くのは厳しい。まあ、アウトドアサークルの移動手段は基本的に車メイン。矢代先輩や山中先輩だけに運転させるのもあれだから、手が治ったら免許を二人で取り行くか」


「うん! 絶対に取り行こうね!」

 それから楽しく話しながら、チキンと買って来たサラダをお腹いっぱいになるまで食べ続けた







 1時間後。

 気が付けば、お腹パンパンに食べてソファーで苦しんでいた。

 そろ~っと涼香の膨らんだお腹に手を伸ばす。


「あ~私のお腹がポンポンかどうか確認しようとしてるでしょ?」


「っち。バレたか」


「まったくもう。祐樹にこんなだらしない体は直接見せたくないし、触らせたくないからだ~め!」


「そう言われると、どうしても見たくなるし触りたいんだが?」


「い~や~で~す~」


「っぷ。分かった。分かったって」

 ポンポンなお腹を俺に見せたくない涼香が可愛くて笑ってしまった。

 あ。

 ふと、今日の午前中に痩せるために運動したことを思い出してしまう。


「これからダイエットしようって思ってる癖に、食い過ぎだろ……」


「絶対、運動で消費したカロリーよりもたくさん食べちゃったよね」


「仕方ないだろ。美味しすぎるんだから」


「あれはしょうがないもん」


「じゃあ問題なしだ」


「うんうん。大丈夫、明日もちゃんと体を動かせば良いだけだし。今日食べ過ぎた分なんてすぐに痩せる。という訳でさ……あれも少しだけ食べちゃう? どうせ、もう食べ過ぎてるんだし、行けるとこまで行かない?」


「よし、じゃあ食べるか」


「おぬしも悪よのう」


「お前もな?」

 二人してにんまり笑った後、買って来た超巨大なティラミスを少しだけ食べるのであった。

 で、食べ終わった後も笑顔の時間は絶えずに続く。


「あはは、幸せ~。本当にもう何にも食べれない」


「ああ、そうだな」


「ねえねえ、祐樹。苦しいから、お風呂は明日で良い? もうお腹いっぱい過ぎて、何もしたくない……」


「今日は運動した後、シャワーを浴びてるしな。明日で良いだろ」

 満腹でもう何もする気が起きない俺達はベッドの上にドンと寝転ぶ。

 お腹が苦しくなくなるまで、ベッドの上で携帯を弄ったりしながら休んだ。


 そして、気が付けばいつの間にか二人して眠ってしまうのであった……。






 

 



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