第57話主婦っぽい涼香が可愛い
「わ~、おおきいね!」
「だな」
矢代先輩の運転する車でやって来たのは大胆な陳列方法で話題な倉庫型のお店。 食品から日用品、はたまたキャンプ道具、ゲームなどなど、バラエティー豊富な商品が並ぶ。
主婦力高めになりつつある涼香が、最近行きたいな~と言っていたお店だ。
お店に感嘆の声を漏らしていると、パチンとわざとらしくウインクを送って来る山中先輩。
分かってますって。
そう思いながら、俺は矢代先輩に言う。
「涼香と一緒にがっつりとした買い物をしても良いですか?」
「あ~良いぞ。そのつもりで連れて来たんだからよ。んじゃ、俺と山中でチュロスの取り置きだとか、良さそうな物を見るか……」
俺が涼香と一緒にとか言えば、結婚しているのを知っている矢代先輩は配慮してくれるのだ。
別れて涼香と行動したいだなんて言っていないのに、二人きりにしてくれる。
さすが、皆から気遣いの鬼と言われる男だ。
「あ、矢代ちゃん! 大きなクマのぬいぐるみ見て良いっしょ?」
「ったく、しゃあねえな……」
こうして、自然に二手に分かれる俺達であった。
で、まあ、あれである。
「んふふ」
「にやついちまうよなあ……」
「だよね~。ああいうの見ると、可愛く思えて仕方がない。」
乙女な山中先輩。
それを見てしまうと、どうもニヤっと笑ってしまう。
露骨に大きなクマのぬいぐるみを見たいとか普通に露骨だ。
「ふーん。山中先輩が可愛いんだ。あーあ。拗ねちゃうな~」
「もちろん、涼香の方が可愛いに決まってんぞ」
「わーい! んじゃ、そろそろお買い物を始めよっか」
馬鹿なやり取りを繰り広げた俺と涼香。
矢代先輩の車はミニバンタイプで三列シートなこともあり、そこそこ大きな買い物をしても大丈夫だとお墨付きを貰っている。
俺達が向かった最初の場所は……日用品売り場。
洗剤のお徳用とかがたくさん置かれている。心なしか安いぐらいの値段だ。
別のお店の特売日に購入した方が安そうな気もする。
そう、勘違いされがちだが、このお店は実は安いじゃなくて、豊富な品ぞろえと大量買いが出来るのが売りだ。
現に涼香の興味は普段売っているのを見ないような、洗剤類に向いている。
「祐樹。この洗剤が凄い落ちるって有名なんだよ?」
「お、おう」
「服のシミとか壁の汚れ、油汚れ、色んなのに使えるんだって!」
「……なんというか、着々と主婦化してるよな。お前」
「まあね~。で、で、この洗剤って海外と日本で売ってるもので微妙に成分が違うらしくて、ここに置いてあるのは海外工場で作られたやつで界面活性剤と香料が入ってるんだってさ」
涼香は楽しそうに話してくれる。
正直、何のことだかさっぱり分からんが、それでも俺は理解しようと、ちゃんと聞いては質問を返した。
歩み寄る事の大切さは実の両親を見て理解している
母さんが色々と話しているのに、父さんが興味なさげに生返事。
それが原因で、幾度となく喧嘩してるのを見て来た。
という訳で、俺はちゃんと涼香の言う事を聞き続けた結果。
「お買い物って楽しいよね!」
超ご機嫌になった。
カートを押している涼香の顔がず~っと晴れやかで、声も張っている。
それでいて、可愛らしい事を言ってくれる。
「祐樹! この洗剤があるから、いっぱいお洋服を泥んこまみれにしても平気だからね! 私が綺麗に洗ってあげる!」
「それは頼もしいな。が、しかし、お洋服を泥んこまみれにする様な、子ども扱いすんな」
「あははは、ごめんごめん」
日用品のコーナーを楽しく回る俺と涼香。
そんな時である山中先輩と矢代先輩が歩いているのを見つけた。
仲良さげに歩いているのだが、俺から言わせてみればまだまだである。
「山中先輩は相当頑張らないと無理だろうな」
「どういうこと? 結構、二人は仲良さげに歩いてるじゃん」
「いやいや、矢代先輩と歩くと誰でもあんな感じになんだよ。で、気遣いが出来る男である先輩は……まあ、モテる。けどな、誰とでもああだから、誰も告白まで行かない」
「もうちょい詳しく」
「誰とでもああいう風に歩けるんだよ。矢代先輩って人は。で、そのことに気がついて、自信を無くすんだよ。あ、私なんかその他大勢の一人なんだって」
「なるほどなるほど」
山中先輩と矢代先輩の行く末を見守るのは程々にすべきだ。
という訳で、涼香と俺は二人を追うなんてことはせず、普通に買い物を続けるのだが、二人の歩く様相は尾を引いた。
「好きな人か~。祐樹って、私以外に好きな人って居たことあるの?」
「おまっ。それ聞いてショック受けないのか?」
「平気平気。だって、祐樹が今、私の事が一番なのは分かってるしね~。んで、誰か好きな人は……居た?」
気にしないのなら話すとしよう。
というか、話したところで絶対に機嫌は悪くならないはずだ。
「いないな。ぶっちゃけ、お前が初恋の相手だと思う」
「初めてか~。うん、初めての好きな人か~」
「ちなみにお前はどうなんだよ」
涼香に好きな相手が居たら、正直に言うと普通に嫌だ。
独占欲バリバリな今。こんな事を聞くのは野暮かもしれないが、溢れる好奇心に逆らう事が出来ない。
「怖い顔~。安心して? 祐樹が初めて好きになった人だよ?」
「そうか」
「っぷ。何その顔。ねえねえ、そんなに私に好きな人が居なかった事が嬉しい?」
平静を装うも、どうやら装えていないらしい。涼香が俺の顔を見て笑ってくる。
変に意地を張っても良い事は無いし、ここは素直に認めるか。
「ああ、そうだよ。悪いか?」
「んふふ~。ううん。むしろ良い。祐樹が私の事が好き~って思ってくれてるのをいっぱい感じちゃうもん」
「お、あれ凄いな」
業務用のペーパーの山を見て驚いた俺は涼香に感想を述べる。
恥ずかしいのを誤魔化すための咄嗟な会話。そうとしか言いようがない会話であるのを、横を歩く涼香はもちろん気が付いている。
「あ、話題を変えようとしてる。恥ずかしがり屋さんだね~、まったくもう」
「そんなことを言うと帰ったら抱きしめてやらんぞ?」
「最近は祐樹の方が抱き着いて来るくせに。今日の午前、汗臭いから抱き着かないで~って言ったのに、抱き着いてきたじゃん」
お前も抱き着くのが好きな癖に~と言わんばかり。
ぶっちゃけると、めちゃくちゃに好きである。最近は、まだかまだかと言わんばかりに抱き着かれるのを待っているのは内緒だ。
だって、バレたら祐樹から抱き着いて? と催促が凄まじそうだし。
「じゃあ、今言った事は無しだ」
「あはは~、正直ものめ! うんうん、そういうとこ好きだよ?」
人がたくさんいて、品ぞろえが豊富な大きなお店を楽しい会話を交えながら、楽しむ俺と涼香であった。
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