第6話二人の夜

 気まずい夕食を終えた後、二人してコンビニに行くと言って外に出た。

 で、ある程度歩いた先で嘆く。


「超気まずかったんだが?」


「私の方が気まずかったんだけど? 何、祐樹の方がうちで暮らしてみる?」


「そ、それは勘弁してくれ。胃が持たない」


「はあ……」


「ふぅ~~」

 思うところが色々とありながらも、ゆっくりとコンビニへと向けて足を運ぶ。

 外は寒く、吐く息は白い。

 それにしても、本当に凄い事になってるんだよな……。


「ねえ、どこで私達、選択を間違えたんだろね」


「贈与税が掛かると勘違いした当たりじゃ無いか? あの時、冷静になってれば色々とやらかさなかったろ」


「あの時の私たちは、気が動転して頭おかしかった。うん、ほんとに」


「狂ってたよなあ……」

 これからの心労に耐えるために過去の事を愚痴る。

 マイナス思考に陥っているこの状況。

 少しばかり、ダメだと思い俺は思い切って動く。


「ほれ、手貸せ」


「ん?」

 差し出された涼香の手を握る。

 先ほどまでポケットに突っ込まれていた手はほんのりとぬくい。


「夫婦だからこそ、得られるメリットを探してみようぜ? 例えば、寒空の元、手がかじかんで仕方がない。でも、こうすれば暖かいだろ的な?」


「普通にポケットに突っ込んでた方が寒くないんだけど」


「……まあな」 

 握った手を離そうとしたのに、ギュッと涼香が俺の手を握る力が強まった。


「せっかくだしね?」


「だな」

 思いのほか、温かさを感じない手を繋ぐという行為を続けようとした。

 しかし、


「やっぱ寒いから辞めないか?」


「うん」

 どうやら、寒さには勝てないらしい。

 そりゃ、四六時中手を繋いでイチャイチャしたいカップルならまだしも、なし崩し的に夫婦になったんだからな。

 こんなもんだ。

 それから、少しばかり歩いてコンビニへと入る。

 家にいる事に耐えられなくて、わざわざコンビニへと来たわけで別に買うものなどないのだが……。

 何となく、適当にお菓子やらジュースを籠に入れてしまう。

 俺がうろちょろとコンビニの店内を歩いていると、いつの間にか涼香は居ない。

 どこに行ったんだ? と探したら、


「探したけど、売り切れてたよ」


「……あのなあ」


「だって、いざって言うときには必要じゃん」

 涼香がコンビニで探していたある物。 

 備えあれば患いなし。

 というか、備えておかねばならないものだ。


「確かに、お前的には必要か……。身を守るために」


「きもっ。ちょっと背筋が震えたんだけど……」


「おい。その言いようはないだろ。てか、お前は何も買わなくて良いのか?」


「ううん。買う。ちょっと待ってて!」

 さっさと目を付けていた商品を俺のかごに入れる。

 で、レジに持っていき会計を済ませた。


 今日はお腹は空いていないが、思いのほか美味しそうな新商品が出ていたのでたくさんだ。

 少しばかり重いレジ袋を手に店内を出た。

 ちょうど、コンビニを真ん中に俺と涼香の家は別れている。

 まさか、俺の家で同居し始めた事を忘れて、自分の家がある方に帰ら……



「あうっ。いきなり、フード掴まないでよ!」


「お前こそ、どっちに帰ろうとしてた」


「あ。いつもみたいに、自分の家に帰ろうとしちゃってた」


「だろ?」


「でも、フードを掴むことは無いじゃん。DVだよ、DV!」

 首が思いのほかしまったのだろう。

 ちょっと怒っている涼香のご機嫌を取るべく、レジ袋からチョコを取り出す。


「ほれ、これでも食べて機嫌を治せ」


「私の事、舐めてる?」


「物理的に舐めてやろうか?」


「……」


「悪い……。今のは俺が気持ち悪かった。許してくれ」

 ノリツッコミをして二人で楽しんで居る時だった。

 ご近所さんと出会ってしまう。

 で、二人とも仲いいわね~という凄い優し気な目で挨拶をされた。

 井戸端会議で俺と涼香が出来ていると言いふらされるに違ない。

 だって、ご近所さんの目すっごく良い目してたし。


「ドンドン逃げ道が無くなって来てる気がする」


「ま、まあ。大丈夫だろ」

 口ではそう言いながらも内心冷や冷やである。



 背中にびっしょりと嫌な汗をかいた俺達。

 母さんは俺達がコンビニへと行っている間にお風呂の準備をしていてくれた。

 涼香はお言葉に甘えて……と一番ノリでお風呂に。

 で、俺は部屋に戻って涼香がお風呂から上がるのを待とうとしたのだが、


「待ちなさい」


「母さん。急にどうしたんだ?」


「大事な話よ。一緒に住む。貞操観念は甘くなるはずよ。絶対に嫌な思いだけはさせちゃダメ。もし、涼香ちゃんに嫌な思いをさせたら……どうなるか分かってるわよね?」

 真剣な目だった。

 母さんの目は真面目そのものだ。

 恥ずかしいから笑ってごまかす。

 今この状況で、それだけは絶対にしてはいけない気がする。


「分かってる。涼香に嫌な思いは絶対にさせない」


「そう、それなら安心したわ」

 ほっとした面持ちに変わる母さん。

 それを見て、俺もホッとするのであった。

 お試し夫婦だからこそ、本当に慎重に行かないとダメだ。

 関係を持ったがゆえに、ズルズルと引きずったら、絶対に不幸になる。



 複雑な気持ちを抱えながら、自分の部屋へ。

 俺のベッドは小さく、二人で一緒に眠るとか寝返りすら打てない。

 よって、部屋に置いてある机を隅にどけて布団を敷く。

 なんで、敷く必要があるかは言わなくても分かるよな?


「一緒の部屋で寝るのは何年ぶりだ?」

 思い出に浸る。

 あれは、4歳だったろうか。

 外で遊び疲れた俺と涼香は家に入り、手洗いうがいを済ませ、おやつを食べた後、二人してうとうとしていたのか、お布団でお昼寝した。

 お昼寝から目を覚ますと、小さい涼香が横で寝て居たのを良い事に、なんとなく頬を引っ張ってみたり、鼻に指を突っ込んでみたり、いたずらした。

 そんな悪戯した相手と、また一緒に横になって眠るのだ。


「なんか感慨深いよな。さてと、俺も着替えの準備をして置くか」 

 涼香がお風呂から上がれば次に入るつもり。

 タンスから自分の着替えを出そうとしたのだが、なぜか涼香に貸したタンスの一角を開けてしまう。


「いやはや、下着もそうだが、女の子の服ってこんなのなんだな」

 ほうほうと顎に手を当て、涼香が着ている服を観察。

 年も年。

 可愛い系な服は激減しており、綺麗系な服ばっかりだ。

 興味本位で涼香の服をまじまじと見ていると、後ろから目を塞がれた。


「だ~れだ」


「涼香だろ?」


「正解! なになに、私の服が気になっちゃってたの?」

 面白いおもちゃを見つけた。

 爛々とした目で俺を弄り倒してくる。

 俺に非があるので、言い返せずに敗退。

 自分の着替えを持って、お風呂場へと向かうしかない。



「っと、パンツを忘れた」

 階段を降り、お風呂場に辿り着く寸前。

 パンツを持っていないことに気が付き、部屋に戻るとそこにはさっきの俺と同じような奴が居た。


「てへ? 私も気になっちゃった?」


「ま、先にお前の服が気になって覗いたのは俺だ。だがしかし、言わせて貰おう。俺を散々煽った癖に、そりゃないだろ」


「えへへ、ごめんね?」

 可愛らしく手と手を合わせて上目遣い。

 ったく、可愛いな、こいつ。とか思いながら、忘れたパンツを手にお風呂場へと戻るのであった。




 

 

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