第10話カミングアウト
卒業旅行先も決まり、入金も済ませた。
だいぶ先なのだが、受験が終わったばかりでみんな遊びたくて仕方がない。
卒業旅行を一緒に行くことになった男女。
普段は一緒に遊ぶとかは無いのだが、旅行に向けた準備と称して大型ショッピングモールへと一緒にお出掛けすることになった。
現地集合のため、俺と涼香は電車に揺られてショッピングモールを目指す。
そんな行くまでの間だ。
俺は悩みを正直に話そうと切り出す。
「あのな、涼香」
「あのね、祐樹」
互いに一緒のタイミングで話題を切り出そうとした結果、声が重なる。
涼香がお先にどうぞと言わんばかりな目だったので、先に話を切り出す。
「田中がお前の事を好きだとよ。だからさ、まあ、あれだ。言うな、言うな、言われてるけど、やっぱり結婚してるとまでは行かずとも、付き合っているくらいは言わせてくれないか?」
「アップルパイをいきなり買って来た時から、なんか隠してるなって思ったけど、そう言う事だったんだ」
「で、答えは?」
「あのさ、実は付き合っているとか言いふらす事はやめよ? っていう事に対して乗り気じゃ無かったのを覚えてる?」
そういや、バッサリと割り切っていた感じがしたな。
なんと言うか、強引? な感じだった。
「ああ、覚えてる」
「実は、美樹ちゃんが祐樹の事を好きらしいんだよ」
「え?」
「ほら、私なんて所詮、勢いで妻になっちゃっただけでしょ? そんな私じゃなくて、たぶん美樹ちゃんの方が祐樹の事を前から好きなわけでさ。私なんかよりも、美樹ちゃんの方がお似合いなんじゃ無いかな~って少し思った。だから、付き合っているなんて言わずに、美樹ちゃんには祐樹に対して、アプローチを仕掛けられるようにと、関係を隠すスタンスを取ろうとしてたんだよ」
長々とした言葉。
よ、要するに俺の事を美樹ちゃん。
もとい、金田 美樹が好きなわけで……。
自分なんかよりも、俺にお似合いだと思っている。
だからこそ、アプローチを止めさせるような行為である、夫婦である、または付き合っているというカミングアウトに乗り気ではなかったって訳だな。
「分かった。お前のスタンスは付き合っているとか、言わないつもりってわけだな。じゃあ、やっぱり田中には俺達が出来てる事を言えないのか……」
「ううん。違うよ。私も言うべきだって思った。最初に、あのね、祐樹。って切り出したのは、カミングアウトすべきだと告げるためだったから」
「なんでスタンスを変えるつもりになったんだ?」
「美樹ちゃんに失礼だと思ったから。やっぱり、どうあがいても私達が今は夫婦関係って事は変わらない事実でしょ? それを伏せたままにするのってなんかおかしくない? って思ったんだよ。だって、夫婦関係、もしくは付き合っている関係だと知ってたらさ、絶対に少なからず美樹ちゃんが取る行動は変わるでしょ」
「まあな。田中も、俺達が出来てると知っていれば、取る行動は絶対に変わると思ってる。だから、言うべきな訳で、お前に言っても良いか? って聞いてる」
「じゃあ、言おっか」
「ああ、言うべきだ」
二人して俺と涼香の関係を皆にカミングアウトすることを電車の中で決意。
とはいえ、カミングアウトするのはさすがに付き合っているとだけだ。
結婚までカミングアウトするのは色々と危険なので伏せることにした。
「はあ……。なんか、緊張して来た」
「俺もだ。いずれ、皆には言おうと思っていたが、まさか、もうカミングアウトするとは思っても居なかったぞ? てか、金田さんが俺の事を好きだったとか、驚きだ。お前的には、俺がお前と付き合っていると分かった上で、金田さんが俺にアプローチを仕掛けて来た場合、どうする気なんだ?」
「ちょっと前までは、祐樹には本当に好きな人と、仲良くなる権利があると思ってたから、止めなかったよ?」
「ま、なし崩し的な夫婦だしな」
「でも……」
「でも?」
「だいぶ本気になっちゃってるみたい。たぶん、全力で祐樹が誰かと仲良く成ろうとするなら止めるつもり」
恥ずかしさを誤魔化すがごとく、うっすらと笑みを浮かべている。
「お、おう」
「夫婦とかイマイチよく分かんない。でもね、祐樹は取られたくないな~って」
照れを感じさせる涼香が可愛くて仕方がない。
だからこそ、俺も言うべきだ。
「昨日、アップルパイを買って来た理由だけどさ。この前、お前が好きな人が出来た時、それを絶対に邪魔しないって言ったけど」
「うん、言ってたね」
「まあ、あれだ。だったら、好きな人が出来ないように邪魔しようという訳だ」
「よく分かんない。もうちょっと説明ちょうだい?」
口下手な俺。
本当に涼香には意図が伝わっていないようなのでよりハッキリとした言葉を使うことにした。
「他の人が好きにならない位に俺を好きになって欲しくて、アップルパイを買って来た。あれは、いわゆる好感度稼ぎってやつだ。どうやら、俺も夫婦は良く分かんないが、お前に対してだいぶお熱らしい」
「あは、あはは。もしかして、私達ってさ相思相愛になっちゃってる?」
「だろうな」
「えへへ。そっか。えへへ、そうなんだ」
照れっとした涼香。
そんな涼香と一緒に目的地であるショッピングモールへと向かうのだった。
そして、たどり着いたショッピングモール。
どうやら、俺達が最後に着いたらしい。
「なあ、みんな。俺と涼香から少しだけ話しがある」
「ちょっと聞いて貰って良いかな?」
なんだなんだと皆は俺らの方を向く。
息を大きく吸って、カミングアウトした。
「実は、俺と涼香は付き合ってる」
ある意味当然とも言える反応が返って来た。
「ちょ、冗談きつすぎ~」
「おいおい、開幕冗談とか笑わせてくれるぜ」
「ったく、嘘は良くないぞ?」
「二人とも冗談はやめてってば」
信じていないのが目に見えるわけで……。
涼香が俺に続いてはっきりとした声で言った。
「ううん、本当だよ」
涼香の真剣な眼差し。
それが事実だと周囲に知らしめる。
徐々に冗談だろ? という雰囲気から真剣な雰囲気に変わっていく。
「え、まじなん?」
「いや、ガチなのか?」
「おいおい、マジか」
「うわ~、マジか」
俺は恐る恐る田中の反応を見る。
すると、目が合う。
目が合うと、俺に向かって少しもの悲し気にしながら告げる。
「正直に言うと、もうちょっと早く言ってくれよ。でも、まあ。正直、もっと後に実は付き合ってました~とか言われてたらぶん殴ってた」
「悪い」
「いんや。お前は悪くない。俺の方こそ悪いな。付き合ってる事って、人によっちゃ、あんまり周囲に言いふらしたくないだろ? 俺がお前に三田さんの事が好きだって、打ち明けたから言ってくれたんだよな。正直、俺的には嬉しい。本当は俺達に付き合っているなんて言う必要なんてなかったのによ」
田中。
お前、ほんと良い奴だよな。
決めた。こいつが金に困ったら、絶対に貸す。
そして、涼香は金田 美樹と対峙していた。
「涼香ごめんね。私たちに付き合っているって、言わなかって事は隠したかった理由があったんでしょ?」
「ううん、私の方こそ祐樹の事が好きだって言われた時に、言うべきだった」
「馬鹿っ。そんなわけないじゃん。今、言ってくれただけで十分だっつうの」
打ち明けた後、少しだけギクシャクはしたがさほど大きな問題にはならずに済んで何よりである。
そして、みんなで楽しくショッピングモールを練り歩いて楽しむのであった。
ところ変わって、とあるファミレス。
ショッピングモールを楽しんだ後、最寄り駅が近い、金田と田中は、似たような境遇から意気投合して愚痴を言い合っていた。
「くっそ。あいつらにも付き合っていると言えなかった事情があるだろうにな。俺の所為で、言わせちまった……。付き合っている事を黙ってるなんて、普通にある事なのによ」
「私もそう思う。涼香が付き合っている事を言う、言わないは自由なのにさ。私のせいで言わせちゃったみたいで罪悪感が凄い」
「あ~、でも三田さんがあいつと付き合ってるとか、本当にショックだ」
「好きな人に付き合っている人が居るとか、やっぱキツイものがあるよね~」
失恋仲間である田中と金田は語らった。
そして、これがきっかけで二人は仲良くなっていくのは別の話だ。
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