第11話恋人にすら遠く及ばない二人

 涼香と付き合っている関係だとカミングアウトした日から2週間。

 田中に呼び出されたので、校舎裏に向かう。

 そこには、田中以外にも、金田さんと涼香も居た。


 色々とあった者たちだけの集まり。

 先に口を割ったのは田中と金田さんだった。


「俺達。付き合うことになった」


「ん?」


「へ?」

 意味が分からない顔を浮かべる俺と涼香。

 それもそのはず、まったく意味が分からないのだから。


「実はさ、あの後……」

 金田さんの口から語られた、付き合い始めた理由。

 それは、俺達のカミングアウトした後、愚痴を言いあったことがきっかけで、思いのほか仲良くなった。 

 2週間という短い期間だが、高校生活も残りわずか。

 二人とも通う大学は違う。

 このまま疎遠になるのは嫌だ。

 という訳で、思い切って付き合い始めたらしい。


「お前たちには感謝しかない。お前たちが居なかったら俺は美樹と付き合えてなかったからな」


「うん、田中っちと私は、二人が居なかったら結ばれなかった。ほんと、感謝の極みってやつ?」


「……お、おう」


「そ、そうなんだ」

 なんと言うか、思いもしていない事態にうまく頭が回転しない。

 どうして、目の前にいる二人はこうなってるんだ?

 

「てか、悪いな。付き合い始めたこと、本当は言いたくなかったんだろ? なのに、言わせちまって。でも、マジでありがとうだ。お前らの勇気あるカミングアウトのおかげで美樹と付き合えたんだからな!」


「そうそう。涼香達には、ほんと感謝してる」

 物凄い早さで恋人になった二人に、呆気に取られる俺と涼香。

 いや、まあ、俺達の早さには勝てないだろうけどさ。

 付き合い始めた二人は俺達に提案する。


「という訳で、お前たちのおかげで付き合う事が出来た。だから、お礼として、ダブルデートしようというお誘いをするために、この場に呼び出した」

 田中が飛んでもない事を言って来た。

 処理が追い付かなくなってきた俺達は生返事を返してしまう。


「う、うん」


「あ、ああ」

 返事を聞くや否や、間髪を入れずに田中が言った。


「んじゃ。これから、繁華街に行こう。何か、奢らせてくれよ」


「涼香。私も涼香に奢るね?」

 流れるまま、俺達4人で繁華街に向かう。

 前を歩くは、田中と金田さん。

 なんと言うか、凄くお熱いカップルで手を握りながら前を歩いている。


「あ、あれが、本当の恋人なんだな」


「そ、そうだね」

 今まで俺達がしていたことが、恋人ごっこに近い何かだと分からされた。

 だって、こんなにも寒いのにポケットに手を突っ込まず、手を握り合うとかお熱い関係だとしか、言いようがない。


「てか、お前ら。付き合ってるのに、手すら握らないのか?」


「まあまあ、田中っち。手を握らないカップルもいるって」

 涼香と俺との仲を否定された気がしたので、二人の熱い手の握りを真似するかのように俺も涼香の手を握る。


「やっぱ、ポケットの方が良いよな」


「うん、寒い」

 外で手を繋ぐという行為が絶望的に向いていない俺達。

 それでも、前の二人を見て、今までの俺達が恋人ではなかったかのようで、仕方が無く思えてきたので我慢して手を繋ぐ。

 

 4人で繁華街を練り歩くという体裁だったはずだ。

 しかし、気が付いてみればどうだ。

 前行く二人は俺達の事なんて、まるで居ないかのように、二人の世界を展開しているでは無いではないか。


「あ、あれが恋人……」


「わ、私達って好きになってはいるものの、まだ恋人にすら到達してないんだね」

 前の二人に聞こえないようにそんなことを話していると、二人が美味しそうな今川焼が売っているお店の前で立ち止まる。


「なあ、お前ら。奢るのはこれで良いか?」


「涼香もこれで良い?」

 俺達のおかげで付き合い始めた二人は今川焼を買ってくれるらしい。

 どちらかと言うと、俺達はあいつらに悪い事した側なのに不思議な気分だ。


 俺があんこで涼香がカスタードの今川焼を受け取る。

 人通りの少ない繁華街と言えど、食べながら歩くのはいまいち。

 お店から少し離れた隅っこで今川焼を食すことに。


「田中っち。それ、食べたい!」


「ん、しょうがない」

 自身の食べているカスタード味の今川焼を金田さんの口元に運ぶ。

 田中は田中で金田さんから、あんこがたっぷり詰まった今川焼を、口元に運んで貰っていた。


 そんな二人に対して俺達はどうだ?

 今川焼を普通に半分に割って、交換し合っているだけだ。


「俺達も、ああやって分け合うべきだったのか?」


「そ、そうなの? あれはただ単に、二人がバカップルなだけじゃない?」

 大人しく二人を眺めていると、田中の口元に着いたあんこを指で掬う金田さん。

 そして、あんこを掬った指をそのまま口元に運んでパクリ。


「もったいないから食べちゃった。てへ?」


「そう言う。お前こそ、口元にカスタードが一杯ついてるんだよ。ほら、拭いてやるから顔をこっちに向けとけ」

 女子力高めな田中はポケットからティッシュを取り出し、優しく優しく金田さんの口元を拭いていく。

 そんな光景を呆気に取られ静かに見ていた俺達に気が付いた田中と金田さん。


「どうしたんだ? お前ら」


「どうしたの? 二人とも」


 心配そうに話し掛けられてしまう。 

 で、まあ。

 俺達が全然恋人になり切れていない事を言えるわけもなく二人して取り繕う。


「何でもないぞ?」


「何でもない」

 俺達は相思相愛だね? と言いあったのにだ。

 まだまだ恋人未満であったことに気が付いてしまう。

 前行く、田中と金田さんというカップル。

 それに比べて俺達は夫婦だというのに、それにすら遠く及ばない。

 で、まあ。

 繁華街を4人で練り歩くこと1時間ちょい。

 良い時間なので、お別れすることに。

 今回遊んだ駅は田中と金田さんの最寄り駅。

 二人は電車に乗らずに、それぞれの家路へと着くのを、見守ってから俺達は電車に乗ろうと思っていたちょうどその時、


「田中っち。ちゅー」


「ったく、仕方ないなあ」

 公衆の面前で軽いキスをした。

 それから、名残惜しそうに別々の道を歩く二人。


「いや、あれはさすがにバカップルだな」


「うん、あれはさすがにバカップルでしょ」

 とはいえ、恋人同士。

 キスするのは普通なのだが、


「そういや、俺とお前ってキスしたこと無いよな。なのに、夫婦っておかしくね?」


「だよね。ゆっくり、ゆっくりと私たちのペースで仲良く成ろうとか思ってたけどさ、このままだと私達、一生ゴールしないかも。いや、ゴールしてると言えば、ゴールはしてるんだけどね」

 改めて恋人と言うものが、どういうものかと知った俺と涼香は、妙な気分に陥るのであった。



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