第25話ベッドの事は置いといて

 ベッドの事はひとまず忘れ、部屋の片づけを再開。

 机を組み立てるだけで気が付けば、お昼時だ。

 俺と涼香は部屋を出て、コンビニへと買い物に出かけようとしたが、


「コンビニじゃ無くてスーパーじゃない? あまりにも食材が無さ過ぎるし」

 

「だな」

 手軽なお買い物ができるコンビニではなく、スーパーへと足を運ぶ。

 色々と買い置きしておいた方が良いものを、すべてコンビニで買うのはお金が掛かり過ぎる。

 卒業旅行後。

 涼香と俺はお金の使い道をよく考えた。

 結果、贅沢はしない。なるべく普通に暮らすと決めた。

 宝くじ以外でお金を得られる手段が無い限りは、節約生活とまでは行かないが、普通の生活を送ろうという訳だ。

 月の生活費も決めてある。

 具体的には食費に掛けるお金は一人当たり月3万円と決めてるのだ。

 1日約1000円。

 厳しくないとは言えないが、まあやっていけるであろう金額? であり、一人暮らしの大学生の食費として調べたところ出てきた数字をそのまま使ってみた。

 一人暮らしをした事が無いため、全然適性の相場が分からないので、これから少しづつ詰めが甘い所を詰めていく予定だ。

 

「取り敢えず、カップ麺を買い置きと……飲み物。後は何かある?」

 物思いに耽っていたら、横を歩く涼香に話し掛けられたので、返答を考える。

 真っ先に買っておくべき食料……、


「レトルトカレーだな」


「あ、それ良いね!」

 手軽さは武器だ。

 それこそ、自炊はするつもりだが、毎日のように作るのは厳しい。

 三食全部作るのは絶対に面倒くさいに決まってるし出来ないだろう。


「そう言えば、祐樹とスーパーに行くなんて、小さい時以来かも」


「いや、文化祭の時、業務用スーパーに買い出しで行ったぞ?」

 

「言われてみればそうだね。文化祭の時かあ~」

 ふとしたきっかけで過去を懐かしむ。

 文化祭、俺と涼香の所属するクラスではフルーツポンチを出した。

 フルーツポンチの白玉は出来合いの物しか使えないので、業務用スーパーで売っていた冷凍のを使った。

 その買い出しに涼香と二人で行かされたのだ。


「そういや、サッカー部の先輩がやっているアウトドアサークルでも模擬店を出すって言ってたな。っと、スーパーに着いたが、生ものは買うなよ?」


「あ、冷蔵庫が来るのは明日だもんね」


「そう言う事だ」

 スーパーの自動ドアを潜り買い物を始める俺と涼香であった。




  



 買い物袋を手にした俺と涼香が戻って来た新居の玄関。

 ポケットに入っている鍵を取り出して中へと入るのも、まだ慣れない。


「ふ~。さてと、買って来たお弁当を食べたら片づけを頑張らなきゃ!」


「悪いな、俺が両手を使えればもう少し早く済ませられるってのに」


「気にしないで良いって。あ」


「ん、どうした?」


「スプーン無いじゃん!」

 右手を怪我し、左手で食べる手前、フォークかスプーンが手放せない俺。

 引越しを始めたばっかり。

 あらかじめ通販で買った食器類が届くのは明日なわけで……。


「ま、コンビニで適当に売ってるプラスチックのスプーンか、何か買ってスプーンを貰ってくれば良いだろ」


「え~、詰まんないな~。最近、祐樹が素っ気ないから食べさせてあげようって思ったのに」


「お前、そんなキャラだったか?」

 もはや俺を甘やかすのに、何の躊躇いも無くなった涼香にはまだ慣れない。

 まあ、慣れないだけで嫌じゃないんだがついつい本当に目の前にいる女の子が幼馴染だった涼香か疑いそうになる。


「ほほう。それは、幼馴染バージョンの私がお好みという訳かな?」


「いや、そういう訳じゃ……」


「まあまあ、物は試しって事で」

 お弁当の蓋を開けて、割りばしを割り、ご飯をつまんで俺の口に運ぶ涼香。


「……なるほどな」

 幼馴染バージョン。

 それは、あんたなんかのために、なんでこんな事をしなきゃいけないんだ? という冷たい態度のようだ。

 確かに、恋人になっていなかったら、食べさせてくれる時、こんな感じだったろうな。

 

「早く食べな?」

 グイグイとご飯をつまんだ箸を俺の口にあてがう。

 仕方がないのでパクリと口に含む。

 咀嚼を終えて、もう満足したか? と言いたかったが、間髪入れずに俺の口元へご飯を運ぶ。


「あーあ。なんで、祐樹にこんな事しなくちゃなのかな~」

 文句を垂らす。

 これまた、幼馴染だったら絶対言ってたはずだ。


「……演技力高いな」


「でしょ? さてさて、ご飯に時間を使うのは勿体ないし、コンビニでスプーンを買って来よっと」

 俺が行くと言う間もなく、涼香は近くにあるコンビニへと駆けて行く。

 そんな間に、俺は涼香に対してちょっとした悪戯を仕掛けて見ることにした。


「あいつ鍵を持ってかなかったな。よし、閉めてみよう」

 玄関の鍵を閉めた。

 数分後、ガタンと玄関が動く音した後、インターホンが鳴らされたので玄関を開ける。


「カギ閉めるとか酷くない?」


「悪い。悪い。ちょっとした出来心だ」


「意地悪さんには、デザート買うついでに貰った大きいスプーンはあげないよ?」

 玄関で仁王立ちし、ぷんぷんとした風に言ってきた。

 実際はそこまで怒ってないのは分かってるが、わざとらしく俺も平謝りする。


「悪かったって。な? この通りだ」


「えー、それで許して貰えると思ってるの?」


「っく、じゃあ今度、ご飯を奢る」

 食費も決めた。

 贅沢できる金額ではない中、涼香にご飯を奢ると言う。


「うんうん。その心意気や良し。今回は許してあげよう!」

 偉そうにしながら、涼香は玄関から部屋に戻る。

 そして、涼香が部屋に入ったのを見届けた俺は玄関のドアを閉める。


「引っ越し祝いだ。今日は焼肉に行くか」


「引っ越し祝い。豪勢に食べよっか! あ、普通に怒ってなんてないし、私に奢らなくて良いからね?」

 この引っ越しは悪い物じゃ無くて、良いものだ。

 祝うべきなのは間違いない。

 お弁当を食べた後、焼き肉を楽しみにしながら、着々と部屋の片付けを進めていく俺達であった。


 

 




 





 

 

 

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