第26話セミダブルベッドで迎える朝!
「ふ~、お腹一杯だよ」
ポンポンとお腹を満足げに叩く涼香。
服の上からでもちょっと出ているので、優しく触ってみた。
「中々にポンポンだな」
「祐樹さ~、そういう風にさりげなく体に触れるとかセクハラだからね?」
素っ気なくお腹を触っていた手をどけながら、冷ややかな視線で怒られる。
「お、それは幼馴染バージョン。実際、セクハラとか思って無いんだろ?」
「っち、騙せなかったか……」
「てか、なんで騙そうとしたんだ?」
「理由はないよ? ただ単に祐樹はどうなるかな~ってだけ。うっぷ……」
お腹一杯で話すだけで苦しいのか、涼香はえずく。
付き合いが長いからこそ、遠慮なく食べて食べ続けたのは事実だ。
ついつい、感慨深くなってしまい、小さく独り言をこぼす。
「遠慮が無いとこが一緒に居て楽しいんだよなあ……」
「ん? なんか言った?」
「このままだと、涼香はぷくっと太りそうだなと言っただけだ」
漏れ出た独り言を聞かれた。
それをありのまま伝えるのは、少し気恥ずかしいのでぼかしてしまう。
「っく。そう言う事を言わないでよ! 最近、ちょっと太って来たな~って感じてるのに……」
「そうか? 俺の目には同じに見えるぞ」
「ううん。絶対太った。学校に行ってないでダラダラしてたせいで、だいぶお肉が付いた。ちなみに祐樹は私が太っても平気なの?」
「さあ?」
多分平気だろう。
だって、別に体とかそう言うのを見て好きになったんじゃないのだから。中身が好きでこうして一緒に過ごしているのだ。
とはいえ、ぶくぶくに太られても健康面が心配だし曖昧な返事をしとこう。
「そこは、どんな君でも愛してみせる! とか言うべきなんじゃない?」
「俺的には今の涼香の体系がドストライクだからな。そんな陳腐な事は言わん!」
「ひっど。じゃあ、私も言っちゃうもんね~。祐樹がデブったら、ちょっと素っ気なくなる!」
ちょっと素っ気なくなる。
嫌いになるじゃ無くて、素っ気なくなるとか俺の事が好き過ぎじゃ無いか?
って思わせるとか反則だろ……。
「いたっ! なんで、おでこをツンってしたの!」
「なんとなくだ」
「えー、絶対何となくじゃないでしょ。教えてって」
「まあまあ。落ち着け、食べ過ぎたんだから大人しくしとけ。な?」
「まったくもう……。にしても、二人で焼き肉って初めてだった気がする」
家族ぐるみでたまにご飯を食べに行くことが多かった。
それこそ、小学校の時なんて結構一緒に食べてた気がする。
けど、二人で一緒に焼き肉は行ったことが無い。ファミレスとかは試験勉強の時、一緒によく行ってたんだけどな。
「世の中、初めてだらけだろ。そんなの気にしてたら身が持たん。あれか、涼香は何かあるごとにカレンダーに何とか記念日! とか書く気か?」
「あはは、そこまでしないって」
「ちなみに次の記念日的な日はいつだったか?」
「大学の入学式じゃない?」
「だな」
春とはいえ、少し夜風が冷たい中、俺と涼香は新しい家へと帰るのだった。
聞きなれないガチャリという音が響く。
引っ越してきたのを感じさせる鍵が開いた音だ。
「ただいまっと。祐樹、お風呂入るでしょ? 沸かしてくるね~」
「じゃあ、俺はシャンプーとか用意しとく」
「おっけー」
去っていく涼香を見ながら、俺はシャンプーなどが入ったビニール袋を探し出し、中から使いそうなものを取り出していく。
洗顔料、シャンプー、リンス、ボディーソープなどなど。
それらを取り出して、お風呂場へと持って行き、使いやすい位置に並べるのであった。
なんやかんやで、お風呂が沸いた。
俺は怪我している手にビニール袋を付けて貰い、お風呂場へ。
新しいお風呂用の椅子に腰かけ、頭を洗ってくれる涼香を待ちぼうけ。
いつもなら、ビニール袋を付けた後、俺に付き添って来てくれるのに。
「お待たせ! 濡れたくないから、短パンに履き替えて来た」
「なるほどな。実家じゃないし、短パンに履き替えても怪しまれないか」
「でしょ? いや~、正直、祐樹の体を洗ってあげてる時、服が濡れないようにが面倒だったんだよ」
「俺的には短パンじゃなくて、水着を着てくれても嬉しかったんだが?」
「このスケベさんめ。まあ、良いけど、今度ね?」
「今日は駄目なのか? 家から水着も持って来てんだろ?」
「今日はお腹ポンポンで見せられたお腹じゃないからだ~めっ! はい、背中向ける!」
強引に背を向けさせられて、やや強めに背中をスポンジで擦られるのであった。
体を綺麗にされてお風呂でゆったりと浸かる。
で、そろそろ、一大事が待ち受けていることに気が付いてしまう。
「ベッドが一つ……」
ダブルベッドならまだしも、セミダブルベッド。
たぶん、意識しない距離で寝るのは難しいに違いないわけで……。
「ま、まあ。なる様になるか」
と思ってた時もありました。
涼香と俺は一つベッドの上。
セミダブルベッド。
ぎちぎちではなく、俺と涼香の間には30cmぐらいの隙間がある。
以前、俺の部屋のベッドで一緒に寝ようとなった時に比べればまだマシだが、
「……」
「……」
気まずい。
互いにベッドの上でそわそわとしているのが良く分かるくらいに。
しかし、なぜだか、ちょっとづつ距離を詰めて来る涼香。
「す、すずか?」
「ねえ、祐樹。そろそろ良いんじゃない?」
熱くなっていくのが分かる。
それに身を任せ、俺も近づこうとするのだが、
「用意してないのはさすがに不味いだろ」
馬鹿じゃない。
用意無くして、色々とするのがリスクがある事くらい分かってる。
「ううん。準備はしてある」
い、いつの間に?
そういや昼間、俺のスプーンを貰いにコンビニ行ってたな。
もしかして、その時……。
「涼香……」
そわそわと背を向けるようにしていた俺は涼香の方を向くのだが、
「やっぱ今日はなし!」
恥ずかしそうに背を向ける涼香。
さっきまで、受け入れムードだったのに一体どうしてだ?
「な、なんか悪い事でもしたか?」
「だって、焼き肉食べて祐樹も私もたぶん口がニンニク臭いんだもん……。あと、ポッコリお腹が……」
「あ、ああ」
「だからごめんね?」
口の匂い。ポッコリしたお腹。
それを気にして背を向けるとか、凄く可愛いんだが?
っく、否応なしに襲いたくなってきた。遠慮せずに襲ってしまいたいのだが、
「そう……だな」
左手しか使えない今。うまく出来るかどうか分からないわけで……情けない姿は見せたくない。
普通に男としてリードが出来そうにないのは嫌だしな。
が、しかし。
それでも燃え上がった火は中々消えず、悶々として眠れないのであった。
ちゅんちゅんと雀が鳴く中、目覚ましが鳴る。
それを止めて、二人して顔を合わせる。
「祐樹は寝れた?」
「少しだけな。そっちは?」
「少しだけしか寝れなかったよ」
「っぷ。なにやってんだか」
「あはは、ほんと、なにやってんだろね」
馬鹿みたいな光景に頬を緩ませる。
それから少しの間、ベッドの上で話をして楽しむ俺達。
こんな朝も悪くない。
さて、今日も一日頑張るとしますか……。
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