第24話お引っ越しは問題だらけ!?

 卒業旅行。

 別に何かが起きるわけでもなく、普通に二日目も楽しんで数日が経った。

 思い出として記憶に残る中、俺と涼香は自分たちの部屋へ目を向けている。

 

「ま、あんまり荷物を持ってかないし、こんなもんか」

 見慣れた自分の部屋。

 引越しに向けて、綺麗にした。

 実家という事もあり、すっからかんにする必要のないせいか、風景はそう変わらない。


「実感が沸かないよね~」

 横に居る涼香もそう言うくらい。

 本当に掃除して、ちょっと机の上を掃除したり、服を整理したり、本当にそれだけなのだから。


「さてと、そろそろ行くか」


「うん、行こっか」

 実家から別に遠くない場所にあるアパートへ向かう。

 電車で1時間くらい揺られて着いた新居。

 不動産屋で各種書類と鍵を受け取って、もうは入れる状態だ。


「お、おじゃましま~す」

 恐る恐る、部屋へ入る涼香。

 そして、俺も恐る恐る部屋へ入る。

 契約する前に見た事のある部屋だというのに、それでもなお緊張だ。


「ここで暮らすんだ……」


「ああ、ここで暮らすのか……」

 二人して目を合わせた。

 数秒も経たないうちに、二人とも顔をふっと綻ばせて朗らかに笑う。


「ったく、どうしてこうなってんだ?」


「まったくだよ」

 こんな事になるなんて、数か月前の俺達は思いもして無かったのだから。

 笑いが込み上げて来るのもおかしくないだろ?

 何もない部屋。俺は何を思ったか床に寝そべった。


「やっぱり、親元を離れて暮らすのってなんか不思議な気分だ」


「よいしょっと」

 同じく床に寝そべる涼香。

 この行為はまったくもって意味の無いことだろう。

 意味の無い事をしながら、俺と涼香は晴々した気持ちで語らった。


「これからだね。ふふっ、ちょっと、楽しみかも」


「ああ、まったくだ。お前と同居とか最初どうかと思ってたが、今なら言える。普通にありだってな?」


「そっか。そっか。ねえ、祐樹」


「ん?」


「これからよろしくね?」


「こちらこそ、頼んだ。ほら、まだ手がこんな感じだしよ?」

 未だ治らない右手を掲げてそう言った。



 



 さて、新居で意味も無く寝っ転がって居られるわけもなく、部屋に次々と荷物が届く。

 まずは家から送った荷物。

 家具はほとんど部屋に置きっぱなし。それゆえ、引っ越し業者を使うまでも無い量だったので宅配便だ。

 それらを受け取ると、今度は家具の配送が来た。

 気軽に動かせるようなカラーボックスが複数個と机、テレビラック、その他いろいろ。

 そして、ベッドだ。


「ちょっと待ってください。ベッドは頼んで無かった気がするんですけど……」

 ベッドは買わなかった。

 だって、涼香と一緒に寝るとか普通になんというか、もうちょっと仲良くなってからで……という感じで日和った。

 だから、当分の間は布団を敷いて寝る予定だったのだが、なぜだかベッドも一緒にやって来た。

 誤配送ではないか? と思って、配送業者に訊ねると……


「依頼主が父さんの名前だと?」

 一瞬で分かった。

 父さんと母さんに、入荷待ちベッドは当分買わないで布団にすると言った際、不自然に思われないように、通販サイトでたまたま入荷待ちになっているセミダブルというサイズのベッドを見せた。

 で、だ。

 おそらく、入荷待ちが消えていたのか、実店舗に行って在庫を確かめ、その時に買えたから買って、俺達に送ってくれたのだろう。

 好意を無下にすることなど出来ず、結局、ベッドを部屋に運んで貰った。

 配送業者の人にありがとうございました、と挨拶をして部屋に戻った俺は携帯を取り出して、電話を掛けた。


「母さん? あれはなんなんだ?」


『ああ、ベッドの事? あなた達がこれが欲しかったけど、在庫切れで買えないんだ~とオンラインショップの画面を見せながら言われたじゃない? こういうのって、意外と実店舗の方に行くと在庫がある場合が多いのよ。そこで、お父さんと見に行ったら、あったから頼んでおいただけじゃない』

 当たっていた予想。

 まあ、ベッドは来たが布団があれば涼香と一緒に寝る必要なんてない訳で……。

 ん? 待った。


「ちなみに母さんと父さんが同居記念に買ってくれるって言ってた布団一式はどうなったんだ?」


『嘘よ。買えなかったベッドが届くサプライズのために私が吐いた嘘。だから、そもそもお布団一式なんて買ってないわ。あ、さすがに掛け布団は送ってあげたわよ?』


「お、おう。そ、そうなのか……」


『さてさて、長話はまた今度。ちゃちゃっと、部屋を片付けちゃいなさい。それとも、私が手伝いに行っても良いのよ?』

 母さんは今日は仕事が無い。

 部屋の片付けを手伝ってくれると言っていたが、丁重にお断りした。

 だって、なんか二人でこの部屋で一緒。良いわね~って感じでウザそうだし。


「分かった。分かった。取り敢えず、また夜に電話する」


『ええ、そうね。じゃあ、またあとで』


「ああ、また後でな」

 通話を切った。

 リビングで話していた俺は涼香を探したが、見当たらない。

 寝室に居るのかと思い、覗くと……ボヨンボヨンと柔らかいベッドのマットレスで楽しそうに跳ねてた。


「お前は子供か?」


「えへへ、だって、楽しいんだもん。祐樹もマットレスの上で跳ねて良いよ?」


「さてと、お前に大事な話がある」


「ん?」


「母さんがくれると言った布団一式は来ない。よって、寝具はそこにあるセミダブルベッドと、それ用の掛け布団のみだそうだ」


「……」 

 普通のダブルベッドであればまだ良かった。

 ただでさえ、一緒に寝るのが恥ずかしくて避けてきた俺達。

 そんな俺達は果たして、無事にダブルベッドよりも一回り小さいセミダブルベッドで夜を明かす事が出来るのだろうか……。



 早速だが起きた問題に、二人して固まるしかないのであった。

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