第33話1章エピローグ

 小鳥のさえずりが響く中、目を覚ました涼香に話しかける。


「おはよう」


「うん、おはよ~。えへへ、昨日の誕生日は最高だったよ? ありがとね?」

 

「でも、悪かったな。バイトでだいぶお前に不安させてたみたいだしよ。今度から気を付ける」

 昨日の夜。

 俺が右手が治ってないのに、バイトする意味がイマイチ分からなかった涼香は、不安を抱えていたと言われた。

 言われてみれば、俺だって涼香に似たような事をされたら不安になる。

 今度からは気を付けようと思い謝った。


「そうだよ。不安だったから、ぎゅーってしてくれても良いんだよ?」

 調子に乗ってぎゅーと抱き着かれるのを所望されるも、馬鹿言うんじゃないと脳天に軽くチョップして俺は言う。


「今日はどうすんだ? 俺的にはこういう風にイチャイチャとするのもありな気がするが……」

 土曜日。

 今日は講義がないので、どうするかを涼香に聞く。


「ん~、あ、そうだ。さすがにそろそろ一回くらいはお母さん達に顔を見せよ? 昨日、お母さんから、暇ならそろそろ顔くらい見せに帰ってきなさい~ってメッセージが来てたし」


「それもそうだな」

 俺と涼香。

 二人で暮らし始めて大体2週間とちょっとが経った。

 そろそろ実家に顔を出して、近況報告をしなくちゃなダメだと思っての里帰りを提案される。

 俺と涼香が住んで居る部屋から実家までは電車ですぐに行けるしな。


「さてと、まずはお前んちだな」

 俺の家は後回し。

 取り敢えず、涼香の実家である三田家に顔を出すことにした。

 ちなみに、帰る事はもう連絡してある。


「ただいま~」

 涼香はガチャンと玄関を開けて、家に居るものに帰りを知らせる。

 すると、ドタバタと走って来る音が聞こえる。



 そして、涼香の横を通り抜けて俺に抱き着いて来た者が一人。


「おとーさん! えへへ、ひさしぶり~」

 ギュッと俺に抱き着くは4歳ぐらいの女の子。

 そして、顔は涼香に似ている。



 どうやら、俺と涼香。

 結婚も早かったが、子供が成長するのも早いらしい。

 どう見ても、涼香の血を引いて居そうな女の子が俺達の子供じゃないわけないだろ?

 ま、実際は違うがな。


「久しぶりだ。裕香(ゆか)ちゃん。でも、俺は裕香ちゃんのお父さんじゃ無いからな?」


「え~、だってお姉ちゃんと結婚したなら、お姉ちゃんはお母さんで祐樹お兄ちゃんはお父さんでしょ?」


「それもそうだ。仕方ない。裕香ちゃんのお父さんになってやろう」


「やった~。おとーさん! 大好き!」

 嬉しそうに顔をぐりぐりと俺に抱き着いて押しあてる裕香ちゃん。

 そう、この涼香によく似た女の子。

 正体は涼香の妹だ。

 ベタベタとお父さんと慕う裕香ちゃんに抱き着かれながら、お義父さんに挨拶をする。


「お久しぶりです」


「ああ、元気そうで何よりだ」

 それから涼香の両親と世間話をした。

 で、それが落ち着くとお義父さんが俺に聞く。


「ところで、この土日は暇かね?」


「あ、はい。俺と涼香、二人とも予定はないですけど……。どうかしました?」


「だそうだ。母さん」


「ええ、なら問題ないわね」

 顔を合わせて喜ぶ涼香の両親は、俺と涼香に向かって嬉しそうに話す。


「ちょっと旅行に行ってくる。裕香の面倒は任せた」

 そんな感じで旅行に行ってしまった二人。

 残された俺と涼香。

 そして、涼香の妹である裕香ちゃん。


「えへへ。おとーさん! 遊んで~。お姉ちゃん、じゃなくてお母さんも!」

 どうやら、結婚も早かったが子育てを経験するのも早いらしい。

 こうして、俺と涼香と裕香ちゃんという大きな子供による家族ごっこが始まるのであった。





 お義父さんとお義母さんを見送った後、三田家のリビングでくつろいでいると、裕香ちゃんが涼香に近寄って楽しそうに悪戯する。


「おかーさん! おっぱい!」

 無邪気な裕香ちゃんに出もしないのに、服に潜り込まれて吸われる涼香。

 なんとか引っぺがして、裕香ちゃんを優しく叱り始めた。


「もう、だ~め! 私の胸を吸っても出ないから、吸うのを辞める!」


「えへへ。知ってる~。っと、この前、幼稚園で作ったのがあるんだ~見せたいから待ってて、持ってくる!」

 無邪気に笑い幼稚園で作った物を取りに行く裕香ちゃん。

 まったくもう、と呆れた感じで笑う涼香は、さっきの一連のやり取りを見ていた俺に話しかけて来た。


「祐樹も吸う?」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 とわざとらしく近寄ると顔を真っ赤にして優しく突き放される。


「冗談だからね?」

 相変わらず、からかって来たというのに、カウンターを返されると弱い。

 こういうとこが可愛くて意地悪したくなるんだよな。


「分かってる。でも、ダメか?」


「だ、ダメじゃないと言えば、ダメじゃないけど……。わ、分かった。ちょっとだけだよ?」

 服を手繰りあげる。

 今か今かと待つも、顔を真っ赤にしている涼香に大満足した俺は笑う。


「冗談だって。本気になるなよ? な?」


「くぅ~。祐樹のばかっ! 良いの? そう言う事すると、私も右手が治らなくなるまで我慢~とか言ってる祐樹の事を誘惑しちゃうからね!」


「っく、それはありな気もするが、男として一度決めたことは最後まで貫きとおしたい訳で……」


「おとーさんとおかーさんは甘々だ!」

 いつの間にか戻って来ていた裕香ちゃんがビシッと指をさしてきた。

 それに対して、二人でクスリと笑いながら、裕香ちゃんにわざとらしく言う。


「そうだ。俺と涼香はラブラブだぞ?」


「そうだよ? 私と祐樹は超ラブラブだからね!」

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