第34話親に知られて気まずい事
涼香の両親は旅行に行ってしまった。
夕方、母さんが帰ってきているであろう時間。
今回の里帰りは近況報告するためのもの。
三田家にはすでに報告済みだが、俺の実家である新藤家にはまだしてない。
という訳で、俺と涼香は裕香ちゃんを連れ、俺の実家である新藤家に行く。
「おとーさん! お手て握って!」
歩く裕香ちゃんが俺の手を握る。
すっかりと、おとーさん呼びが定着しつつあるも、ときたま『ゆーきにいに』と口を滑らせるのが可愛らしい。
そんな裕香ちゃん。
涼香と結婚したから、俺の義妹? になる子の手を左手で握ってあげる。
「おかーさん! お手て握って!」
裕香ちゃんは俺と繋いでない反対の手を涼香に握らせる。
俺の手と涼香の手をぎゅっと強く握り、ぶらんぶらんと手の力だけぶら下がって遊び始めた。
「裕香。危ないからだーめ」
「いや!」
「駄々っ子にはお菓子あげないよ?」
「うっ。いじわる……」
ふてくされた様子で俺と涼香の手にぶら下がるのを辞めた裕香ちゃん。
妹の扱いに良く慣れているとか思いながらも、俺の実家である新藤家に着く。
今日は実家の鍵を持ち合わせていないので、普通にインターホンを鳴らし、中に居る人を呼ぶ。
ガチャリとドアが開き、中からは俺の母さん。
「ただいま」
「あらあら、お帰り。それにしても、いつの間に子供が出来たのかしら?」
ふふっと俺と涼香の間に挟まっている裕香ちゃんを見て笑う母さん。
それから裕香ちゃんも何となくで笑って言う。
「あたらしいおとーさんとおかーさん! 良いでしょ!」
「あらあら、いつの間に変わっちゃたの?」
「えへへ~、さっき!」
裕香ちゃんをあやす母さん。
立ち話する必要もなく、普通に家に入ってリビングへ。裕香ちゃんに構いつつ、近況報告をして行く。
大学の事、新しい家での事、色々と話した。
それもあらかた、終わりを見せると、とっつきにくい事を言い始める母さん。
「本当の子供はいつになるのかしら?」
「……あはは」
渇いた笑いしか出ない涼香。
俺もどう反応すれば良いか分からなくて普通に黙ってるしな。
「まあまあ、二人ともお金は平気なんだから、いつでも大丈夫じゃないの」
気まずいというのに追撃をして来ないでくれ。
それから、嫌なというか、神経を削るような質問を受け続けるのだった。
気が付けば、気まずい時間も終わって、母さんがいつの間にか取っていた宅配ピザを食べて、久しぶりの実家を満喫。
どうせなら、両親が旅行に行って居ない裕香ちゃんごと、ここに泊まって行けば? と言われるも、裕香ちゃんが帰りたいと言ったので三田家へ。
裕香ちゃんは元気一杯。
遊んで遊んでと振り回され、もみくちゃにされて行く。
右手が使えればもうちょっと、色々と遊んでやれたんだけどな。
「おねーちゃん! のどかわいた。ジュース!」
冷蔵庫にジュースが入っている事を知っている裕香ちゃんは叫ぶ。
甘さと言うのに小さい頃から慣れ過ぎてしまうと、甘いのが当たり前になってしまうので程々に。
ジュースは3日に一回程度って涼香が言っていた。
さっき、俺の実家でピザを食べてる時、裕香ちゃんはごくごくとオレンジジュースを飲んでいたわけで……
「さっき飲んだでしょ?」
「だめ?」
「だーめ。お茶か牛乳で我慢だよ?」
「ぶー。しょーがない。牛乳で良いよ?」
「この子は何様のつもりなのかな? はいはい、ちょっと待ってね」
冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注いで渡す。
4歳。
手は小さく、それでいて不器用。
飲み始めた牛乳の入ったコップを落として、体に牛乳を浴びてしまう。
「まったくもう。祐樹、ちょっとお風呂に行ってくるね」
「ああ、分かった」
牛乳を浴びた裕香ちゃんとお風呂に行った涼香。
三田家には小さい頃に何度もお邪魔したが、一人でくつろぐなんてことは無く、そわそわとしてしまう。
そんな俺が取る行動は一つ。
「よし、涼香の部屋を探検しよう」
小学校中学年を過ぎた頃には、すっかりと入れて貰えなくなった涼香の部屋を探検し始める。
綺麗に整理整頓された部屋。
タンスを開けて、色々と物色しているとおそらく今は使っていない古い服が入った場所に辿り着く。
「小学校の体操服から中学校の体操服。いろいろあんな」
過去を懐かしむ。
小柄な涼香。
今でも小学校のはまだしも、中学校のは余裕で着れるのでは? なんて馬鹿げた事を考えながら物色し続けていると、
「てい! 人の部屋を勝手に漁らない!」
「っく、怒られたか……。裕香ちゃんはどうした?」
「裕香の服を取りに来ただけ。で、なんか私の部屋でゴソゴソしてる祐樹を見つけちゃったわけ」
「なるほど」
「……っと、お風呂場であんまり一人にしたくないから、もう戻るね。これ以上、漁らないでよ?」
着替えを取りに来た涼香は早々といなくなった。
さて、漁らないでと言われたら、漁りたくなるのが男の性分。
結局、涼香の部屋で色々と漁って行くのであった。
涼香の部屋を漁るのも過去の事。
俺と遊び疲れた裕香ちゃんは、お風呂に入って綺麗さっぱり。
もう自分の部屋で一人で寝れる子らしく、普通に部屋で眠りについた。
「さてと、祐樹。お風呂にしよ?」
「ん、ああ。そうだな」
相も変わらず、お風呂のお世話をされる俺。
……裕香ちゃんと同じように俺は子供? だったのか? と思いながら、三田家のお風呂場で涼香を待った。
「来ないな」
濡れないように着替えて来ると言った涼香。
いつまで経っても来ないので、お風呂場を出て探しに行く。
脱衣所に居なかったので、リビングへ。
リビングにも居なかったので、涼香の部屋へ行ったら凄い光景を見てしまう。
「ゆ、ゆうき!? だ、ダメ、見ないで!」
「おまっ、来ないと思ったらスク水を着てなにしてんだ?」
「だ、だって、祐樹が過去の服とかが入ってるタンスばっかり見てたじゃん……。こう言うのが好きなのかな~って。でもちょっときつくて……祐樹に見られるのが恥ずかしくて躊躇ってたんだよ……。ううう、恥ずかしい……」
恥ずかしそうにもじもじとする涼香。
着ているスク水は恐らく、中学校の時のやつ。
ちょっと小さくなっていて、明らかにサイズがあっていなくて、ちょっとお肉がギュッと引き締められていて……。
それが気になって、中々俺の前に現れる勇気が出なかったとか堪らないんだが?
「お前ってやつは本当にずる過ぎる!」
「うぅ~~。私の馬鹿っ。なんで、こんなことをしちゃったんだろ……」
スク水を着て激しく後悔する涼香。
それに対して、可愛さに酔いしれ、くらくらとする俺は右手が治ってからなんて辞めようかなと揺らぐ。
そんな時だ。
「おねーちゃん。なにしてるの……」
眠そうにしながら現れた裕香ちゃん。
それと同時に掛かって来る俺達を心配する親からの電話。
「あ、うん。こっちは平気だよ。二人こそ、元気?」
涼香が話を始めると、裕香ちゃんは本物のお母さんとお父さんと話している事に気が付いたのか、涼香の元へ駆け寄って行く。
「おねーちゃん! 話したい! 代わって!」
強引にもみくちゃにされ仕方がなく携帯を裕香ちゃんに渡す。
親と離れ離れでも泣かない強い子だが、やっぱり寂しいらしい
嬉しそうに本物のお母さんと話しているのをほっこりとしながら、見守っているときだった。
「そーいえば、おねーちゃんがすくーる水着で、なんかをゆーきにいにとしてた!」
「ぶふっ! ゲホッ、ゲホッ」
勢いよく吹き出す。
そういや、今、涼香は普通にスク水を着たままだったな。
慌てるのは涼香も同じ、携帯を裕香ちゃんから奪い取り、取り繕う。
「お母さん。裕香の言う事は冗談だからね? ね?」
そして、涼香が少し話した後、俺に携帯を渡してきた。
「あの、お義母さん。どうしましたか?」
『あなた達がそういうプレイをするのは勝手よ。でも、裕香にはあんまり見られないようにしてね? さてと、そろそろ続きがしたいでしょうし、このくらいにしときます。それじゃあ、裕香の事をお願いしますっと。祐樹くん、あんまり特殊なプレイを強要して涼香に嫌われないようにね?』
「……あ、はい」
ツー、ツー、と電話が切れた音。
それから少しの間、心に深い傷を負った俺達は、乾いたように笑うしかないのであった。
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