第35話涼香は甘えん坊

 夜。

 裕香ちゃんは寝静まったが、まだまだ俺達は寝る時間じゃない。

 二人してソファーでバラエティー番組を見て過ごしているのだが、親に特殊なプレイをしている事がバレてしまった事により、放心状態だ。

 帰って来た涼香の両親にどう顔向けすれば良いんだ?


「ていうか、まあ親バレするにしろ。スク水を着せるのって割とあれだよな」


「だね……」

 親にバレたのもそうだが、普通にプレイとしてどうかと思う。

 後悔を語るも、ため息しか出ない俺と涼香。

 そして、開き直った涼香はソファーに座っている俺の太ももに頭を乗っける。


「うへ~、もうこうなったら祐樹に傷を癒して貰うしかない……。撫でて?」


「甘えん坊だな」


「だってさ~、この年になってスク水を着たのが親にバレるとか辛すぎない?」


「俺なんて、それを命令したかのような立場だぞ?」


「あはは、そうだね。えへへ~」

 軽く撫で始めると喜ぶ涼香。

 そう言えば、俺は良く涼香に撫でて貰うが、涼香はあまり撫でてやったことが無いんだよな……。

 というか、あれだ。

 俺のふとももに顔を載せて、足はパタパタとさせている涼香。

 めっちゃ撫で甲斐がある。


「まるでデカい子供だな」


「え~、祐樹の方が子供じゃない?」


「っく、思い当たるふしが多くて反論できん」

 右手の使えない俺は涼香に助けて貰いっぱなしだ。

 よし、常日頃の感謝を込めて、ナデナデは入念にすべきだな。

 手を緩めることなく、優しく撫で続けてやる。


「うんうん。奥さんは大事にしたまえよ? あたっ」

 調子づいた事を言って来たので、少しだけコツンって頭をつつく。

 涼香は不満そうな顔でこっちを見て冗談を言い始める。


「DVだよ? これは慰謝料を請求できる案件です。離婚した上で慰謝料を請求されたくなければ……。ん~、どうしよ?」


「考えなしで物事をねだるな」


「だって、何かをねだるには良いチャンスかな~って思ったんだもん。ちなみに祐樹は離婚されそうになったら、どうやって謝る?」


「謝らん! 離婚されそうになる前に何とかする」


「もう、そう言う事は聞いてません~。でも、嬉しいね。そう言って貰えるのも。ちなみに私は祐樹が離婚を切り出して来たら……泣いちゃう。それで、捨てないで~って叫ぶ!」

 何とも可愛らしい感じな答え。

 ほんのりとあたたかな気分に浸る俺は涼香だけは絶対に泣かせないと心にする。

 が、しかし。


「バイトの件は悪かったな」

 つい最近、泣かせそうにしてしまった事をまた謝る。

 俺的にはサプライズで驚かせたかった。

 バイトして、そのお金で涼香に誕生日プレゼントを買って送ったのだが、その際、バイトを始めた理由を変に隠してしまったわけだ。

 

「もう良いって。あの件については怒ってないよ?」 

 

「いや、まあ、それなら良い。しょうがない、お詫びに今日はお前の気が済むまで、撫でてやるか」


「やった! あ、そうだ。祐樹が裕香にやってた事で、良いな~って思った事があるんだけど、お願いして良い?」


「出来る範囲でならな」


「じゃあ、祐樹のお膝の上に座りたい!」


「今日はやけに甘えん坊だな。ま、良いぞ。思う存分座ってくれ」

 嬉しそうに俺のふとももの上に座って来た涼香。

 ルンルン気分で座り、首を俺の顔の方に回して嬉しそうに囁く。


「祐樹のお膝の上に座って見たかったんだよね~。意外と私ってこんな感じで、人の膝の上にあんまり座ったことないし」


「俺的には割と気軽に座って良いと言って後悔中だ。普通に重い」


「お嫁さんに重いとは酷くない? あーあ。これは離婚の危機かな?」


「っぷ。お前なあ」

 さっきのやり取りを良い事に離婚の危機とか冗談を言われる。

 それが面白おかしくて仕方がない。

 

「ねえねえ、祐樹」


「ん?」


「ぎゅーって私の事を抱きしめて?」


「しょうがない」

 膝の上に座る涼香を優しく手を回して抱きしめる。

 ほんと俺は馬鹿したな~って思う。

 バイトの時、疲れのせいで涼香に素っ気なく振る舞って心配かけた。

 たぶん、口では許すとか言ってくれてるけど、本当に寂しかったのが良く分かってしまう。

 だって、俺と涼香は幼馴染だったんだから。

 いや、結婚した今でも『幼馴染』である事には変わりないか……。


「んふふ。祐樹。私も今度これやってあげよっか?」


「俺がお前に座ったら、潰れんぞ?」


「そっか。よいしょっと」

 俺の膝上からいなくなる涼香。

 重いと言ったが、ちょっと名残惜しい。


「どこ行くんだ?」


「コーヒー飲もうかなって。祐樹は?」


「頼む」


「りょーかい。砂糖とミルクはいつも通り?」


「ああ、いつも通りで」

 コーヒーを淹れる涼香と会話を続ける。

 しかし、ふとした瞬間にスク水を着た涼香の恥ずかしがる顔がよぎった。

 それに追随するかのように、色々と思い出す。


 中学校。

 女子と男子はすでに体育の授業は別に行う中、女子がプールの授業を受けていた時だ。

 悪友たちと女子更衣室に覗きに行こうとした。

 もちろん、途中で臆して覗きに行くのを辞めたのだが、覗きに行こうって言う話を涼香に聞かれていたらしく『覗かなかったんだ』とからかわれた。

 

 なんて事の無い思い出。

 それだというのに、思い出すたびになぜか気持ちが弾んでしまう。

 だって、だって、あんな風に覗く度胸の無かった俺をからかった女の子が、今は俺のお嫁さんなんだぞ?

 

「祐樹? 黙ってどうしたの?」


「涼香が可愛いな~って」


「わーい。ありがと。はい、お礼のコーヒー」


「ありがとな。さてと、せっかくお前んちに来たんだ。昔、よく遊んだボードゲームで遊ぶか?」

 涼香と良く一緒に遊んだボードゲーム。

 どうやら、まだ同じ場所に仕舞ってあるらしく、普通に見つかった。


「ほほう。じゃあじゃあ、あれだ。負けたら、一枚服を脱ぐってのはどう?」


「俺達がちっちゃい時、負けたら服を脱ぐっていう罰ゲーム付きで遊んで、母さん達に叱られたっけか?」


「そうそう。あの時は、無邪気だったもんね。脱ぐのがエッチな事だとか、全然思って無かったもん」


「だな。さてと、脱ぐのは無しにして、代わりに俺が勝ったら、涼香には中学の体操服を、俺が負けたら、涼香には中学の時の制服でどうだ?」


「えー、それ私に何のメリットが無いじゃん。でも……。まー、祐樹の態度次第かな~なんてね? えへへ、取り敢えず、遊ぼ?」

 それから俺と涼香はボードゲームで楽しい時間を過ごした。

 


 




 

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