第36話将来を考える二人は幸せに笑う
涼香の部屋にあるベッドで一緒に寝た。
セミダブルでさえ狭苦しいのに、シングルとなればもう凄い。
……まあ、あれだ。
涼香が寝ぼけてなのか、わざとなのか、めっちゃ抱き着いて来た。
「さすがにシングルベッドで二人はきついな……」
「だね~。いやー、でも私は意外と寝心地が良かった気がする」
「……抱き着いて来たのはわざとか?」
「ん?」
「めっちゃお前に抱き着いて来たろ」
「あはは、ごめん」
……本当に覚えてない顔。
本人の自覚なしの、抱き着き行為に苦しめられたという訳だな。
わざとでも可愛いし、無意識に抱き着かれても可愛い。
もうどう足掻いても可愛いんだよな……。
「さてと、涼香。今日はどうするんだ?」
「お母さん達は夜に帰って来るって。それまでは、裕香のお守だね。ん~、さてと朝ご飯作ろっと」
背伸びをする涼香。
裕香ちゃんはまだ起きていない時間に起きた俺達。
子供と言うのは、何でもしたがる生き物。
俺達が起きていなければ、朝ご飯を自分で作ろうと色々とやり、結果として色々と危険な目に遭う可能性が高い。
だからこその早起きだ。
それから、二人でベッドの上でちょっぴりお話を終え、涼香の部屋を出てリビングへ。
ソファーでテレビをつけニュースを何となくで見始める俺。
そんな俺に対し、朝ごはんの準備をする涼香。
手伝え? と思われがちだが、右手が使えない俺が手伝うのは邪魔だしな。
「祐樹~。目玉焼きと卵焼き。どっちがいい?」
「卵焼きだな」
「了解。ちゃちゃっと、用意するからそろそろ裕香を起こして来て?」
階段を登り、裕香ちゃんの部屋へ。
こんこんとドアをノック。
すると、
「あーい。いま、おきる~~」
寝ぼけた裕香ちゃんの声が聞こえて来た。
ドア越しという事もあり、少しだけ声を張りながら言う。
「おう、おはよ。涼香が朝ごはんを作ってくれてるから、早く降りて来るんだぞ?」
「うん……」
起きて来る意志を感じられた俺は階段を降りた。
それから、起きた裕香ちゃんと涼香と一緒に朝ご飯を食べたのであった。
涼香の両親は夕方頃には帰って来るらしい。
それまで、裕香ちゃんとどう遊んだものかと悩んでいると、
「おとーさん! おままごとして!」
遊んで欲しい内容すらせがまれる。
で、涼香も巻き込んでおままごとをさせられるのは良いのだが、配役が笑えてくるのは俺だけじゃないはずだ。
だって、
「赤ちゃんっぽくない……。もっと、赤ちゃんして!」
「えー、お姉ちゃん。これでも頑張ってるんだよ?」
涼香が赤ちゃん。
俺がお父さん。
裕香ちゃんがお母さん。
……っぷ。だめだ。
赤ちゃんの役になり切ろうとする涼香を見ると、面白くて笑えてくる。
「おとーさんからも赤ちゃんっぽくしてってお願いして?」
「任せとけ。ほれ、涼香ちゃん。ミルクは欲しいでちゅか~」
おもちゃの哺乳瓶を口元に押し付けながら、涼香を馬鹿にするように言う。
幼馴染だった時は、大抵こんな感じで馬鹿にしたり、煽ったり、色々としてたんだけどな。
久しぶりの煽りにどう反応するか見ものだ。
「ていっ」
哺乳瓶を弾かれた。
さすがにここまで馬鹿にされ、煽りに煽られたらこうなるか。
幼馴染としての関係は今も継続してるとしみじみしていた時であった。
俺の近くに近寄って来て可愛くねだられる。
「抱っこなら良いよ。私、赤ちゃんだから抱っこして?」
「っく。お前、ほんと俺の幼馴染か? 前だったら、さっきみたいに煽れば、俺の事を軽くぶん殴って来てたろ」
「えへへ。だって、好きな相手は殴れないもん。で、抱っこしてくれるの?」
「……しょうがない」
抱っこというよりも、抱き着く感じで涼香をギュッとした。
昨日の夜、俺を抱き枕かの様に扱って来た時、わりと強めに抱きしめられたので、俺も強めに抱きしめる。
すると、涼香は笑いながら言う。
「苦しいけど、こういう風に強く抱きしめられるのもありかな~。えへへ」
「……おとーさん! お姉ちゃんばっかずるい!」
ちょっと蚊帳の外にされて怒り気味な裕香ちゃんが俺と涼香の間にぐりぐりと体を押し入れて来る。
狭苦しく三人でくっ付いて、あまりに窮屈さに三人して笑う。
「ほれほれ。俺と涼香に挟まれて潰されるなよ? 裕香ちゃん」
「裕香~。覚悟しなよ?」
「わ、おとーさん。お姉ちゃん。くるしい! でも、楽しいからもっと!」
程よい苦しさ。
嫌じゃない苦しさ。
それを楽しむ裕香ちゃんであった。
おままごとが終わると裕香ちゃんはお絵描きを始めた。
……子供と言うのはすぐに飽きては別の事を始める生き物。
せっかくなので、後ろからお絵描きを見守ろうとするのだが、
「いや! みちゃだめ!」
何を描いているのか頑なに見せてくれない裕香ちゃん。
ややウザ絡みして、見せてくれよ? な? と近寄るも全然見せてくれない。
仕方ない。
裕香ちゃんに構って貰えないのなら、涼香に構って貰うしかないな。
「涼香。俺は裕香ちゃんに嫌われたらしい。慰めてくれ」
「しょうがないなあ」
二人で裕香ちゃんが絵を描くのを後ろで見守る。
時たま、俺と涼香が何を描いているか見ていないかを確認するために、後ろを向いては『見ちゃダメだよ!』って注意して来るのがこれまた可愛い。
「涼香は子供は好きなのか?」
「裕香の事は好きだけど、裕香以外の小さい子とは、あんまり接したこと無いから良く分かんないかな~」
「それもそうか。はっきりと聞くけど、涼香って子供欲しいか?」
「凄くダイレクトに聞くね」
母さんにも言われた。
あなた達はお金もあるんだし、子供が出来たとしても問題はないでしょ。
その通りである。
今まで、何だかんだで成り行きで夫婦になっただけだったから、子供とか言われてもイマイチ実感が沸かなかった。
でも、最近は普通に涼香と生涯を添い遂げたいと思うようになってるわけで、子供に関する事は、もう避けては通れない話。
「まあ、俺のわがままなんだけど、お前がいくら欲しいと思ってても、最低でも大学を卒業するまでは……」
「生々しいけど、はっきり二人で決めないとだもんね。あ、でもこれ以上の生々しい話は裕香も居るし、この場で話しちゃダメだよ?」
「そんくらい分かってる。裕香ちゃんが聞いていて、お義母さんに色々と話されたらたまったもんじゃない。っぷ。だめだ。お前とこんな話をするとか思いもして無かったせいで変に笑えて来る」
今の状況が思いもしていなかったこともあり、少しだけ笑ってしまう。
そんな俺の笑いに釣られて、涼香も微笑む。
微笑む涼香の手を、なんとなくで握る。
意味も無い手を握る行為。
でも、涼香は俺の手を振りほどかずにギュッと握り返してくれた。
「私もちょうど握りたかったんだ」
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