第37話可愛い涼香を独り占め

 裕香ちゃんを見守り続ける事、1日半。

 突発的に旅行に行ったお義父さんとお義母さんが帰って来た。

 温泉に行って来たらしく、温泉饅頭と温泉の素という入浴剤のお土産を貰う。

 明日は1限から講義だ。

 今日も泊って行けば? という誘いを断り、俺達は今住んで居る部屋へ帰るべく、身支度を整えていた時であった。

 

「これあげる!」

 裕香ちゃんから1枚の絵を貰う。

 俺と涼香の似顔絵とかが鉄板なのだろうが、裕香ちゃんが描いてくれた絵。

 それは、画用紙一杯に描かれた太陽と月。

 何ともテーマ性の強い芸術であった。


「芸術的だな。将来は有名なアーティストか?」


「将来はおとーさんのお嫁さんになる!」


「おうおう、そうかそうか。そういう可愛い事は本当のお義父さんに言ってあげるんだぞ? ほら、めっちゃ悔しそうに俺と裕香ちゃんを見てるから」

 お義父さんが俺を羨ましそうな目で見ていたので、フォローを入れるも、悲しきかな、裕香ちゃんはお義父さんの顔を一瞬だけ見た後に無邪気に言う。


「おとーさんが良い! お父さんは嫌!」


「……っく」

 わりと悲しそうな顔をするお義父さん。

 実の娘に拒否られて悲しくないわけがないし、苦笑いしながら俺は更にフォローを入れる。


「そんなこと言わないんだぞ? お義父さんは裕香ちゃんのために、頑張ってお仕事してるからな?」

 

「そっか。でも、私はおとーさんと結婚する!」

 駄々っ子っぽく笑う裕香ちゃんの可愛さに打たれ、よしよしと撫でながら、じゃあ、大きく成ったらな? とか言って遊んでやっていると、身支度を整えていた涼香が笑いながらこっちに来た。


「浮気者め~。あーあ。祐樹は私の事、捨てちゃうんだ」


「拗ねるなって」


「んふふ。分かってる」

 わざとらしいひと悶着を繰り広げる。

 それを見た裕香ちゃんは面白がって涼香の前に立ち塞がる。


「おとーさんは私のもの!」

 ドヤ顔で涼香に言うと、涼香は裕香ちゃんを抱きかかえてわしゃわしゃと髪の毛を撫でながら笑う。


「人の夫を取ろうとする悪い妹はこの子かな?」


「あははは。もっと~」


「このこの~」

 もみくちゃにされて喜ぶ裕香ちゃんを可愛がる姉である涼香。

 それを見ていると、お義父さんに話しかけられた。


「いきなり、娘の面倒を頼んで悪かったね」


「いえ、一応親族ですし、気にしないでください」


「いやはや、祐樹君にそう言って貰えると嬉しい限りだよ。ただ一つだけお節介かも知れないが、言わせてくれないかい?」


「あ、はい」


「若いうちは子供なんて居ない方が良い。涼香は私達が若い頃に生まれた子。若い時だけしか楽しめないこともある。それを含めて、今後とも涼香と仲良くやってくれると私としては嬉しい限りだよ」

 心配された。

 彼氏彼女であれば、きっとここまでの心配はされなかったに違いない。

 つくづく、結婚の重さを感じるこの頃。

 でも、重いけど、今のところは嫌な重みではない。

 たぶんだけど、この重さに嫌な所も感じる時が来るんだろうけどな……。


「心配ありがとうございます」


「当り前じゃ無いか。君も私の大事な家族なんだからね。っと、裕香。お姉ちゃんとばかり、遊んでないでお父さんと遊ぼうか」

 わちゃわちゃと可愛がられる裕香ちゃんに近づいて、涼香に代わり遊び始めた。

 ああいう風に俺もなる日が来るのか? とか思ってしまう。


「さてと、そろそろ帰ろっか」


「そうだな。帰るか」

 


 三田家を後にする俺と涼香。

 帰り道でこの休みの日に得られた教訓を語り合う。


「今しか出来ない事がある」


「だね~。子供が出来たら、出来なくなる事だらけだって分かったよ」


「たかだか1日半だけ。それでさえ、子供が居たら、色々と行動が制限されるのが良く分かったからな」


「という訳で、ごめんね。祐樹。子供は当分先で」


「俺が今すぐに子供が欲しい男みたいに言うな」


「え~、そうじゃないの? あ、興味あるのは子供を作る行為の方だっけ?」

 エロが大好きな男みたいにからかわれる。

 こいつ、こういう風にからかうくせにカウンターに弱い。

 さて、今日も可愛いとこを見せて貰うとするか。


「右手が治るまでと言ったが……。やっぱり我慢できん。という訳で、今日は覚悟しとけ。ベッドであれこれしてやるからな?」


「え、あ、きょ、今日?」

 顔を真っ赤にして俺の言動にあたふたとする。

 自分からからかって来ておいて、やり返された時に糞雑魚な涼香。

 可愛いので、冗談だと言わずに放置して、『きょ、今日……。うっ、心の準備が……』と言わんばかりな様子を見て楽しむ。

 

「ゆ、祐樹がど、どうしてもなら良いけど。その……えーっと。本当にするの?」

 ぼそぼそ声。

 恥ずかしそうにするも拒否られないのが、これまた良い。

 っくそ、ほんとこういうとこ好き過ぎる……。


「冗談だぞ? 何マジになってるんだ?」


「くぅ~~~。祐樹の馬鹿! また、私の反応をみて楽しんでたでしょ!」

 怒られる。

 とはいえ、こういう風にからかってばかりだと嫌われるのは当たり前。

 ちゃんとしたフォローでも入れるとしよう。


「お前が可愛すぎる反応をするからな。お前が可愛くなきゃ、やらんぞ?」


「なら、しょうがない。って言うとでも思った? あんまり、やりすぎると私は家出しちゃうかもしれないからね!」


「これは許容範囲をちゃんと見極めないとな」


「そこはもうやらないからそれだけは勘弁してくださいじゃないの? あーあ。冷たくされちゃったな~。これは家出しちゃうかもな~」

 わざとらしく家出するアピールをしてくる。

 逃げられないようにとっておきの事を言ってやるか。


「家出したら、俺達の親はうるさいぞ?」


「絶対煩そうだよね……。でもさあ、そこは家出しないでくれって、素直に言ってくれても良いじゃん」

 ああ、あれだな。

 なんとなくだが、涼香が俺にどうして欲しいのかが分かった。

 直接的にはっきりとした言葉を俺に言って欲しいって感じだろう。

 しょうがない。求められているのなら、しょうがない。

 道端で言うのは結構恥ずかしいが、言ってやるとしよう。


「愛してる。だから、俺を捨てないでくれよ?」


「えへへ。そっか。もう、しょうがないなあ。あ、でも、こんな道端でそんな恥ずかしいことを言わないの!」

 お前が直接的に愛を囁いて欲しそうにしていたから、言ってやったのにな。

 道端で言うなは酷いんじゃないか?

 まあ、満足そうにニコニコ笑う涼香の顔が可愛いので許してやるとしよう。


「なあ、涼香」


「ん? なあに?」


「気持ち悪いことを言わせてくれ」


「え~、まあ、良いよ。なに?」


「子供が出来たら、お前を取られると思うと普通に嫌すぎる。まだ今は、独り占めさせてくれ」


「えへへ。もう、祐樹ってば私の事、好き過ぎるでしょ。しょうがないなあ……。今は祐樹だけをたっぷり可愛がってあげるね」

 可愛がってくれる涼香。

 もうあれだ。

 ありとあらゆる男の恥を捨てて、もう滅茶苦茶に甘えたい。




 それから、一緒に歩くだけで楽しい俺と涼香は仲良く家へ帰った。










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