第15話水族館デート!
気が付けば、入場券を購入し水族館の中へ入っていた。
薄暗い館内を涼香と一緒に歩き始める。
「小魚って良いよね……」
比較的、小さい水槽を泳ぐ小魚を見る涼香。
大きい魚に目を奪われがちだが、こういう小さい魚も悪くない。
「ああ」
「え~、小学生の時は小魚なんて詰まんねー。サメを見に行こうぜ! って言ってたのに?」
「よく覚えてんな。あんときは、確かにそうだったが、今でこそ小さい魚の魅力が良く分かるようになった」
「どういうとこ?」
「飼いやすい」
「合理的な理由過ぎじゃない? もうちょっと、ロマン溢れる回答を期待してたのにさー。はい、もう、一度!」
小魚の魅力をロマン溢れる風に語れと言わんばかり。
まあ、さすがの俺も馬鹿ではない。ロマン溢れるかと言えば、微妙なラインだが色々と答えは出せる。
「小さくて庇護欲が沸きやすい。結果、可愛く見えて来る」
「なるほど、なるほど。んじゃ、一般的な人よりも小柄な私はどう?」
「守って欲しいと催促するとは意外だな。お前、俺に助けられるのあんまり、好きじゃ無かったろ」
涼香は気が強いとまでは行かないが、俺に助けられるのを良しとしない。
幼馴染として対等で貸し借りはしたくないから、そういうスタンスを取っていると口を酸っぱくして、俺に言っていたのだ。
「彼氏となったら話は別だよ?」
「なるほどな」
「祐樹はそこら辺どうなの? 幼馴染の時は、私が変に甘えても良いんでちゅよ~ってからかってたけど。彼女である私だったら、どうする?」
「言いにくいとこ、踏み込んで来やがったな……」
「てへ? さらっと、なんか私だけ恥ずかしい事を言っちゃった気がしたから、巻き込んでみた」
少しだけ悪びれた様子でこっちを見る。
守って欲しいと俺に言ってしまったのが、割と恥ずかしかった。
ゆえに、俺の言いにくい所を着いてきたわけか……。
「正直に言って良いか? お前と付き合う前はお前に甘えるなんて男の恥だとか、思ってたんだがな。今は普通に甘えたい自分が居るのが怖い」
「やっぱ、幼馴染と恋人、関係が違うだけで色々と変わるもんなんだね」
「そりゃそうだろ。っと、小魚ゾーンはまだ見るか?」
「……前来た時は、そんなこと聞かないで先に行っちゃった祐樹とは思えない成長っぷりを感じる。でも、私ばっかりに合わせる必要はないから、そこら辺は気を付けとくこと!」
涼香を喜ばせようと思って気を使う。
それはそれで、涼香に気を使わせて申し訳ない印象を与える場合もある。
「じゃあ、個人的にあっちの熱帯魚コーナーが気になる。見に行かないか?」
「うん、遠慮も嬉しいけど、そういう風に引っ張ってね? じゃないと、私だけ楽しんでるみたいになっちゃうし」
そんな涼香と一緒に熱帯魚コーナーへと向かうのであった。
色々な魚を見て回ること1時間。
そろそろ、イルカショーの時間が迫ってきている事を思い出す。
「涼香。イルカショーを見に移動するぞ」
「分かった」
イルカショーが行われる観客席のあるプールに向かったのだが、
「あちゃ~、もうちょっと早く来れば良かったかも」
席は満席気味。
そう、今は春休み。
水族館は広くて、お客さんがまばらになりがちだが、メインの大型イベント。
こぞって、散らばっていたお客が集まるわけだ。
想像以上の混み具合。
座れる場所は無いかと思われたのだが、前の方がまだ少し空いていた。
「祐樹、あそこが空いてるけどさ。あそこに座ったら、びしょ濡れになる未来が見える。ほら、席に『水が大きく飛び跳ねるためこの席をご利用の方はご注意下さい』って書かれてるし」
「あそこにするのか? でも、髪とかセットするの大変だっただろ?」
「せっかく、見るんだし良い席で見たいじゃん。それにさ、祐樹なら髪の毛が崩れるのを見られても大丈夫だよ? ほら、毎朝、ぼさぼさ~ってしてる私の髪の毛、見てるじゃん」
「それもそうか。んじゃ、あそこに座るか」
「せっかくのイルカショー楽しみたいもん!」
二人して、前の席に腰を掛ける。
濡れるの覚悟で座れるのはやっぱり元『幼馴染』だと言うのが大きい。
ったく、幼馴染と付き合うと別れた時が怖いだとか、幼馴染は恋愛する時、燃え上がる感じが薄いだとか、色々とマイナスばっかり言う奴は誰だ?
こんな風に良い事もたくさんあるのによ。
内心で幼馴染で恋人になる事のすばらしさを説いていたのも束の間だ。
「みなさーん。こんにちは~」
イルカを操るトレーナーのお姉さんが元気よくプールの裏から出てきた。
スタイル良いな。あのお姉さん。
ぴちっとしたウェットスーツを着ており、体のラインがはっきりと見える。
ついつい、目を奪われてしまった時だ。
「祐樹って、ちょっとあれな事を考えると鼻が膨らむよね~」
「すんません」
「ううん、別に怒ってないって。私も、そのくらいじゃ怒らないよ?」
「意外だな。彼女って嫉妬するとか無いのか?」
「嫉妬はしてるよ? でも、ちょっとした事で、目くじら立てる面倒くさい女の子になりたくないし」
物分かりの良い涼香。
これはこれで良いのだが、個人的には嫉妬して貰えるのも嫌いじゃないけどな。
ま、余計なことだ。
言わないでおこう。
「っと、挨拶も終わった見たいだ。ショーに集中しようぜ?」
「そうだね」
お姉さんが持つわっかをジャンプで潜るイルカ。
器用にボールを鼻先で持ち、落とさないようにする。
プールに入ったお姉さんを水中から押し上げて、中に浮かばせる。
などなど、様々な芸が披露されていった。
楽しい時間はあっという間。
イルカショーは終わった。
「祐樹、楽しかった!」
「ああ、面白かったな」
二人して、大満足したのは良い。
多少の水濡れは覚悟していたのだが、なんと言うか凄く濡れた。
「へっくち。変なくしゃみ出た」
「ティッシュ要るか?」
「うん、貰う……」
鼻をティッシュで拭う涼香。
髪の毛は結構濡れており、服もそこそこ濡れている。
「タオル欲しい。あったりする?」
「こんなこともあろうかと、少し大きめのタオルを用意した。ほらよっと」
カバンから大き目の汗拭き用のタオルを取り出して、涼香に投げた。
それを受け取り、濡れた髪を拭いた。
で、自分が拭き終わると、タオルをこっちに向けて俺に聞く。
「拭いてあげよっか?」
「あ~、ここではしなくて良いぞ。ほら、人前だし」
人前で、仲良く手を繋ぐと言った露骨なイチャイチャするのは苦手。
拭いて貰うのは嫌じゃ無いが、この場では断っておく。
で、聞いて来た本人もご納得の様子。
「そうかもね」
「だろ?」
それから、髪の毛を拭いて次の場所へと向かおうと歩き出す。
今が何時か確認しようと、携帯を取り出すと、一件の通知が届いていた。
『デートなう!』
田中からだ。
ちなみに、金田さんと一緒に写っている写真というおまけまで付いている。
幸せっぷりを誰かに自慢したくて仕方ないのだろう。
とはいえ、田中のおかげで大事な事を思い出す。
「なあ、涼香」
「なに?」
「後で、俺と二人で写る写真を撮らないか?」
「うん! せっかくだし、撮らなきゃ勿体ないもんね!」
初デート。
何か形を残したい。
なら、ツーショット写真を撮るのは当たり前の事だ。
で、近くにいた人に写真を撮って貰った。
二人で撮って貰った写真を確認すると、笑いが零れてしまう。
「っぷ。なにこれ」
「ああ、くっそ。なんだこれ」
涼香と恋人になってから初めて撮ったツーショット写真。
微妙に腰が引けて、まだ近くに寄るのが気恥ずかしいのか、変にたどたどしい涼香と俺が写っていた。
しかも、露骨に表情が強張っているのがこれまた面白い。
こんな写真は消してしまえと、削除ボタンに指を伸ばすも涼香に遮られる。
「面白いから、保存しとこ?」
「そうだな。俺達らしい写真だ。消す必要はないな」
これも良い思い出。
そう思いながら、画像が消えてしまわないようにロックを掛けた。
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