第31話バーベキューの準備をしながら昔話

 つい最近、俺が出て行った実家に引っ越して来た日から数日後。

 当時4歳だった俺は母さんに連れられて近所の公園に遊びに行った。

 そこで、砂場で遊んでいた涼香と出会い仲良くなった。

 

 家も近所。

 公園で良く遊ぶ仲になった俺と涼香。

 小学生くらいになり、遊ばなくなった。

 けど、遊びはしなくなったけど、学校で話したり、帰り道が一緒になれば話したり、夏祭りで会えば少しだけ話したりした。

 切れない縁。続いて来た縁。

 だけど、それは途中で変わらないわけがなく、縁の形はちょっとづつ変わっていたのは言うまでもない。


 小学生低学年。

 無邪気に笑って学校内では仲が良かった。

 けど、学校外では涼香と遊ばなくなった。


 小学校中学年。

 学校で男女が分け隔てなく話すのが減り始める。

 俺と涼香も同じく話す回数は減った。

 まあ、それでも他の人に比べればきっと多い方だろう。



 小学校高学年。

 学校で男女の線引きがくっきりした。

 俺と涼香はからかわれるのが嫌で学校では話すのを辞める。

 と言っても、外で会えば少しは話した。


 中学生。

 多感なお年頃。

 周りからとやかく言われるのが嫌で絶対に人が居る前では話さない。

 だがしかし、相変わらず人に見られていなければ話はした。


 高校生。

 多感なお年頃だが成長した。くっきりした男女の境界線を保ちながらも、男子だから嫌だとか、これだから女子は……だとか、誰しもが性別を理由に話さないなんて事はしなくなった。

 俺と涼香も同じで、周りからとやかく言われても、別に気にしなくても良いと思えるようになった。

 結果、学校でも普通に話す関係に戻った。


 

 こんな風に紡いだ俺と涼香の縁。

 まさしく腐れ縁だろ?



 っと、ついつい山中先輩に『俺と涼香の出会い』について聞かれたもんだから、思い耽ってしまった。

 時間にして1分ちょい。

 あー、だとか、んー、だとか、えーっとっで間を繋いでいた俺は思い耽った内容を口に出す。


「すみません。ちょいと、話を整理してました」


「よっ、待ってました。で、奥さんとの出会いはどうだったの?」


「初めては公園で……」

 思い耽った内容を山中先輩に話していく。

 で? で? と聞かれに聞かれ、さっきまで思い耽っていた涼香との関係性をすっかりと全て話してしまった。


「ほほう。なるほどね~」


「つまらない腐れ縁で仲良しだったわけです」


「なるほどね~。良いね、良いね。そういうの。で、そんな腐れ縁だった二人はどうして結婚まで行ったのかな?」


「あー、試しに付き合ってみるか? って俺が言ったんです」 

 宝くじの事は言わないで、ちょっとぼかす。

 とはいえ、大体同じ感じだ。超、ざっくりとだがな。


「そうそう。祐樹に試しに付き合ってみるか? って言われちゃったんですよ」

 実際は『夫婦してみるか?』とか言う、数段階レベルが上だったがな。


「で、涼香が意外と乗り気? と言うか、嫌じゃないみたいで付き合い始めた。そして、思いのほかすぐに情熱的になってゴールインした感じですかね」


「祐樹と付き合ってみて悪くなかったので、結婚しちゃったわけです」


「うわ~、なんか凄いラブコメってるじゃん。てかさ~、君達。簡単に付き合ってみるか? とか言われたからって普通は付き合わないからね?」

 俺達の言動ににこやかな山中先輩がビシッと指を立てて言う。

 いやいや、涼香と俺は宝くじが当たるまで別に何ともなかったんだが?


「いえいえ、そんなこと無いですって」


「本当に~? 無自覚で色々とやってたんじゃないの?」


「ないない。私と祐樹は付き合う前なんて『脈なし幼馴染』の典型的パターンって感じで周りに知られてたんです! 矢代先輩、そうでしたよね!」

 相変わらず一人せっせと作業する矢代先輩に涼香が話しかけた。

 すると、していた作業を辞めてこっちに来て話す。


「ああ、学校で見る限りでは、どう見てもただの幼馴染って感じだったぜ。俺も結婚したって聞いた時は驚いちまったからな」


「矢代ちゃんがそう言うなら、そうなんだろうね。が、しかし、私は食い下がるよ? そう、例えば学校では、そう見られていたかもしれないけど、実は学校の外ではこいつらお似合いだな~的な事をしちゃってたんじゃない?」


「うーん。そうなの?」

 首を傾げて俺を見つめて来た涼香。

 顎に手を当て、少しばかり学校外でしていた事を考えてから話した。


「いえ、別にお似合いだな~的な事はした覚えは別に……」


「またまた~。例えば、コンビニで肉まんとあんまんを買って半分こだとかをやってたり、風邪を引いたらお見舞いに行ったり……あとは、バレンタイン、腐れ縁だからチョコの一つやあげてやろうだとか……、矢代ちゃん。後、なんかある?」


「あー、休みの日。たまたま、目的が一緒で遊びに行ったとかはどうだ? で、お前ら今言った事をしてたら、さすがに言い逃れは出来んぞ?」


「さて、今あげたうちのどれかをしてたのなら、素直に白状しちゃいなって!」

 ……。

 ………。

 


 バレンタインの日。

 今年は受験があったので『あげないよ』と言われて、バレンタインはなかったので、去年のバレンタインを思い出す……。


 学校の帰り道。

 バレンタインの日。女子からチョコレートなど貰えなかった。

 一つや二つ、貰って見せると涼香に見栄を張ったので自作自演しよう。

 とか思いながら、歩いていると、


「あ、祐樹じゃん。ねえねえ、貰えたの?」

 ニコニコとした涼香と出会った。

 っく、最悪だ。絶対、見栄を張ったせいで弄られるんだが?

 とはいえ、はぐらかせばもっと弄られるだろう。

 

「正直に言う。貰えなかったぞ。という訳で、情けでお前くらい俺にくれても良いんだぞ?」


「え~、じゃあ、友チョコの残りで良いならあげる。はい、どうぞっと」


「っく、お前ってやつは」


「幼馴染である涼香様に感謝するのなら、お返しはちゃんとしたまえよ? 祐樹君やい」


「分かってる。楽しみにしとけよ?」

 と言ったが、お返しに何をあげれば良いのか分からなかった。

 なので、予算内で好きなものを買ってやると涼香と一緒に出掛けた。

 


 また違うある日のこと。

 寒さ厳しく、俺はコンビニの中華まん始めましたの旗に釣られて中に入った。

 すると、涼香と出くわす。


「何買いに来たの?」


「肉まん。いや、ここはあんまんも良いかもな。お前こそ、コンビニで何を買いに来たんだ?」


「私も肉まん食べたいな~って。でも、あんまんも食べたいんだよね~。あ、そうだ。祐樹。半分こしよ?」


「仕方ない。そうするか」


 

 またまた違うある日のこと。

 風邪を引いた俺の部屋に涼香がやって来た。


「元気?」


「元気じゃねえから休んでんだよ。何しに来やがった」


「幼馴染が寝込んでる姿をあざ笑いに来たんだよ? と言うのは冗談。今日、家に運悪く誰も居ないんでしょ? 様子を見に来てあげたってやつ?」




 さらに違う日。

 修学旅行で泊りがけ。

 制服でなく私服で3泊4日なので、ちょっと綺麗な服、バスタオルとかも宿に用意がないそうなので、必要がありそうなものを買いに出る。

 玄関を出るや、涼香と出会ってしまう。


「あ、祐樹じゃん」


「お前こそどうした」


「私は修学旅行に向けての準備。そっちは?」


「同じだ。制服じゃ無くて、私服で沖縄だし服も買わなきゃで今日は色々と回る」


「ほほう。センスがない祐樹。しょうがないなあ。私もこれから服を買いに行こうって思ってたんだ~。一緒に行ってあげよっか?」

 で、一緒に買い物をした。






 パン!


 手を合わせて大きな音を響かせる山中先輩。


「ほれほれ。二人とも黙ってどうしたの? まさか、私達が言った内容に心当たりでもあったのかな~?」

 ニヤニヤと見つめられた。

 俺と涼香は目を合わせてから口を揃えて言う。


「全部。心当たりがあったんですけど……」


「あははははは、やっぱりそうじゃん! たかだかお試し感覚で付き合い始めただけで、すぐに結婚まで行くわけないでしょ!」

 笑う山中先輩。

 そして、矢代先輩もマジかと苦笑い。


「なあ、涼香。俺達ってもしかして……」


「うん。たぶんだけどさ……」

 俺達の言葉を山中先輩に先取りされてしまう。


「気が付いてないだけで、付き合う前から好き同士だったんじゃない?」


 なるほど。

 そう言う事だった訳か。


「えへへ。なんか最初からお似合いだったって、気が付いたら恥ずかしくなって来ちゃった。そっか、私って祐樹の事、付き合う前から好きだったんだね」


「……」


「……」


「……」

 黙って涼香を見る俺と先輩方二人。

 内心はこうだ。

『こいつ、凄い恥ずかしい事を普通に口にして、恥ずかしくないのか?』

 で、まあ、それに気が付いた涼香は顔を真っ赤にして取り繕う。


「うぅ~、めっちゃ恥ずかしい事言っちゃったじゃん……。祐樹の馬鹿!」

 涼香にポコッと優しく殴られる俺。

 そんな感じで楽しく、バーベキューの準備は進んでいくのだった。


 

 

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