第55話ダイエットする涼香が可愛い。

 寝間着から着替えた俺と涼香。

 お出かけ用の服ではなく、動きやすい服装だ。

 それもそのはず、ちょっとばかしこれから体を動かそうって言うんだからな。


「うしっ。まずは、軽く腹筋だな」

 右手を怪我しているので、筋トレメイン。

 すっかり、割れていたお腹もちょっと割れてるか割れて無いかになっている。

 足を押さえないで行うタイプの腹筋をしようと思ったが、


「ま、涼香が居るしな。押さえてくれ」

 

「りょ~かい!」

 体力測定で行う上体起こし。

 腹筋の鍛え方で容易に想像できるオーソドックスなものと言えばこれが一番だ。

 まあ、筋トレにめちゃくちゃ詳しい人は効率的じゃないので、あんまりやらない鍛え方だけどな。

 で、非効率なのに何でやるかって?

 そりゃ、涼香とイチャ付きたいからに決まってんだろうが。


「よしっ。じゃあ始めるとするか」

 足を押さえつけて貰った俺は体を起こした。

 すると、涼香が可愛くカウントをしてくれる。


「いーっち! に~! さん!」

 別に体力測定という訳でもあるまいし、数を数える必要なんて無い。

 だと言うのに、数える涼香。

 止めても良いのだが……カウントの合間合間に涼香が可愛いのだ。


「じゅう! はい、もう十回、頑張れ~」

 

「ふっ! ふっ!」

 吐息を漏らしながら体を床から起こし続ける。

 100回が終わり、床でハアハアと息を荒げていると涼香が微笑む。


「祐樹が運動している時の顔ってカッコイイよね」


「おうおう。言ってくれるな。結婚する前は、俺が運動している時の顔を見て、必死すぎで笑えるとか言ってたのによ」


「あはは、ごめんね。でもさ。実際、結婚する前でも運動している時の顔は嫌いじゃ無かったよ?」


「いや、笑えるとか言ってたろ」


「違う違う。普段は馬鹿してるのに、運動している時の顔だけは誰よりも真剣で笑えるって意味だもん」


「あー、そう言われてみればキモいだとか直接的な罵倒はされたこと無いか」


「でしょ? だって、笑えるだけでさ別に気持ち悪くなんて思って無かった。んふふ~、あの時は私は素直じゃ無かったからね~。カッコイイなんて言えなかったんだよ?」

 結婚する前は素直じゃ無かったが、いまでは超がつくほど俺に素直な涼香。

 ついつい可愛いと虐めたくなっちゃうのが男と言う生き物。


「ほれ、次はお前の番だぞ」

 俺と同じく運動着に着替えている涼香に上体起こしをさせるべく促す。

 涼香は太ってないけどね! とセリフを吐き捨てた後、上体起こしをするための体勢になった。


「祐樹~。変なとこ触っちゃダメだよ?」

 曲げた足を抑え込もうとしたらこれだ。

 もうやめてくれ。

 俺を誑かすのを本当にやめてほしい。意味深な事を言われたら、普通にしたくなっちゃうに決まってるだろ?


「ちなみにどこまでなら触っても……」


「ぜ~んぶ! あはは、どうする?」


「この痴女め!」


「お嫁さんに向かって酷いな~」

 とまあ、いつでもウェルカムな涼香。

 手を出したら、本当に最後までしちゃいそうなので我慢する。

 何度も言うが、我慢する必要はないのに。


「よしっ。抑えたぞ」


「この意気地なし~。じゃ、始めるね。ん゛ん゛ん゛~~~」


「ほ、本気か?」

 滅茶苦茶辛そうに体を起こす涼香。

 その様子を見て、つい口を出してしまった。


「ふは~。本気だよ。えへへ?」


「おい、嘘つくな」


「ぶ~~。だって、か弱い女の子の方が受けが良いじゃん」

 普通に涼香は運動神経が良いのを知っている。

 ほ、本気か? と言ったのは冗談は良して本気を出せという訳だ。


「俺は運動できる女の子の方が好きだぞ?」


「なんで?」


「お尻が引き締まってるから」


「うわ~、すけべさんだ。あ、そう言えば、検索履歴にも……」


「止めて下さい。ほんと、恥ずかしいんで止めて下さい」


「あははは、この思春期め! でも、可愛いから言っちゃお~。お尻大好きさんなんだよね?」


「ぐふっ」

 誰か助けてくれ。

 涼香が俺の性癖知っててそれで弄って来るんだが?

 っくそ、めちゃくちゃ恥ずかしくて死にたい。


「んしょっと。お話はこれくらいで本気だそ~。ほい、スタート!」

 さっきと打って変わって、めちゃくちゃに速いペース。

 それもしっかりとした上体起こしを始めた涼香。

 ふんふんと普段よりかは息を荒げているが、規則的で全然苦しさはない。


 ……あれ?

 こいつ、俺よりも腹筋できるんじゃね?


「す、涼香。これで全力だよな?」


「ん? まだペースは上げられるよ。こんな感じでさ!」

 さらに早くなる。

 あ、うん。

 これ、絶対に涼香の方が上体起こし出来るな。

 いや、まあ。サッカーを辞めてからだらけてただけだし……こ、このくらい俺だって前だったら出来たからな。


「ちゃんと鍛え直すか……」


「女に負けてたまるか? って感じ?」


「まあな。こう、男として負けるのは恥ずかしい。ほら、何だかんだでお前を守ってやるためにも強くないとダメだろ?」

 めちゃくちゃに臭いセリフを吐いた。

 自分で言って後悔したし、涼香も『何言ってんの?』って笑うに違いない。


「……も、もう一回言って欲しいな~。だ、だめ?」

 が、しかし、もの凄くツボに嵌ったらしい。

 嬉しそうにもう一度言えと催促されてしまう。


「お、おう。なんだかんだで、お前を守ってやるためにも強くないとダメだろ?」


「きゃ~、うれし。ちょっと臭いセリフだけど、凄いキュンキュンする! これは祐樹のためにも良い体を作らなきゃね!」

 熱心に運動して痩せようとすべく勢いよく上体起こしを再開する涼香。

 あ、あの。

 その速さ、さすがにお、俺の全盛期よりも早くないか?

 俺、涼香より強く成れないんじゃ……。

 そんな感想を抱きながら、お部屋で出来る軽い運動を涼香と楽しんだ。


「ふ~、いい汗かいた! 見て見て~、汗だく!」

 運動着がびっしょりな涼香。

 そんな彼女を見て思った事が一つ。

 めちゃくちゃエロい。

 運動着と言えど、あくまでガチガチな運動着ではない。

 Tシャツは速乾性の物ではなく、びしょびしょに汗を吸って色を変えている。

 それがなんと言うか、めちゃくちゃにエロいのだ。


「涼香。外で運動する時は程々にな」


「なんで?」


「汗かいたお前、めちゃめちゃエロい」


「じゃあ抱き着かれたら興奮しちゃうのかな~」

 汗だくな涼香がいじらしい顔で俺に近づいて来た。

 

 しかし、なぜか途中で離れて行った。


「いつものお前らしくない。抱き着かないのか?」


「汗臭いんだもん。祐樹に嗅がれたくない……」

 しおらしくそう言う涼香。

 もうだめである。


「わるい」


「ゆ、祐樹!? あ、汗臭いかもだからダメだよ?」

 ちょっと強引に抱き着いてしまう俺であった。

 ま、嫌そうだったからすぐに止めるけどな。





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