第54話意地でも太ったのを認めないのが可愛い涼香。

 えっちな自撮り写真を送ってきた涼香といつものようにベッドに寝そべる。

 しかし、悶々として中々に眠れない俺。

 どうせ明日は休みだし、起きれなくても問題はない。

 そろりとベッドから抜け出てリビングに行き、そこで眠くなるまで携帯を弄ることにした。


「ふぅ」

 テレビは付けずにソファーに座る。

 携帯を弄り始めるも、よくよく思えばパソコンがあるんだし、パソコンを使った方が良い事に気が付いた。

 画面が大きい分得られる情報量は、携帯に比べて凄まじく膨大なのだから、使わない手はない。

 俺はソファーから降り、机にパソコンを置く。

 それから、眠くなるまでパソコンで動画を見たり、調べ事をしたり、色々とするのであった。


「……っと。寝落ちするとこだった」

 パソコンの前でうとうとし、眠りこけそうになった俺。

 ノートパソコンを閉じ、ベッドへ向かおうとするも、その気すら沸かないほど眠いので、ベッドではなくソファーに横になった。




「くふっ」

 変な吐息を漏らす俺。

 鼻をつままれ、息苦しくなり目が覚めたのだ。

 変な吐息だって出る。


「おはよ。どうして、ベッドでじゃ無くてソファーで寝てたの?」


「鼻をつまんで起こす起こし方は止めろって。なんだ、俺に恨みでもあんのか?」


「朝起きたら、一緒に寝たはずの旦那が居ないんだもん」


「あ~、確かに。俺も朝起きたら横に居たお前が居なくなってたら泣くな」


「でしょ? という訳で、鼻をつまんじゃった! えへへ、ごめんね? さてと、朝ご飯を一緒に食べよ?」

 寝るのが遅かったので眠気はまだあるし寝て居たい。

 しかし、涼香に朝食を食べようと誘われたら断れないに決まっている。


「おう。食べるか」


「昨日の夜に炊飯器のタイマーをセットしたから、朝からお米が食べれるし、おにぎりにしよっか!」


「だな」

 手を濡らすための水とおにぎりに掛ける塩を用意。炊けているお米をボウルに移した後、手を水で濡らしおにぎりを握り始めた涼香。

 ご機嫌におにぎりを握る姿を後ろで眺める。


「ふっふ~のふふんふん~」


「鼻歌とはご機嫌だな」


「だってさ~、祐樹の弱みを握っちゃったし~」


「ん?」


「祐樹。寝る前にパソコンの検索履歴を消した?」


「……どこまで見た?」


「んふふ~、内緒だよ~」

 消し忘れた検索履歴。

 昨日の夜は割と幅広く調べたのを覚えている。

 お嫁さんを喜ばせるコツ。倦怠期に入らないコツ。

 そして、何よりも一番ヤバいのは……えっちな事である。

 それはまあ、性欲の無い男じゃない俺は普段はスマホで調べているような事をパソコンで色々と調べてしまったわけだ。


「てか、俺が調べたことを見た所でどうする気なんだ?」


「祐樹を誘惑するために役立つよ? 例えば……、お兄ちゃん! そろそろおにぎり出来るよ!」


「……実家、帰って良いか?」

 嫁にバレた閲覧履歴。

 よりによって、まさかの妹物だった。

 ま、まあ、別にど、ど、どうってことは無いんだぞ? 

 た、ただ、何とも言えない恥ずかしさが凄まじいだけでな……。


「え~、お兄ちゃん帰っちゃうんだ。涼香、残念だな~」


「……辞めて下さい。恥ずかしくて死にます」


「あははは、ごめんねっと。はい、おにぎりは出来た!」

 おにぎりを握り終えた涼香。

 手を洗って、フライパンを熱し、卵を溶いて玉子焼きを焼いた。

 そして、包丁でサクッと食べやすいサイズに切るのを、出来たばかりのおにぎりが美味しそうだったので食べながら見ていたら……


「つまみ食いは駄目だよ?」


「仕方ないだろ。美味しそうだったんだし」


「私が握ったおにぎりだからね。それはそれは美味しいからしょうがないか」

 さて、リビングにある机の真ん前におにぎりと卵焼きが乗ったお皿を運ぶとしよう。

 運び終えて、涼香と一緒に残りを平らげた。

 朝からずっしりと食べて満足感が凄まじい中、涼香は……無慈悲にも述べる。


「ねえ、祐樹。少し太って来た?」


「……自分でも自覚してるが、そうだろうな」


「じゃあ、明日からご飯を減らそっか。たぶん、あれでしょ。私が結構たくさん作っちゃってるのに、残さないように~って食べてくれてるんでしょ?」


「まあ、それもある。だがな、太り始めたのは最近じゃないぞ」


「ん?」


「サッカー部を辞めてから普通に太り始めたんだよ。ただ最近は太る速度が速くなっただけだ。とはいえ、さすがにぶくぶくに太るのは避けるべきだし、軽い運動でもするか……」

 足を怪我し、思い通りに走れなくなったのでサッカーを辞めて以来、運動はほとんどしなくなった。

 運動をしていると、どうしても大好きだったサッカーを辞めてしまった後悔が頭によぎってしまうせいだ。

 でも、さすがにそろそろ踏ん切りはついた。


「運動か~。でも、右手を怪我してるのに出来るの?」


「筋トレ中心でなら十分出来るぞ」


「そっか。お皿を片付けよ~っと」

 机におにぎりと卵焼きが乗っていたお皿が置きっぱなし。

 それを手に取り、台所へと運ぶ涼香の後姿を見た俺はつい口ずさんでしまう。


「お前も太った?」


「……ふ、太ってないもん」


「あ~、悪い。気に障ったか?」


「ふ、太って無いから全然気にしてないからね!」

 虚勢を張る涼香。

 俺的には太られても別に問題ないんだけどな。


「よし、せっかくだ。お前も俺の軽い運動に付き合え」


「ゆ、祐樹がそう言うならしょうがない。別に太ってないけど、祐樹に誘われちゃったら付き合うしかないよね」


「ったく。素直じゃないな」


「……だって、祐樹にデブって思われたくないんだもん」

 乙女心全開な事に対し、頬がゆるむ。

 結婚する前は俺が太ったか? とか聞くと『死ね!』って言われて来た。

 でも、いまじゃ、可愛げに太ったのを認めないで誤魔化そうとする。


「可愛い奴め。太ったくらいで俺が涼香を嫌いになるわけないだろ?」

 こうして今日もまた、普通に幸せな時間から一日は始まった。







 

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