第53話自撮り写真をくれる涼香が可愛い?

 アウトドアサークルにて、6月後半ごろに行う活動を決めろと言われた。

 まあ、机の下で手を握り合っていた俺達が悪いので仕方がない。

 てか、表立って行動するのは別に嫌いじゃないし。


「ねえねえ、こことかどう?」

 金田さんから格安で買ったノートパソコンで調べている涼香が俺を呼ぶ。

 後ろから、画面を見ると、ある川について書かれていたページが開かれていた。


「川か……」


「車が無くても交通の便が良いし、バーベキューの道具も向こうの人が用意してくれるって」


「でも、アクセスの良さは矢代先輩と山中先輩が車を運転してくれるんだし、そこまで気にしなくて良いんじゃないか? 」


「そっか。う~ん。じゃあ、アクセスはあんまり気にしないで……っと」

 二人して、アウトドアで遊べるような場所を調べあげる。

 夏休みの後半、9月15日には泊りがけでガチガチのキャンプなのはもう決まっており、それに関しては矢代先輩と山中先輩が仕切ることになっている。

 今回、俺達が仕切るのは、お気軽に楽しめるアウトドア。

 つまり、『外』で遊びさえ出来れば、何でもOKだと矢代先輩に言われている。

 そうとなると、視点を変えて……


「アスレチックとかどうだ?」


「なるほど。アスレチックも野外と言えば野外だもんね。じゃあ、ハイキングとかも良いんじゃない?」


「なるほどな……」

 アウトドアと言えば、キャンプを想像しがち。

 けど、実際は外での活動であれば、ほぼ何でもアウトドアと言える。

 それが分かった俺と涼香は色々と調べるのであった。



 で、まあまあ案がまとまった。

 矢代先輩に車を出して貰い、手軽に登れる山のふもとまで向い頂上を目指す。

 そんな感じの案で良いか矢代先輩に確認すると、


『上出来だな。てっきり、無難な川でバーベキューとか言われると思ってたが、ちゃんと考えてて驚いたぞ? どこの山に行くかは……車を運転する俺と山中と一緒に決めっか』

 と言った感じで、割と何とかなるのであった。


 そして、アウトドアサークル以外でも色々なイベントが動き始めている。

 俺が所属している食べ歩きサークルでは、サークル全体とまでは行かないが、参加希望者を募り、大阪旅行の計画を立て始めるグループ。

 涼香の所属している写真サークルでは、写真を撮るためにどこかの渓谷に皆で行こうという話が上がっているらしい。


 そんな感じで色々と催されそうなこれからの季節。

 当然、それらに参加すればお金はどんどん減って行く。

 確かに俺と涼香は宝くじを当ててお金に余裕がある。

 だからと言って贅沢三昧していたら、あっという間に使い切る。

 よって、月々に幾らを使うか、きっちり計算してお金を割り振った。

 これから起こるすべてのイベントに参加した場合、その割り振ったお金だけじゃ足りそうにない。


「うーん。バイトした方が良いのかな~。それとも、この数年だけはバイトせずにお金を多めに使った方が良いのかよく分からないや。祐樹はどう思う?」


「確かに若いうちは遊べる金があるなら遊んでおけって言われるよな……。バイトで稼いだお金よりも、正社員として働けばすぐに追い越す。だから、バイトしなくて済むなら、バイトする時間を人生経験のために遊べってよく言われてる」


「贅沢な悩みだね」


「だな」

 

 本当に贅沢な悩みを抱いていたその時、インターホンが来客を知らせる。

 誰だ? と思ったのも束の間、たったっと玄関へ駆けて行く涼香。


 そして、1分後。


「じゃーん!!!」

 これ見よがしに段ボールを見せつけられる。

 テンションの高さからして、何が入っているのかは明白だ。


「カメラか?」


「うん! あけちゃお~っと」

 段ボールを開け、中からカメラが入った箱を取り出す。

 取り外されていたバッテリーを取り付けたり、カメラ本体に首掛けようのストラップを付けたり、microSDを入れる。

 そして、電源ボタンを付ける涼香。

 まるで子供が欲しがっていたおもちゃを買って貰えたかのようだ。

 ほっこりとした気分になっていると、涼香は俺の目を見て嬉しそうに笑う。


「良いでしょ?」


「まるで子供だな」


「子供じゃないですよ~だ。さてと、説明書。説明書」

 電源を付け、説明書を片手に初期設定を済ませる。

 そして、得意気にカメラを構えてシャッターを切った。


「記念すべき1枚目は祐樹で!」


「ったく、ほんと、ナチュラルに誑かして来やがって……」


「ねえ、見て見て~」

 ちょっと間抜けな顔をした俺の写真を見せてくれた。

 それからというものの、部屋のありとあらゆるものを写真に収めて行く涼香。

 ゆったりとした気分で眺め続ける。


「なあ、ちょっと触らせてくれないか?」


「え~、壊さないでよ?」

 文句を言われながらも、カメラを貸して貰えた。

 しかし、片手しか使えない俺はカメラを構えることが出来ない。


「携帯ならまだしも、さすがに一眼レフカメラは片手じゃ持てないな。ほれ、返してやろう」


「私のなのに偉そうにしちゃって。という訳で、はいチーズ!」

 

「お前、俺の写真を撮りすぎじゃないか?」


「じゃあ、祐樹も撮って良いよ?」


「よし、そう言う事なら……」

 携帯のカメラを起動し、写真を撮った。

 何の変哲もない涼香の顔。

 だけど、それでもなんと言うか、見ているだけで幸せな気分に浸れる。


「待ち受けにしても良いか?」


「さすがに私単体で写るその写真はちょっと……」

 嫌そうな涼香。

 確かに奥さんの顔を待ち受け画面にするのは……いや、滅茶苦茶に待ち受け画面にしてみたいんだが?


「ちょっとだけで良いから、待ち受け画面にさせてくれ」


「すぐ戻してよ?」

 嫌がる涼香の反対を押し切り、待ち受け画面を涼香の写真にする。

 携帯を取り出して、ロックを解くと待ち受けているのは涼香の顔。


「……最高だな。こういう風に至近距離の顔写真を撮らせてくれる相手が居るのを、実感できるのが凄く良い」


「はい、おしまい!」

 ひょいと携帯を奪われ、待ち受け画面を元通りにされた。

 ……内緒で涼香の写真に変えよう。

 そう内心で思っていたら、


「削除っと。なんか、私に隠れて待ち受け画面にしちゃいそうな顔してたし」


「っく」


「やっぱり~。祐樹とはもう長い付き合いだもんね~そのくらい分かっちゃうんだよ?」


「待ち受け画面にしないから、お前だけが映る写真を撮らせてくれ」


「この愛妻家め! そう言って、撮った写真を絶対に待ち受け画面にしちゃうからだ~め!」

 それから押し問答を繰り広げる俺と涼香であった。





 結局、写真は撮らせて貰えなかった俺は、お風呂から上がり、髪の毛を拭いて貰った。

 そして、俺に続いて涼香が体を綺麗にすべくお風呂へ。


「ま、俺もあいつが俺だけが写る写真を待ち受け画面にしたいって言ったら、ちょっと……って感じだしな」

 とはいえ、涼香だけが写る写真は何としてでも欲しい。

 絶対に撮らせて貰おう。


 そう思っていた時である。


 メッセージが送られてきた。

『私の写真が欲しくて欲しい祐樹へプレゼント!!! これなら、待ち受け画面に出来ないよね?』


「ん?」

 どういうことか理解する前に、メッセージに続いて写真が届く。

 その写真はなんと言うか、えっちだ。


 服をはだけさせ、ちょっとだけ見える下着と白い肌。

 そんな恰好をしているせいか、やや恥ずかしそうな表情を浮かべる涼香。


 めちゃくちゃに滾る気持ち。

 もう、このままお風呂に入った涼香の元へ突撃したくて仕方がない。


「よし、襲いに行くか」


「襲っちゃうんだ」

 やや後方から聞こえた声の方向を向くと、リビングの入り口で俺の様子をにやにやと伺う涼香が居た。

 えっちな自撮り写真を送った相手がどんな反応をするか気になるもんな。

 こっそり俺を見張ってたのだろう。


「っく、お前に焚き付けられた感じで襲うのは、負けた気がするし御免だ」

 思いっきり、涼香は俺が襲うのを想定している顔をしていた。

 しかし、なんか負けた気がするので必死に気持ちを抑えつける。

 ……抑える必要なんてないのにな。


「ふふっ。我慢しなくて良いんだよ?」

 いじらしい笑いを向けて来る涼香。


「えっちな女の子め……」


「えっちな女の子って言ったよね? じゃ、お風呂入って来る~。あ、鍵は開けとくからね~」

 満足した顔つきでお風呂場へ向かう涼香。

 ……いや、うん。ほんと、えっちな女の子で困るんだが?





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