第52話とうとう外でもイチャイチャする二人?
4月の3週目のある日。
1年生も大学の雰囲気に慣れ始めた頃。
高校生の時からの先輩である矢代先輩により、アウトドアサークルのメンバーは食堂の一角に集められた。
「よし、集まったな。という訳で、5月下旬にある文化祭で出す屋台についてだ」
矢代先輩が切り出した話題。
それは文化祭の模擬店で何を出店するかについてだった。
俺達の通う大学の文化祭は大いに賑わう方。
模擬店を出して、サークルの活動費の足しにする事が十分に狙える規模を誇る。
去年もなんとかギリギリ計画を立てて、文化祭に模擬店を出店。
活動費に充てて、色々なアウトドア道具を購入したそうだ。
「はいはい! タピオカ屋さんやりたい!」
アウトドアサークル一の自由人である山中(やまなか) 裕子(ゆうこ)先輩が手を挙げて叫ぶ。
すると、矢代先輩はやれやれと言わんばかりにこういう。
「茹でるタイプのタピオカは使用禁止だそうだが、冷凍タイプやシロップに浸かっているタピオカなら使用しても良いらしい。それを、ジュースに混ぜて売る……となると、利益的には結構な額が出せるはずだ。しかし、俺が知る限り、4店舗くらいすでに出店する予定らしい」
「あちゃ~。うちなんて弱小サークルは模擬店を出店させられる場所は端っこだしね~。立地的にもきついか~」
「そういう訳だ。で、他には何か案がある奴は?」
矢代先輩と目が合う。
何か言えと言わんばかりな目をされたので、手を挙げる。
「えーっと。綿あめとかってどうですか? 機械さえあれば原材料はほとんど掛かりませんし」
「綿あめも人気でお店が幾つか並ぶ。価格競争になり、最終的にはほとんど利益が出ない値段で売ることになる。という訳で、じゃんじゃん意見を出してくれ、儲かればサークル活動費に出来るからな!」
それから色々と話し合うアウトドアサークル。
時間だけが過ぎて行き、暇に感じて来た時だ。
むぎゅ。
いきなり手を握られた。
ぎゅと強く握っては、ふんわりと握った手の力を弱めて来る。
「……」
無言の圧力を隣に座る涼香に掛けるのだが、素知らぬ顔で知らんぷり。
幾ら暇だからって俺の手で遊び始めるなよ。
とか思いながら、反撃すべく握られた手を強く握り返した。
「んっ、げほっ、げほっ」
ちょっと息を漏らした涼香は誤魔化すべく咳き込んだふりをする。
いきなり強く握った事に対し、強く握りすぎでしょと、言わんばかりに目で訴えかけて来た。
その後、負けじと俺の手をにぎにぎして来たので、俺も握り返す。
文化祭についての打ち合わせが行われる中、机の下という見えない空間で手を握っている妙な背徳感が心を高ぶらせる。
気が付けば、少しだけと思っていたのに、ず~っと握っては握られるを繰り返している俺と涼香。
「え~、ここで私から大事なお知らせがありま~す!」
山中先輩が少し声を張った。
なんだ? と思う暇なく山中先輩が告げる。
「会議が暇だからって、机の下でお手々を握ってイチャイチャしてる不届き物が二人います!」
机の下で手を握っていたのがバレた事に対し、慌てて俺と涼香は手を離した結果。
ガタン。
机の裏面に手をぶつけ物音を立ててしまう。
「……」
「……」
無言を貫く俺と涼香。
しかし、周りはさっきの物音がして来た方向である俺達の方をじっと見て来る。
物音を立ててしまったのが、かなり響いたようだ。
重圧に耐えきれないし、素直に謝るか……。
「すみませんでした。机の下で手を握ってました」
「このこの~。新藤夫妻は今日もお熱いね~。でもさ~、会議中にそう言う事をしちゃダメなんだよ?」
喜ぶ山中先輩。
それに続いて、そうだそうだとからかう周り。
矢代先輩もお前らなあ~と言う目。
もともと、外では表立ってイチャイチャするようなタイプではない俺と涼香。
そりゃもう、当然めちゃくちゃに恥ずかしくて顔が熱くなる。
「よし、会議中なのにイチャイチャするお前らには俺から罰をやろう。文化祭関係をお前ら主導に回すのは……厳しいな。よし、今度のアウトドアサークルでやるイベントを企画をして貰うとするか」
矢代先輩が会議中に隠れてイチャイチャする不届き者には罰を。
という訳で、今度のアウトドアサークルでやるイベントの企画を任された。
「矢代先輩がちゃんと相談に乗ってくれるならやります」
「おうおう。相談はきちんと乗ってやるから安心しとけって。何も、全部お前らにぶん投げて、ハイおしまいってわけじゃねえよ」
頼もしい矢代先輩。
イチャイチャしていたのは事実。
ここで言い逃れてしても良い事は無い。
「はい。じゃあ、やります……。いえ、やらしてください」
「う、うん。私も頑張ります!」
と言った感じで、文化祭の後に控えるアウトドアサークル第1回目のイベントを企画することになった俺と涼香であった。
なお、文化祭の打ち合わせ最中。
定期的に、みんなが机の下を見て来るという監視が続いたのは、言うまでもないよな?
机の下で手を握って、イチャイチャしてるのがバレた日の帰り道。
恥ずかしさも薄れ、笑い話みたいに話す俺と涼香。
「あ~、もう。祐樹のせいで、みんなから凄い目で見られちゃったじゃん」
「お前が先に手を握って来たんだが?」
「ふふっ。ごめんね?」
「それにしても、打ち合わせが飽きて来たからって、俺の手を握って遊ぶか?」
「だって、握りたくなったんだもん。怒ってる?」
「こんくらいの事で怒るわけないから安心しとけ。まあ、あれだ。むしろ、可愛い事をしやがって、こいつめ……って感じだ」
「わーい。祐樹にまた可愛いって言って貰えた~。んふふ、祐樹って可愛いって一杯言ってくれるから好き~」
感情豊かに笑う涼香。
今、住んで居る家までの帰り道。
大学から少し離れた駅という事もあり、人とすれ違わない路地がたくさんある。
前にも後ろにも人が居ない道路。
人目を気にして道路で手を握るとかは恥ずかしくて出来ない俺達。
「誰も居ないし手を繋いでも良いか?」
たどたどしくそう言った瞬間、勢いよく握られた左手。
返事はなかったが、そう言う事だ。
「ねえねえ、人が居るのに、バレないようなとこで手を握り合うって、なんかイケナイ事をしてる~って感じでドキドキするよね」
「まあな。今も人が通りかかりそうで、通りかからない道路で手を繋いでて普通にドキドキだ」
「お揃いだね~」
と言った感じに話している時だった。
前方から自転車に乗った主婦が近づいて来るのが目に入った。
手を握っている俺と涼香は恥ずかしさからぱっとつないだ手を離す。
「んふふ」
「っぷ」
二人して変な笑いを浮かべた。
人が見てると知った途端に手を離して、隠すかのような素振り。
それが妙に面白くて仕方がないのだからしょうがない。
で、周りに人が居ないのを確認した後、
「手、繋ご?」
「人が周りにいないしな」
再び手を繋いで歩く俺達であった。
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