第51話心配してくれる涼香は可愛い
怪我をして約2か月。
経過観察のため、病院へちょくちょく足を運んでいる。
早くて5月に入る頃には怪我した右手のギプスは取れると言われていたが、お医者が無慈悲にも告げて来る。
「あ~、うん。君、怪我の治りが遅いね~。念のため5月後半まではギプスね」
「……そうですか」
ギプスが取れるのが遅くなって意気消沈。
それから、俺はと言うと弁護士事務所へ向かう。
怪我に掛かった治療費やら、慰謝料の請求をお願いしており、現在進行形で手続きを行ってくれている。
進捗について話しをしに行くわけだ。
案内された応接間で話をする事10分くらい。
話を締め括る弁護士の先生。
「進捗は今の所、このような形です」
「ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします」
「いえ、こちらも仕事ですから。それでは、お気をつけてお帰りくださいね」
弁護士さんと色々と話を終えた。
まだ通院も終わっていないが、大体どれくらいの慰謝料が請求できるか弁護士の人が出してくれた。
俺の場合、入院もしてるし、通院回数も多い。
そのため、結構な額を請求できるみたいだ。
とはいえ、子供が原因での怪我。
ちょっと揉めているらしいけどな。
弁護士事務所はそこそこの繁華街にある。
色々なお店が軒並みを連ねており、少し歩くと良い匂いがして来た。
「お土産でも買って帰るか」
わざわざ病院の待ち時間や、弁護士とのやりとりに付き合わせるのも悪い。
そう思って、涼香にはお留守番して貰った。
という事にしてあるのだが、実際はちょっと違う。
俺が怪我して病室に謝罪しに来た男の子の親が失礼なことを言って、ガチギレをぶちかましたからだ。
『子供がやった事ですし……』
まるで自分には責任がなかったかのように言い逃れする親。
終始そんな態度で、涼香が『子供がやった事なら、その責任は親にあるんじゃないんですか?』と聞いた。
そしたら、バツの悪そうな顔をして親はこういった『少なからずは……』と。
あくまで子供がした事。
自分はそこまで悪くないと思っているのが見え透いていたし、言葉はお世辞にも謝罪してはいるが、誠意は感じられなかった。
結果、涼香はキレた。
『後遺症が残ったらどうしてくれるんですか? 子供がした事とは言え、手が動かなくなったらどう責任を取ってくれるんですか?』
手こそは出さなかったが、正論の暴力を振りかざし怒鳴ってくれた。
「あんときはガチで嬉しかったんだよなあ……」
今でもあの時の気持ちは思い出せるくらいだ。
けど、感情的になり過ぎて、手を出したら涼香が不利になる。
そんな経緯で怪我や慰謝料関係の話から遠ざけているわけだ。
「お、美味しそうだな」
適当にぶらりと歩いて、涼香が好きそうなお菓子、それをお土産とし携え部屋へ帰るのだった。
部屋に帰って来た俺。
涼香の出迎えの後、カバンを片付けた後、ソファーに座りくつろぎ始めると、一緒にソファーに座っている涼香が心配してくれる。
「で、どうだった?」
「右手のギプスは治りが微妙だから念のため5月後半までギプスだとよ」
「へ~。じゃあ、もっと慰謝料請求しなきゃ」
笑っていない目つきでそう言った涼香。
普通に怖えよ……。
うん、今日は俺の病院やら弁護士のとこに連れてかなくて正解だったな。
「だな。今日、話したんだが、弁護士さんも治りが遅ければ遅い程、慰謝料を上乗せできるって言ってたし」
「うん。祐樹は苦労してるんだもん。搾り取るだけ搾り取らなきゃね!」
やっぱり、涼香は俺の怪我関連からは遠ざけておくべきだろう。
俺のために怒って何か不都合を受けさせるのは嫌だし。
「にしても、ギプスがそろそろ取れると思ってたんだがな……」
滅茶苦茶に悲しい気分。
早くて、5月ごろにはギプスが取れると思っていたのに、5月後半にずれ込むとは思いもして無かったしな。
「右手が治るまでは手を出さんとか言ってるけど、我慢できる?」
悪魔に誘われるかのような一言。
辞めてくれ、そういう言葉が一番効く。
「おまえなあ……。そういう風に焚き付けてると、本当にいきなり襲われても知らないぞ?」
「襲われる覚悟は出来てるもんね~。ほれほれ、襲っちゃいな? ね?」
ひらひらと穿いているスカートをなびかせて誘ってくる涼香。
と言うか、思った。
「お前、もしかして俺よりもそう言う事を期待してるんじゃないか?」
「……そそそ、そんなこと無いよ?」
「そうか?」
突き刺さる俺の一言。
涼香は最近ではあまり見せなくなった慌てる素振りで恥ずかしさを訴える。
なるほど、エッチな事でからかってもそこまで反応をしなくなったと思ったが、からかい方の方法次第ではまだまだ初心という訳だな。
「ゆ、祐樹と違ってすけべじゃないし~」
「まあ、俺はスケベだな。それは認めよう。で、本当のとこは?」
「えっちな女の子は嫌い?」
「嫌いじゃないぞ」
「じゃあ、ちょっとえっちな事を期待しちゃってる……。私だって普通にそういうことには興味があるんだよ?」
「……」
この涼香嫌い。
いや、めちゃくちゃ好きだけどさ。
昔だったら、頑なに俺のからかいを否定し続けて来たくせに、今はある程度、否定した後、普通に認めちゃうとか本当にずるすぎる。
「おまえ、昔はもっと意地を張ってたろ」
「そりゃあ、あの時は祐樹とは幼馴染だからね。でも今は、変に意地を張って嫌われたくないし」
「にしても、素直すぎだろ」
「まあね。前だったら、エッチな女の子め! とか言われたら、ぜ~~ったいに否定しちゃってた」
「けど、俺が好きだから否定も程々にと」
「うん! そういうこと~。だって、祐樹になら何だって知れても良いかな~って。んふふ、やっぱり、色々と知られるのは照れちゃうけどね」
えっちな女の子という俺のいじりを頑なに否定せず、受け入れたわけだな。
もう辞めてくれ。俺がドキドキして死んじゃうから……。
「だ、だからと言って、俺に言われるがままえっちな女の子と認めるのはどうなんだ? 実際、俺に押し切られる感じで言われたから認めただけで……えっちな女の子じゃないんだろ?」
動揺した俺はさっきの主張とは反対の主張をしてしまう。
えっちな女の子と認めろ! と言ったのに、えっちな女の子と認めるな! と言った感じの主張だ。
「祐樹。ちょっと失礼するね」
「ん?」
失礼するねと言われて間もなく、顔を俺の耳元に近づけて来た涼香。
そして、か細い声が俺を襲う。
「えっちな女の子だよ? だからね……こういう事しちゃうんだ~」
カプっと耳を甘噛みされた。
「おまっ!」
「甘噛みしちゃった……てへ? で、どう、興奮した?」
「ああ、お前がこんなえっちな女の子だとは思って無かったぞ」
演技とは思わせないような熱のこもった行動で一気に顔が熱くなっていく。
必死に平静を装うも、涼香には動揺を隠せずに居るのがバレバレなのだろう。
にんまりした顔で俺を見て来やがる。
「この前、恥ずかしがる私をず~っと抱きしめてた反撃だもんね! これに懲りたら私を辱めちゃだめだよ?」
「いや、もっとお前を辱めたくなったんだが?」
こんな風に仕返しされるのなら本望でしかない。
そんな感じで俺が呟くと、
「んふふ~。素直だな~。この、えっちな男の子め!」
どこか楽しそうにする涼香にそう言われてしまった。
いや、まあ、そりゃ、えっちな男の子だからな。
し、仕方ないよな?
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