第47話恥ずかしがる二人は襲来を恐れる

「祐樹。これを買おうかな~って思うんだ」

 夕ご飯を済ませ、ゆったりとテレビを見ながらくつろいでいた時だ。

 涼香が携帯の画面を見せつけて来た。


「カメラか……」

 そう、涼香は写真サークルに入った。

 その影響を受け、一眼レフカメラの購入を決めている。

 あれやこれやと調べて、とうとう欲しいのを決めた様子だ。


「あんまり、私こういうのに詳しくないし。写真サークルの集まりも当分ないし、聞く相手が居ないんだよ。で、どう?」


「良いと思うぞ」

 別に口出すことじゃない。

 涼香が良ければそれでいい。

 あ、もちろん、ちゃんと見た上で、何かしらの不都合があったら話は別だ。

 今回は別に文句をつける必要がなかったからこそ、すんなり良いと思う。

 そう返答しただけだ。


「じゃあ、頼んじゃお~」


「……っと、待った。カメラとかならあいつらが詳しいんじゃないか?」

 通販でカメラを注文する前、ふと思い出した相手。

 それは、


「美樹と田中君だ! あの二人、機材がどうのこうのって言ってるもんね!」


「俺達はずぶの素人。映像機器を買ったあいつらに、ちょっと話を聞いてみれば、買った後に後悔しないはずだ」


「だね~。ちょっと、美樹にこのカメラって良い感じ? ってメッセージを送って見るね」

 涼香は買おうとしていたカメラが売っているサイトのURLを金田さんに送りつける。

 すると、数分後。

 涼香の携帯に金田さんからの返信が帰って来た。


『ん~、映像機器に強いって言っても、動画の方で、静止画の方はあんまり詳しくないんだけどね。でも、涼香が選んだカメラは良いと思う。あ、涼香……。大事な事を忘れちゃってないよね?』


「ん~、わかんないっと」

 金田さんに分からないと返事を返す涼香。


『パソコンを持ってるの? 写真を保存したり、加工したり、印刷したり、まあ、無くても出来るだろうけど、無いと不便でしょ?』


「なるほどね。そう言う事だったんだ」

 感心する涼香を見て、俺もまったくもってその通りだと思う。

 カメラだけ買っても、出来ることは限られる。

 パソコン、プリンターを買う必要がある事がすっぽりと抜け落ちていた。


「この際だ、涼香。パソコンとプリンターも買うぞ」


「え~、でもお金が……」


「まあ、あれだ。プリンターとパソコンは勉強に必要だろ。ほら、レポートを書く時とか」

 パソコンとプリンターがない家庭は増えつつある。

 一度はネットの普及でパソコンとプリンターがある家庭が増えたのだが、スマートフォンの台頭により、買い替えが行われず、パソコンを保有する家庭は減りに減って来ている。

 がしかし、大学生はパソコンが必要。

 レポートを書くときに使うのは目に見えている。

 巷ではスマホ一つでレポートを書く荒業をする奴が居るらしいけどな。


「じゃあ、買っちゃお。どうせ、必要なんだし。あ、動画編集とかでパソコンとかについては詳しそうだから美樹にお勧め聞いてみよ~」

 そして、連絡をしている内に金田さんからメッセージでのやり取りが面倒になったのか電話が来た。


「もしもし。ごめんね。美樹」


「ううん、全然。で、パソコンだけど、編集用に新しくパソコンを買ったし、古いので良ければ格安で売ったげる」

 音量が大きいのでうっすらと金田さんの声が聞こえて来る。 


「え、ほんとに良いの?」


「良いって良いって。どうせ、中古屋に売ったら、全然お金にならないし。じゃあ、今度、涼香の家に持って行くから」


「……」


「どうしたん? 急に静かになったけど」

 静かになって当たり前。 

 高校生の時の友達には同棲している事をまだ伝えていないからな。

 金田さんは今も涼香があの家に住んで居るのを疑っておらず、だからこそ今度、持って行くと言った。

 しかし、あの家に持ってこられても受け取れないのだ。



 だって、もうあの家に涼香は住んで居ないのだから。



「あ、え、わ、私から受け取りに行くから平気だよ?」


「ノートパソコンだし、平気平気。涼香ん家なら、私の通ってる大学の帰りによれるし」


「あ、ごめん。ちょっと親から話しかけられたから、ミュートにする」

 涼香は携帯を弄り、ミュート機能をオンにし、俺に慌てて聞いて来る。


「どうせ隠してても良い事は無いし、同棲について話しちゃう?」


「あー、まあ、良いんじゃないか」

 大学の友達とは違う。

 高校三年間で積み重ねて来た時間がある。


「そうだよね。美樹とかはたぶん弄って来るけど、むやみやたらに言いふらすことは無さそうだもん。あ、あ、あ~」

 声の調子を整えて、金田さんに同棲をし始めた事を伝えようとする涼香。

 強張った顔つきで緊張している。

 ついでに俺も、まあまあ緊張している。


「あ、ごめんね。じ、じつは……私、祐樹とど、ど、ど、同棲してるんだ」


「ええええええええええええ!!」

 うるさく響くリアクション。

 そりゃまあ、高校卒業をしたての俺と涼香がいきなり同棲している事を告げられたこうなるか。

 で、まあ、俺も緊張がヤバくて露骨に心臓がバクバクと脈打ってやがる。


「う、嘘じゃ無いよ? ほ、ほら、祐樹、何か喋って?」


「ここで、俺に振るか……。まあ、金田さん。こう言う事だ」


「私達より、バカップルしてんじゃん! なに、同棲しちゃってんの!」

 興奮露わに叫ばれる。

 これ、結婚したって言ったら、金田さんは驚きのあまり倒れるんじゃ無いか?

 

「な、成り行き?」


「まじか……。まじなんだ……。いや、うん、そっか~」


「で、私は今、実家に住んで無いからパソコンはこっちから美樹の家に取りに行く感じで」


「いや、私から行く。二人がどんな部屋で同棲してるのかめっちゃ気になるし」

 っぐ、こうなる事は分かってたが、それでもなお、何とも言えない複雑な気持ちが渦巻く。

 ちょろっと俺の顔色を覗う涼香。 

 ああ、この家に呼んでも良いぞという顔をしてやる。


「分かった。じゃあ、駅前で待ち合わせしよっか。いつ空いてる?」


 それから、俺と涼香のお宅訪問についてしっかりとした話し合いが行われた。

 で、話し合いが終わり、通話を終えるのであった。


「ふう~~~~~~~~~~~」

 めっちゃ大きなため息を吐く涼香。

 心身ともに結構な負担だ。

 なにせ、高校卒業したての二人でいきなり同棲してるとか、普通に考えてあんまりあり得る事じゃないって重々承知している。

 人に自分たちの普通じゃない所を見せると言うのは、どこか気恥ずかしい気持ちを抱かせるのだから。


「なあ、俺。周りに結婚したって言ったら、恥ずかしくて耐えきれる自信がないんだが?」


「わ、私もだよ……。同棲してるってカミングアウトするだけで、もの凄く疲れちゃった」

 疲弊した涼香はごろんとソファーに寝転んで足をパタパタさせた後、俺の方を向いてうじうじした感じで声を上げる。


「ゆうき~。めっちゃはずかしかった。もう、やだ~。結婚してるとか、絶対言えないよ~」


「俺らやっぱり、色々と問題を抱えてるんだな」

 最近は結婚したことについて、良い面しか見えていなかった。

 でも、やっぱり結婚したことには、ちょっと嫌な面もあるのを再確認する俺と涼香であった。



 っく、金田さんがこの家に来る日が怖すぎるんだが?







 

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