第63話夢以上に大切なもの
メイドのコスプレをした涼香と部屋を綺麗にし終えた。
色々と綺麗になった部屋。
以外と時間が掛かったことにより、ぐったりとした疲労感が襲う。
ただ単に疲れているだけだというのに、贅沢に悩んでいるのを打ち明けた事もあるせいか、
「ティラミス食べよっか。疲れた体には甘いものだよ?」
涼香の気遣いが凄まじい。
なんと言うか、一応は踏ん切りをつけ持ち直したというのにそれでも気を遣って優しく振る舞ってくれるのだ。
「ん、そうだな」
「コーヒーとか紅茶は?」
「ティラミスだから……コーヒー味だし、紅茶で」
「うん。じゃあ、準備するね!」
メイド服を着た涼香との日々。
楽しい時間なこともあり、気がつけば言葉を漏らしていた。
「これからも、たまにメイド服を着てくれるとかしてくれても良いんだぞ?」
「ん~~、祐樹の態度次第じゃない?」
「つまり俺の態度次第では可能性があるわけだ」
「そういうこと。たださあ……一つ問題がある」
「何の問題があるんだよ」
「バカップル過ぎない?」
「……」
ぐうの音も出ない。
確かにもう俺達も田中と金田さんみたいなバカップルだろう。
そう割り切っていたとしても、こうなんかあいつらにバカップルっぷりで勝ってしまうのは負けた気がする。
上には上が居る。だからバカップルっぷりが恥ずかしくない。
そう高を括っていたおかげで、涼香も俺もめちゃくちゃにイチャイチャ出来ていたのは間違いなし。
が、もう超えたんじゃなかろうか?
あの二人よりも遥かに高次の次元に突入しているかもしれない。
そう思うと、何やってんだ? と言う気持ちが迸ってしまう。
「上には上が居る。だから、へーき、へーきって感じてたけど。こう、自分達が一番にバカっぽいとなんか恥ずかしいよね」
「でも、恥ずかしいが止められなさそうなんだよなあ……」
「あはは。確かに止めないだろうね。でもさ、こういう風に家の中でに限らないとダメだよ?」
「分かってる。外で周囲に迷惑を与えるようにイチャイチャする気はない」
「なら良し。なんかこのままだと外でもやらかしちゃいそうかな~って気がしたから聞いておきたかったんだよ。はい、紅茶も完成っと」
紅茶を淹れ終えた涼香は切り分けた特大ティラミスと一緒に、お盆にのせて運んできてくれた。
リビングにある机でゆっくりとくつろぎながらティラミスを食べては、甘さを紅茶で流す。
そんな風に食べるつもりだったが、
「祐樹。はい、あ~ん!」
涼香がティラミスを食べさせてくれる。
おそらく、俺がまだちょっぴり元気がないかもと心配してくれてだろう。
もうだいぶ元気なのだが、まあしてくれるのならして貰うのが俺。
涼香に食べさせて貰うのであった。
甘いティラミスを食べさせて貰い始めて数分後。
携帯電話が鳴り響く。
「おう、何の用だ?」
『田中だ。話すのは久しぶりだな。頼みたい事があって電話した。今、時間は大丈夫か?』
「ああ、大丈夫だ」
『よし、じゃあ話させてくれや。実は今、俺と美樹で動画投稿をしてるだろ? それなんだが……夏休み期間には毎日投稿をしようと思ってる』
「全然、お前が何を頼みたいか内容を掴めないんだが?」
『まあ、話しはこれからだ。で、だ。お前が忙しくなければ、バイト代を出すから動画編集を手伝ってくれね?』
「……いや、なんで俺に頼むんだよ」
『正直に言うと、普通に編集できる人を雇ってもよかった。が、しかし、俺らが撮っている動画を見て見ろ……赤の他人に編集を頼めっか?』
田中と金田さんが撮る動画。
それはカップルの日常。
ドッキリを仕掛けたり、カップルとしてどんなデートをしているか、内容は多岐に渡る。
そして、どの動画にも共通して言える内容。
『田中と金田さんがイチャイチャしてる』
赤の他人には編集前のどぎつい部分は見せたくないんだろうな。
だが、動画投稿で稼ぎに稼ぎまくっている二人。
もう生活も出来る位で、割と職業として通用するレベル。
夏は夏休み需要で動画が再生されるし、新しいファンがどんどん増えて行く。
毎日投稿をし、さらなる躍進をしたいからこそ、自分達以外の『イチャイチャを見せても問題ないような動画編集者』を雇いたいのだろう。
「他の奴は?」
『いや~、バイトしてて厳しいのか断られたり、お前らのイチャイチャなんて見たくねえよ! って言われたりだ。頼みの綱はお前ってわけだ。な、頼む!』
「そうは言われても……編集なんて出来ないぞ?」
『そこら辺は織り込み済みだ。別に字幕編集とかを最初からさせるつもりは無い。カット編集をメインにぼちぼち教えて、夏休みまでに一人で編集できるようにって考えってから安心しろ』
「……ったく、分かったよ。手伝ってやる」
声のトーンからして本気だった。
田中は本気で動画を投稿して稼いでいこうという気概がある。
だからこそ、夢もへったくれもない俺は……そう言う人に憧れるし、そう言う人が居たら手助けをしたい。
『わりいな。んじゃ、色々と教えるために明日とか会わね?』
日曜日。
明日は月曜日だが祝日で講義はないので平気だろう。
「どこでだ?」
『俺んちに来てくれ』
こうして明日の予定が決まった。
取り敢えず、何かしたい事が無いのなら何かし続ければ良い。
誘われれば応じて、誰かが何かしていればそれに混じる。
涼香に甘えさせて貰う事で、そうしようってはっきりと意識できるようになった。
涼香以外に好きなもの。
それを見つけるためには見つけるための何かをしなくちゃいけないのだから。
電話を切ると、涼香がこっちを見つめて言う。
「ふふっ。大丈夫。今の祐樹なら絶対に何かしたい事が見つかるから」
「急にどうしたんだ」
「だってさ、祐樹って今、色々としてるんだもん。食べ歩きであったり、アウトドアであったり、私の写真に付き合ってくれたり色々とね? さらには、電話の内容が聞こえてたんだけど、田中君に動画編集の手伝いを頼まれても断らなかったじゃん」
「まあな」
「たくさん何かをしてる。だから、きっと何かが見つかるはずだよ?」
心配してくれる涼香。
その有難みを感じながら少し気恥ずかしく笑いながら言う。
「ったく、お前はいつまで俺の心配をしてんだよ。普通にもう元気を取り戻してるからな」
「え~、じゃあ、元気無さそうだったから励ますためにティラミスを食べさせてあげて優しくしたの何だったの? あの、掃除が終わってソファーに座った後の寂しげな表情は?」
「ただ単にあれは掃除で疲れただけだ」
「ぶ~、じゃあ、別に俺はもう元気だからそんなに気遣わなくて良いって、言ってくれたら良かったのに」
心配して損した。
ちょっぴりお茶目に文句を垂れる涼香。
そんな彼女に俺はお皿に残っていたティラミスをフォークで刺し口元へ運びながら言う。
「これで許せ」
「あむっ」
モグモグと咀嚼した後、わざと嬉しくなさそうにしながら催促される。
「もっと甘やかしてくれなきゃ許さないよ?」
「わがままな奴め。ほれ、食べろ、食べろ」
涼香のペースなんて気にせず、ティラミスをどんどん口に運ぶ。
ちょ、早いって、とか言われるもお構いなしだ。
二人してふざけて笑いあう楽しい時間を過ごす中、俺は心に決める。
夢を見つけるのも大切だ。
でも、それ以上に涼香の事を一番大切にしようってな。
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