第18話一緒に寝よ?

 スーツを無事に購入した。

 色は黒。

 ストライプも無し。

 遊び心の無いスーツは入学式までには仕立て直され、手元に届く。


「うん、これで入学式の服は大丈夫。さてと、私はネクタイの結び方をマスターしないと」


「どういうことだ?」


「片手で結べる?」


「ああ、そういやそうだった。ま、片手で結ぶ練習もしとくけど、面倒だし、涼香に頼むとしよう」

 そんな話をしながら、俺と涼香が向かったのは家電量販店。

 新居に置く冷蔵庫やら洗濯機を見に行くわけだ。

 大き目の家電量販店。

 アフターサービスを含めれば、実店舗型はそう悪くない。

 価格だけを見て、後々、損するというケースが年々増えて来ているからな。


「冷蔵庫は大きいのにする?」


「金には困ってないが……」

 普通に生活しているが、宝くじの当選金はまだまだある。

 とはいえ、3億円。

 下手に考えなしで使えば、一生を終えるのは叶わないだろう。


「独り暮らし用のちっちゃいのは微妙じゃない?」


「そもそも、自炊すんのか?」


「一応、しようかなって思ってる」


「じゃあ、こんなんはどうだ?」

 大きさは独り暮らしには十分、でも、家族で使うには小さい。

 何とも言えないサイズ感だ。


「氷を自動で作ってくれる機能が付いてる方が良いかも」

 二人で冷蔵庫を選んでいると、変に笑いが込み上げて来る。


「なんで、笑ってるの?」


「いや、お前とこんな風に冷蔵庫を選ぶとは思って無くてな。いや、だって、つい最近まで、幼馴染だったし」


「まさか祐樹と冷蔵庫を選ぶなんて、っぷ。そう考えると、変に笑っちゃうね」


「だろ? っと、完璧にどれを買うか決める前に、洗濯機も見に行くか」


「だね~」

 冷蔵庫売場から洗濯機売り場へ向かう。

 そんな最中、俺は涼香に聞いた。


「そういや、大学では俺達の関係は周りにどう説明するんだ?」


「あ~。難しい問題かも。普通に夫婦って説明しても良い気がするけど、悪目立ちしちゃいそうだよね~」


「だよなあ」

 大学で悪目立ちしたくない。

 キャンパスライフを普通に楽しみたいのだ。

 そう考えると、涼香と夫婦関係にあることを周りに言いふらすのは、良くない気がしてならない。


「いとこ同士で付き合ってて同棲もしてる設定はどう?」


「悪くない。そうしとくか? 大学で変に目立たない方が良いだろ」

 と言っても、大学は人が多い。

 変に目立ったところで、それが周囲に知れ渡るかと言われれば微妙なライン。

 ここまで用心する事は無いんだろうけどな。


「祐樹はサークルとか入るの?」


「入るぞ。部活の先輩から誘われてるし」


「部活って。サッカー部の先輩?」


「サッカー部の先輩が立ち上げたアウトドアを楽しむサークルだそうだ」


「私もそこに入ろっかな?」


「絶賛サークルメンバーを募集中だそうだ。大喜びだろう」



 少し先の話をしながら、たどり着いた洗濯機売り場。

 ところ狭しと並ぶ、数々の洗濯機たち。

 今でこそ、母さんが洗濯をしてくれているが、これからは自分たちでしないと行けなくなるわけだ。


「ゴクリ」

 息を呑む。

 そして、涼香に提案した。


「乾燥機能ありの。こいつなんてどうだ?」

 お値段○○万円。

 余裕の万が二桁を超えている洗濯機だ。


「私も洗濯機は良い奴が欲しかった」


「じゃ、じゃあ」


「良いのを買おっか。というか、指輪を除けば、初めての贅沢なお金の使い方じゃない?」

 宝くじが当たってからの初めての贅沢は洗濯機。

 何とも言えない感じだが、実際はこんなものだろう。

 それから、洗濯機、冷蔵庫の購入を済ませ、入居した日の翌日に届くように配達を頼むのだった。

 オーブントースター、電子レンジ、などなど。

 他にも買いたい家電はあるが、冷蔵庫に比べたら高いわけではない。

 アフターサービスが多少悪いネット通販等で事足りるだろう。

 冷蔵庫、洗濯機、といった高い商品だからこそ、大型家電量販店のアフターサービスは大事だ。

 良くある話だが、ネット通販で買った家電で初期不良があったというのに、そちらで壊れたのでは? と言われ揉めたり、配送料がなぜか自分負担な上、手配はこっちでやれとか良く聞くしな。


「さてと、家電量販店にもう用はない。次行くぞ。次」


「次は家具屋さんだね」


「ああ」

 某大手家具屋に向かった俺と涼香。

 目的は机とか、ベッドとか、棚とか、色々だ。

 これまた、早いうちに配送の手配を済ませておかなければ、在庫が無いから、入荷待ちとかを食らう。

 ちょうど新生活に向けた今は品薄になりがちだ。


「ベッドはどうする?」


「そういや、そうだったよな……」

 母さんはちょくちょく様子を見に来るに違いない。

 今、俺が布団で、涼香はベッド。

 別れて寝て居るが、ベッドが狭いからであり、きっと新生活を始めた後も続けるのはおかしいと言えば、おかしい。


「祐樹。正直に言うけど、膝枕してあげたじゃん?」


「ああ、して貰ったな」


「普通に一緒に寝ようよ」


「いや、まあ、それは、その……」

 おかしくないと言わんばかりな涼香の言い分。

 確かにおかしくないし、おかしくない。

 語彙力が意味わからない位に崩壊しているのが良く分かる。


「そうだ。心配なら、今日、ちょっと狭苦しいけど、一緒のベッドで寝よ?」


「あ、え、あ、はい」





 そして、時間は一気に過ぎ去って夜。

 涼香に頭やら体を洗って貰った俺はそわそわと涼香がお風呂を終えて帰って来るのを待っていた。

『一緒のベッドで寝よ?』

 お風呂から戻って来た涼香と一緒に寝る。

 緊張しっぱなしだったのも束の間。

 心なしか、いつもより長風呂を終えた涼香が部屋に戻って来る。


「……な、なあ。本当に一緒に寝るのか?」


「物は試しって言うでしょ? はい、おねんねする」

 ポンポンとベッドを叩いて、空けたスーペースに俺を呼び込む涼香。

 恐る恐るベッドに乗り横たわる。

 怪我している俺がベッドから落ちないようにと奥の方へ壁側にだ。

 それを確認するや否や、涼香も横たわって来て、逃げ道を塞がれた。


「えへへ。近いね」


「お、おう」


「腕枕して欲しいな~なんてね?」

 もの欲しそうな目。

 怪我していない方の左手を涼香の頭の方へと広げる。


「特別だぞ?」


「わーい。ありがと」

 寝る間際という事もあり、テンション低め。

 でも、それでも心にグッとくる。 

 電気を消して、寝ようというときだった。


「恥ずかしくなってきた。辞めても良い?」


「俺もだから気にすんな」

 ゆっくりとしか進めない俺と涼香。

 恥ずかしくて、寝るに寝れない。

 膝枕をした仲だというのに、どうやら一緒に寝るという行為は早すぎたようだ。

 ベッドの壁側に居る俺は恐る恐る立ちあがり、一緒に寝るなら必要が無いはずなのに、敷いていた布団へと向かうのだが、



「うえっ。祐樹、重いんだけど」

 体制を崩して、涼香の上に覆いかぶさってしまった。


「すまん」


「あ、そうだ。変に中途半端だから恥ずかしかっただけかも。これなら、どう?」

 倒れた俺の背中に手を回され、ギューッと抱き着かれる。

 でも、それからやっぱり恥ずかしいという事で解放された。

 悶々として中々に寝付けなかったのは誰だって分かるよな?


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