第40話面倒だけど、可愛く嫉妬する、本当に可愛い涼香
「今日は一人か……」
悲しいことに今日の夕ご飯は一人。
大学生活が本格化し始め、夕ご飯をそれぞれ別に食べることが増えて来た。
当たり前と言えば、当たり前なのに寂しくて仕方がない。
「涼香は歓迎会でどうしてるんだろうか……」
今日涼香と一緒に夕ご飯を食べない理由。
それは写真サークルの歓迎会で、大学の駅前にある居酒屋で行われるコンパに涼香が参加しているからだ。
別に、なにも言われずに、どこかへ行っているわけじゃなく、目的も理由もはっきりとしていわれた状態。
だというのに、ざわざわとした気分で落ち着かない。
普通にコンパには男は居るだろうし、そいつらに手出しをされて居ないか心配で心配で仕方がないわけだ。
涼香が俺以外の男にうつつを抜かし、浮気をする事は、絶対にないのは分かっているので、別に良い。
俺が心配なのは、やっぱりサークルの先輩は酒を飲んでいるだろうし、涼香が変な風に絡まれて、嫌な思いをしていないかが心配なのだ。
「とはいえ、何かするってのもな……」
大学で俺が女の子と仲良くしようが、それはただの女友達だと信じてくれていることもあり、何も口出しをして来ない涼香。
それに倣って、俺もなるべく涼香のプライベートに口出しはするつもりは無い。
しかし、居酒屋で酔った質の悪い先輩に絡まれていないかと思うと、うずうずしてしまう。
束縛する男になんてなりたくない。
涼香も俺の事が好きだからこそ、大学で何しようがあまり口は出してこない。
でも、気が付けば……。
「いらっしゃいませ~。おひとり様ですか?」
「一人ですけど、テーブル席って使えますか?」
「はい。かしこまりました」
嫌な顔せず、テーブル席に案内してくれた店員さん。
しかも、都合の良い事に宴会席のすぐそば。
仕切りがあるので、見えはしないが、話し声は割と聞こえてくる席だ。
……で、まあ。
やって来たばかりだが、申し訳なさで一杯になる。
心配で、こっそりと宴会の席に様子を見に来るとか、普通に嫌がられてもおかしくないのだから。
「やっぱ、ダメだな。食べたらすぐに帰るか……」
店員さんに適当に食事を注文。
さっさと食べて、家に帰ろうとした時だった。
宴会席のふすまが開き、中の様子がちょっと見えてしまった時だ。
「……」
「……」
宴会席に座る涼香と目が合った。
いや、すまんという顔で涼香を見ると、さすがにそこまでする? という顔をされた。
で、すぐに閉じられたふすま。
さすがにこのままだと不味いので、涼香の携帯にメッセージを送る。
『すまん。さすがに今回の俺の行動は気持ち悪いのは分かってる。飯を食ったら、帰るから許してください』
ふすまも閉じられた今。
涼香がどんな顔をしているのか良く分からないまま、帰って来た返事はこうだ。
『ちょっとやりすぎじゃない?』
『本当にすみませんでした。すぐ帰るので許してください……』
『ま、帰ったらお話しよっか』
それから、頼んだ料理を食べ、俺はそそくさと退散して家へ帰るのであった。
そして、帰って来た部屋のベッドに倒れこみうなだれる。
「あれはやりすぎだよなあ……」
いくら好きな相手が気になるからと言って、宴会している居酒屋まで乗り込む。
その行き過ぎた行為をしてしまった事は、後悔しかない。
家族と言えど、縛るような事をされたら嫌なのは当たり前。
分かっているのに、我慢をしきれなかった。
それを反省しながら、涼香の帰りを待つのだった……。
「ただいま~」
涼香が帰って来たのは11時過ぎ。
なんだかんだで、2次会でカラオケに行ったらしく、それなりに遅い時間。
玄関に涼香を迎えに行く。
「さてと、お話しよっか。ちょっとリビングで待っててね」
カバンやらを置いて、手洗い。
それらが終わるのを、リビングで俺は待つ。
待つこと、2分くらい。涼香はリビングで待つ俺に冷たい声で告げてくる。
「そこは正座して待ってるべきじゃない?」
「すみません」
足を崩して座っていたら、正座しろと怒られる。
今回は本当に怒られて仕方がないし、素直に足を組みなおす。
「祐樹。何か言いたい事はある?」
「ほんとすみませんでした」
「そっか。反省してるなら許す。でも、あんまり束縛して来ようとするなら、私もそうしちゃうよ?」
涼香に嫉妬され、束縛されるのも……、まあ、悪くない。
そう思えて来てしまうあたり、涼香が好き過ぎてヤバいのが良く分かる。
とはいえ、お前に束縛されるのは悪くないとか言ったら、ガチで怒られそうなので言わないけどな。
「今回に関しては、さすがにダメだと思ってる。お前だって、大学で俺が女の友達と普通に仲良さそうにしてても、何も言わずに信じて手出しはしてない。なのに、今回はお前が変な奴に絡まれて無いか心配でこっそり見に行った。本当に悪いと思ってる」
「気持ちは良く分かるよ。私だって、本当はえ~っと。最近、サークルとかを通して仲良くなった熊沢(くまざわ)さん? だっけ。その子と祐樹が、キャンパス内で仲良くしてるのを見てると、ちょっぴりどころか普通に嫉妬しちゃうもん。でも、祐樹には楽しい学生生活を送って欲しい。だから、嫉妬してても何も言わないんだし」
「おっしゃる通りです。俺も涼香には楽しい学生生活を送って欲しい。なのに、今回は変に手出しをした。本当に悪かった……。お前は俺を信じて、手出しをしないでくれているのにな……」
「うんうん。ちゃんと分かってるね。今後に気を付ければ許す。はい、この話はおしまいっと」
「良いのか?」
「良いも何も反省してるじゃん。なになに~、くどくど、ねちねちする感じでお説教した方が良い感じなの? じゃあ、そうしよ~っと。ほら、申し訳ないと思うのなら、肩もみ!」
もうお説教は終わりと割り切り、完全に怒りっぽさは微塵も感じさせない涼香は俺に肩を揉めと言う。
反省している俺は言われた通りに片手しか使えないが肩を揉む。
すると、優しそうに涼香は笑いながら言う。
「えへへ。確かに今日の祐樹の行動はちょっと行き過ぎかな~って思ったよ? でもさ、愛されてるなーって思っちゃった。だって、祐樹は見に来た理由を言う時、浮気が心配で~じゃなくて、私を守るために~って理由で見に来たってズバッと言ってくれたし」
「まあな」
「私が浮気する~とか思って見に来たのなら、もっとプンプンしたけどね。だから、もう許してあげる」
「本当に悪かったな。さすがに、宴会の席に様子を見に行くのはやりすぎだ」
「うん、それはそうだと思う。だから、反省してよ?」
「分かってる。で、肩もみ以外に何かして欲しい事はあるか?」
「じゃあ、あれ。もし、祐樹が他の女の子と仲良くしてるのを見て、我慢できなくなったら、嫉妬する権利を一回欲しい!」
「それで良いのか? 1回と言わずに何回でも良いが……そう約束したら、割と怖い気もするしな……。よし、1日ずーっと嫉妬する権利でどうだ?」
軽い口を叩いた。
「そっか。じゃあ、今から使っても良い?」
「ああ、良いぞ」
俺が許可を出すと同時だ。
肩を揉む俺に体を預けて頬を膨らませる涼香。
「祐樹。熊沢さんとベタベタしすぎだもん! 私がお嫁さんなのにさ、大学で楽しそうにしちゃって……」
「お、おう」
「ねえねえ、祐樹。好き~って言って?」
「好きだぞ」
「えへへ。もっと言って!」
「好きだ」
「うんうん。祐樹が嫉妬して良いって言ったんだよ? だから、今日はい~~~~っぱい嫉妬しちゃうもんねー」
普段言いたかった事をたくさん言われた。
熊沢さんと講義で出会えば、隣同士で座るのが羨ましい!とか、サークルの活動で食べ歩きに行っているだけだというのに、熊沢さんと食べ歩くのは浮気だよ?とか、転びそうになったのを支えてあげた時、いやらしい顔してたでしょ? とか色々とだ。
もちろん冗談交じりだけどな。
「あーあ。祐樹は浮気しちゃってるしな~。私も浮気しちゃおっかな~。えへへ、ごめん。やっぱしない。だって、祐樹が好きだもん!」
浮気しようとか口にして、すぐに撤回するほど俺が好き。
そんな可愛い彼女はちょっぴり今日は駄々っ子で、俺が女友達と語らう姿に嫉妬をたくさん漏らしてきた。
それがまた、可愛いくて仕方がないので意地悪してしまう。
「食べ歩きの時、熊沢さんに食べさせて貰ったとしたら、お前はどうする?」
「私は祐樹に食べさせ放題だから、そんなちっちゃなことで嫉妬しない!なんて言えるような子じゃ無いから、嫉妬しちゃうもん。だから、やられそうになったら、断って欲しいかな~。えへへ、ごめんね。面倒でしょ? でも、祐樹が今日は面倒に嫉妬して良いって言ったんだもん、良いよね?」
「おうおう。嫉妬しても良いと言ったが、面倒にとは言ってないけどな。まあ良いか。気が済むまで、面倒に嫉妬して良いぞ」
「うん! でさ~……」
それから結構長い間、可愛く嫉妬する涼香の相手を一杯してあげるのであった。
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