第41話デートじゃ無くても、楽しめることはたくさんある
「おはよ」
2限が始まる前、席で大人しく座っている俺の背後から忍び寄るは熊沢さん。
昨日、涼香がベタベタしすぎと愚痴をこぼしすほどの相手だ。
「近づくな」
「え、ひっど」
「あ、悪い悪い。冗談だ。お前と仲良くしてたせいで嫉妬されたんだよ……。でまあ、それ以上、俺に近づくなとノリで言ってしまったわけだ」
「もしかして、嫉妬って彼女さんからですか?」
彼女と言うか、嫁である。
しかし、あまり広めたくないし、そう言う事にして置くか。
「そんなとこだ。熊沢さんと親しそうにするところを見られて、お怒りモード……じゃないけど、一応、見られは見られているみたいだし、やっぱり気を付けなくちゃいけないって感じだな。という訳で、俺との距離感は程々にしてくれると有難い」
「へー。じゃあ、こういう風にグイッと近寄られたらダメな感じなわけ?」
わざと近づいて来た熊沢さん。
それをひょいっと躱して、文句を言う。
「やめてくれ、マジで誤解されるから……」
「あははは、笑える~。今度、彼女さん紹介してくれても良いんですよ?」
「あ~、あいつが良いって言うならな」
熊沢さんがどういう人物であるか涼香が知る事で、ある程度は心配が減るだろうしな。
良く知らない相手だからこそ、近くに居られると怖いってのもある。
まあ、聞いてみて嫌だというなら、紹介はしない。
って、あれだな。
俺と涼香は名字が同じ。紹介する場合、結婚してることも伝えないとダメか。
いや、熊沢さんは良い人なんだけど、さすがに結婚している事を変に騒がれる可能性はまだ十分にあり得るしな……。
「で、いつ紹介してくれるんですか?」
「お前が信用できるかどうか見極めてからだな」
「けちですね~」
熊沢さんと、2限が始まるまで大教室で話し込むのだった。
昨日、色々と嫉妬して来た涼香を見てしまったので、ちょっと涼香に見られていないか、きょろきょろしてしまったのはここだけの話である。
そして、2限も終わりを迎える。
早々と食堂に向かい、昼食を摂り始める学生たち。
その中には俺と熊沢さんも含まれる。
二人だけ。
ではなくて、別の講義を受けていた他の友達と合流してだ。
さすがに二人きりでご飯は……男友達ならまだしも、女友達とはご遠慮してる。
「志摩くんってお弁当比率高めですよね~。良いな~」
熊沢さんが志摩が作るお弁当を羨ましそうに見る。
大方、親に作って貰えていると勘違いしているだろうし、それを打ち砕く。
「志摩の弁当は自分で作ってるんだぞ?」
「え? まじですか?」
「おうよ。俺のお手製だぞ? 親に作ってくれ、って言ったら、自分で作れって言われてるからな」
「女子力高いね~。モテるでしょ」
「……」
熊沢さんの何気ない一言を受け黙る志摩。
彼女なんて一人も出来たことが無いんだが? と言いたげな顔だ。
「あ、ちなみに、この中で彼氏彼女が居る人~」
黙る志摩に触れずに話題は切り替わった。
まあ、さっき熊沢さんには嫁とは言ってないが、彼女みたいな人が居ると教えてしまっているので手を挙げる。
「俺だけなのか?」
「え? まじなん?」
熊沢さん以外は割と驚き気味。
そんなに彼女が居なさそうに見えて居たとは悲しいんだが?
「ちなみにどんな子?」
「見せないぞ」
あんまり、この子が彼女だとか写真を見せながら言いふらしたくない。
俺はされても良いけど、涼香は嫌がりそうだしな。
「にしても、恋人持ちかー。羨ましいですね~。ちなみに、私と仲良くしてるのを見られて嫉妬された~とか言われたので、多分この大学にいる子です!」
勝手に補足を入れられる。
ほほうと頷く他の者。
それから、色々と聞かれ続けるのだった。
で、そんなお昼を終えた後の3限。
今度は志摩と一緒に講義を受けていた時であった。
「……なあ、お前。彼女居るんだよな」
「まあ、そんなとこだな」
「実はよ。サークルきっかけで仲良くなった田村さんって子と、どこかに遊びに行くことになっててよ」
「黙り顔で俺がモテるとでも思ったか? って言わんばかりだったのに、やる事やってんじゃねえか」
「やる事をやるって……まだ、初めてだぞ? まあいい。でな、お前、彼女と初めて遊んだ場所はどこだ? 正直、全然どうすれば良いか悩んでてな……」
彼女と初めて遊んだ場所。
それは公園。
なお、俺と涼香はその時、4歳? だったはずだ。
小さい時の話でまったくもって状況が違い過ぎるし、アドバイスにはならない。
という訳で、夫婦関係になって、初めてしたデートらしいデートを思い出す。
初めてのデートらしいデートは水族館。
俺が手を怪我したのを除けば、もの凄く楽しめた。
が、しかし、俺と涼香には幼馴染。いつの間にか出来上がっていた信頼関係があった。
どこ行っても、そこそこ楽しめる仲。
水族館デートが成功したのは、幼馴染という信頼関係があってこそ。
となると、初めて女の子とデートに行く志摩には、俺の経験は役立たなさそうなので、はっきりと断りを入れる。
「あー、わりいな。幼馴染と付き合ってるから、たぶん初めてのデート場所とか、良いアドバイスは出来ん」
「マジか。いや、それでも良いから教えてくれ。マジ、俺、女の子と二人で遊んだこと無くてよ……」
「じゃあ……」
それから、3限が始まるまでの間。
志摩のため、初めてのデートに相応しい場所を考えるのだった。
結論から言うと、映画と軽いショッピングが良いんじゃないかとなった。
映画を見て、その内容を語り合いながら軽くお買い物。
初めてにうってつけなデートだろう。
で、まあ、それに当てられた俺は、部屋に帰るや否や涼香に話しかける。
「涼香、ちょっと良いか?」
「ん~?」
「今度の休み。デートしないか?」
涼香と遊びに行きたくなってしまったんだから仕方ない。
どうせ、涼香の事だ。
二つ返事でOKを返してくれると思い込んでいた。
「あー、祐樹。お財布を見て?」
ごそごそとカバンからお財布を取り出し、中身を見る。
お金があると言えど、計画的に使わなければ身を滅ぼすので、月々に使うお金をしっかりと決めた。
「……足りない」
「でしょ?」
気軽にデートをすれば絶対に、月々に決めたお金じゃ足りなくなりそうな財布の中身。
通帳にはたくさんお金があるが、足りないから下ろすを繰り返せば間違いなく破産するから我慢するしかない。
「っく。デートはお預けか……」
「しょうがないよね。あ、次の休みはデートじゃないけど、したいことがあるんだけど、それに付き合ってくれる?」
「ん? 何がしたいんだ?」
「この部屋に住み始めて時間が経って、色々と不便なとこが分かって来たでしょ? 100円ショップとかで不便な所を便利に出来るように、色々買って、お部屋を良い感じに使いやすくしたいんだ~」
同棲、いや、同居ならではのイベント。
お部屋を使いやすく改造ってわけだな。
俺の答えはもちろん……
「良いぞ。同居してるんだしな。むしろ、俺もやらなきゃダメだろ」
「えへへ~。じゃあ、今度の休みは一緒にプチDIYだね!」
デートは出来なかった。
しかし、楽しめそうなことは何もデートだけじゃない。
そう、俺と涼香の周りには楽しい事がたくさん溢れているのだ。
さて、次の休みにする事が決まった。
休みの日に向け、どんなふうにお部屋を良くしていくか軽く話し始める。
「ねえねえ、ソファー欲しいんだけど買わない?」
「ん? どうしてだ?」
「ソファーがあればもっとベタベタしやすくなるんじゃないかなって思うんだよ。背もたれもあるし、気兼ねなく私が祐樹にぎゅーって抱き着きやすくなる」
「……なるほど。ちなみに、ぎゅーって抱き着くのはどういう感じだ?」
「えへへ、こんな感じ?」
座る俺に躊躇なく抱き着いて来た涼香。
涼香が体を預けて来るので、確かに背もたれが無いと少し苦しい。
「ん~、ぬくい。私って、祐樹に抱き着くの癖になってるでしょ?」
「で、もっと抱き着きたいからソファーが欲しいと」
「祐樹は今、私のせいでちょっと苦しくない?」
「確かに背中がな……。でも、ソファーって結構値段がするしな……」
「膝枕する時、ソファーがあれば、正座じゃ無くて辛くなくなるし、祐樹に一杯してあげられるって言ったらどう?」
「買おう」
「あはは、そこで即決しちゃうんだ。もう、素直な奴ー。じゃあじゃあ、ソファー届いたら、いっぱい膝枕してあげるから期待しててね! で、私もい~~~~っぱい抱き着く! ふへへ、楽しみ~」
抱き着くのが大好きな涼香に抱き着かれながら、例えば、お風呂場にシャンプーを置く場所があるけど、小さいからプラスチックの小さい棚を買おうだとか、色々と不便な所を話し合う俺達であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます