第39話公園でお弁当!
2限の講義が終わった後、お昼という事もあり、俺は友達である志摩と一緒に食堂に来ていた。
食堂と言っても、数多くの企業がテナントとして出店しているので、価格帯も幅広く、韓国料理、和食、洋食、中華、ベトナム、台湾、チベット、タイ、割と様々なメニューが揃っている。
俺は唐揚げ定食を注文。
同じく一緒に昼を共にしている志摩は手作り弁当を食べている。
毎日のように食堂で買ったお昼を食べていたら結構な痛手だからな……。
「志摩。お前の弁当って誰が作ってんだ?」
「これか? 俺だぞ?」
「……」
「おい、黙んなや。こんくらい、俺にだって作れるんだからな?」
色とりどりのおかず。
冷食もほとんど使っていなさそうなお弁当を志摩が作れるわけがない。
「嘘つくなよ」
「これが嘘じゃないんだよなあ……」
「にしても、お前、家が遠い方なのに良くお弁当を作ってられるな」
「ま、ほぼ作り置きだし、早い時は10分も掛からん」
志摩の圧倒的女子力の高さに驚きながら、昼食を摂るのであった。
で、まあ、俺という生き物は単純な生き物だ。
「涼香。お前の手作り弁当が食べたい」
「……えへへ。最近、私に良く変わったって言うけどさ。祐樹も変わったよね」
「ん?」
「だって、前だったらそんな素直にお願いしてくれなかったじゃん」
「確かにな。さて、もう一度言うか。あれだ。涼香の手作り弁当が食べたい。作ってくれ。いや、作ってください」
「良いけどさ。急に私が作るお弁当を食べたいだなんて言い出したの?」
「俺の友達である志摩が綺麗な手作り弁当を昼に食べてた。で、まあ、お前が作ってくれるお弁当を食べたくなった」
自分でもビビる位の単純な理由だ。
前だったら涼香の手料理なんて有難みを感じずに普通に食ってただろう。
しかし、最近はもう涼香の手料理なら何でも美味しくてやばい。
要するに、胃袋を完全に掴まれた。
掴まれた胃袋は贅沢をしたがって、色んな涼香が作る料理を求め続けているわけである。
「そっか。んふふ。じゃあ、作ってあげる。あ、せっかくだし、明日は二人とも1限と2限しかない日だし、二人でちょっと見晴らしの良い公園でも行こ?」
「そうだな。2限が終わったら、軽いピクニック感覚でお昼にするか」
こうして、涼香とちょっとした公園デートをする事になった。
次の日。
2限が終わった俺と涼香は大学を出て、見晴らしの良い公園に向かった。
お昼時という事もあり、俺と涼香以外にもブルーシートを広げ、ご飯を食べている人たちがそこそこ居る。
春。
和やかな風が心地良くて、何もしなくても浮かれた気分になれる。
馬鹿みたいに、はしゃぐような浮かれ具合なんかじゃないけどな。
「ん~、いい天気」
「だな」
二人で敷いたブルーシートの上で、ゆったりとくつろぐ。
芝生の上に引いたとはいえ、ちょっと固い地面に座るのは久しぶりだ。
「っと、涼香。お弁当を食べるか」
「ふっふっふっ~。今日は早起きして作っちゃった。えへへ、どう?」
涼香が取り出したお弁当。
唐揚げ、エビフライ、フライドポテト、プチトマト、卵焼きなどなど。
まるで、運動会のちょっと豪華なお弁当だ。
「……」
「ん? 黙ってどうしたの?」
「いや、こんな風にわざわざ豪華なお弁当を作ってくれて嬉しすぎてな」
「そうだよ。私ほど、祐樹に愛情を注げる人間は居ないもん。という訳で、祐樹。いっぱい作ったから、いっぱい食べてね!」
手間暇かけて作ったのが分かるお弁当。
普段もなんだかんだで、俺のために色々と作ってくれているが、いつもよりはっきりと目に見える手間が俺の心をわしづかみにして来る。
「いただきます」
お手拭きで手を拭いた後、朝から良い音をさせていた唐揚げを口にする。
冷めても美味しい。
ダメだ。もう、にやけ顔が止まらん。
「美味しい?」
「美味しいぞ。ほれ、俺が食べてるとこなんて見てないで、涼香も食べろって」
「だって、祐樹が美味しそうに食べてくれるんだもん。あ、そうだ」
可愛いプラスチックの串に刺さったプチトマト。
それを俺の口元に運んでくれたので、パクリと口で受け取る。
涼香は、咀嚼している俺を見て嬉しそうに笑ってくれるので、俺もわざとらしく美味しそうにリアクションを返す。
「祐樹って、ちゃんと反応してくれるから大好き!」
「何も反応しないのはお前に失礼だからな。ほれ、お前もいい加減、食べろ」
プチトマトを涼香の口に運んだ。
このままだと、本当にず~っと俺の事ばっかり見て、食べないだろうしな。
「んぐっ……。祐樹に食べさせて貰うといつもより美味しい気がする!」
「そういや、手を怪我している手前、俺に良く食べさせてくれるけど、逆はあんまりしないよな。しょうがない。そんな嬉しそうな顔をされたらな……」
フォークで唐揚げを刺し、涼香に食べさせる。
甘えたい俺も居るが、甘えられたい俺も居る。
涼香が俺に食べさせて? とひな鳥のように催促する姿がもう堪らない。
「もう、祐樹ってば、分かってる~。はい、じゃあ、今度は私からだよ?」
食べさせ合いっ子をする俺と涼香は楽しくお昼を食べるのであった。
それから、そよ風が心地良いので、ブルーシートの上でくつろぐ俺達。
ゆったりとした時間を過ごす中、涼香が俺の膝に寝転んできた。
「ん~、良い枕かも」
「ったく、しょうがない。お昼を頑張ってくれたしな。好きなだけ、くつろげ」
「うん。ありがと。にしても、祐樹。こう言うのも、悪くないね」
「だな。とはいえ、夏場とかは暑くて絶対嫌だけどな」
「かもね。ちょっとだけ、寝て良い?」
「良いぞ。お前とこうしてられるだけで、楽しいからな」
「じゃあ、おやすみなさい……。すぅ、すぅ」
それから目を閉じて眠る涼香。
話し相手は居ないし、何も楽しい事は無い。
けど、俺の膝を枕にしながら幸せそうに眠る涼香。
陽気な風に吹かれるだけで、何もしていないというのに、気持ちが安らぐ。
「あ」
間抜けな声を上げる俺。
安らいだ気持ちが一瞬にしてざわめき始めた。
だって、まあ、
「よう。バカップル」
高校の時の友達であるイケメンだがオタク過ぎてモテない山口に出会う。
この公園。
山口が住んで居る家が近いからな……。
とはいえ、平日の昼。あいつと出会わないだろうと高を括っていた。
「おい、山口。消えろ」
「おま、久しぶりにあった高校の時の友達なのに辛辣な事を言うなよ。にしても、あれだな~。お前ら……」
にやにやと笑われる。
で、まあ、話して居たら涼香も寝たのにすぐに起きてしまう。
「うぇ! や、山口君じゃん」
「よう。三田さん。久しぶりだな」
「あはは……」
彼氏にべったり甘える姿を知人に見られ恥ずかしそうに苦笑する涼香。
そりゃまあ、俺だって山口に、涼香の膝枕で寝て居る所なんて見られたら、恥ずかしくて死にたくなるしな。
山口に出会って、色々と近況話をした後、涼香と俺はイチャ付く気分には戻れず、おとなしく退散して部屋へ帰った。
「くぅ~、あんなとこを高校の時の友達に見られるとか恥ずかしすぎて死にそう……。という訳で、祐樹。慰めて?」
公園から帰って来た涼香はわざとらしく、俺の膝を枕にして来た。
断る理由もないので、公園でしてやったようにくつろがせてやるか。
「ここなら誰にも見られないから甘え放題だもんね~。ねえねえ、私の事を撫でてくれても良いんだよ?」
偉そうに撫でてくれとか、何様だ?
まあ、しょうがない。
優しく撫で始めると、ご機嫌に鼻を鳴らす。
「んふふ~」
嬉しそうにくつろぐ涼香とゆったりとした時間を過ごす。
ほんと、幸せだな……。
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