第43話中々照れない涼香が可愛い

 涼香と部屋を過ごしやすいように改善し始めた。

 結局、部屋を良くするにはどんな物を買えば良いか話し合っているだけで、午前を過ぎ、午後に入ってしまった。

 取り敢えず、買い物に行く前にお昼にしようって事で、ご飯を食べ、少しくつろいでいる時だ。


 そう言えば、大学で出来た初めての友達である志摩がサークルで出会った田村さん? って子とデートに行っている事を思い出す。


『順調か?』

 わざとらしいメッセージを志摩に送りつけた。 

 すると、すぐに返事が帰って来た。


『今、昼飯を食べてるんだが、見た映画が微妙過ぎて、会話が広がらねえ……。どうすれば良いか教えてくれ……』

 おまっ、だからネタバレされるの覚悟でちゃんと見に行く映画はリサーチしとけって話したよな?

 とか思いながら、あまり上手く行ってなさそうな志摩へアドバイスを考える。

 っと、そうだな。ちょうど、俺の横には涼香が居るしな。


「なあ、涼香。初めての男と出掛けた時って、どういう会話だと話しやすいんだ?」


「いきなりどうしたの?」

 それから、志摩が初デートで困っている事を簡単に説明した。

 すると、涼香は顎に手を当てて、俺の質問について考え始める。


「ん~、私も祐樹以外の男とは、二人っきりで遊んだこと無いんだよね。となると、結構難しい質問かも」


「まあ、それでも、志摩のためだ。参考程度に頼む」


「そっか。無難に目の前にある状況について話されると、話しやすいかな~。例えば、可愛い洋服があったら『お、あれ、似合うんじゃないか?』だとか」


「なるほど」

 今聞いた事を志摩にメッセージで伝えてやる。

 もちろん、あんまり携帯を弄りすぎて嫌われんじゃねえぞと付け加えてな。


『おう、分かった。アドバイスサンキュー。取り敢えず、今食べてるご飯について話を広げてみるわ!』

 と言った感じでやり取りは終わった。

 で、まあ、俺は涼香とした今の会話でしたい事が見つかってしまう。


「涼香。一緒に服を見に行くか?」


「なんで急に?」


「単純に一緒に服を買うのも悪くなさそうだなって思ってだ。確かに、お前とは何度も買い物をした。その際に、お前から『似合う?』と聞かれたけど、その時を思い出してくれ」


「うん、似合うかどうか聞いたのに祐樹は『あ~、似合うんじゃね?』とか適当に返事してたね」


「もったいない事をしてた事に気が付いちまった……。普通に可愛いぞとか、似合わないぞとか、そう言うやり取りをお前としてみたい」

 今思うと本当にもったいない。

 女の子から洋服について聞かれて適当に聞き流すのは酷すぎる。

 まあ、その時の俺は、涼香に今ほど興味がなかったわけでしょうがないけどな。


「前みたいに『さっさと選べ』とか言わない?」


「絶対に言わないから安心しとけ。むしろ、悩んで良いぞって言う」


「えへへ、そっか。もう、しょうがないな~。じゃあ、今度、一緒にお洋服を買いに行こ? 祐樹が好き~って言った服も着てあげる!」

 俺の好きと言った服を着てくれるという事なのでふざけた事を言ってしまう。


「スクール水着とかでもありか?」


「ぐふっ。痛い思い出が蘇って来る……。あの後さ、結局、お母さんに水着でそう言う事をするにしても、絶対に公共の場でしちゃダメって言われて、超気まずくなったんだよ?」


「キツイな……」


「でしょ? てか、スクール水着って服じゃないじゃん。そうやってまた私の事をからかって酷いな~」


「お前が何でも着てくれるって言ってくれたからな。悪ふざけだが……。まあ、願望もある」 

 俺は男だ。

 涼香が恥じらいながらスクール水着を着る姿なんて大好きな生き物。

 無理強いは絶対にしないが、割として貰いたいのは隠さない。

 だって、まあ、して貰えたら嬉しいし。


「変態さんめ! まあ、あれだね。祐樹がどうしてもって言うなら、してあげても良いよ?」

 ちらっと俺の目を見ながら、恥ずかしそうにだが、満更でもない顔をする涼香。

 恥ずかしいのにしてくれるとか最高なのだが……。


「……いや、辞めとく。お前に過大な要求をしてそれを受け入れて貰い続けたら、絶対に調子乗って、あいつらみたいな凄いバカップル一直線だしな」


「でも、あれはあれで幸せそうだけどね」

 何とも言えない微妙な顔で笑う涼香。


「そういえば、最近は確認してなかったな」

 俺は携帯を開き、動画投稿サイトを開く。

 とあるチャンネルで、どんな動画が上がっているかチェックする。


「こいつら、またこんな動画を上げやがって……」


「見せて見せて!」

 涼香の方に携帯を傾け、アップロードされた動画を二人で見る。

 動画の内容は……


『彼氏に別れようって伝えるドッキリしてみました!』


 そしてこの動画を上げているのは、俺と涼香の友人である。


 田中と金田さんだ。


 あの二人はバカップル極まった結果。

 何を血迷ったか、自分たちのお熱いカップルぶりを全世界に、動画という形で発信し始めたのだ。

 そして、周りはドン引き……したかと言えば、していないんだよなあ……。


「普通に動画が面白くて、人気動画配信者になって来てるよなあ……この二人」

 カップルがイチャイチャするだけの動画ではなく、他人に見せたら寒い展開は綺麗さっぱり除去し、編集もしっかり入れ、娯楽として成り立つレベルの動画を配信しているのだ。


「この前、美樹と久しぶりに電話したんだけど、割と引くに引けないレベルになって来たから、私達、これで生きて行けるかもしれないから全力で頑張る! とか言ってた」

 涼香が美樹と呼ぶ金田さんと田中は、大物動画配信者への道を歩き始めた。

 バカップルが極まった結果、とんでもないことになっている二人。

 行く末はどうなる事やら。


「……ま、あいつらが幸せならそれで良いか。とはいえ、あそこまでバカップルになりたくない」


「だよね~。まあ、でも、あの二人は幸せそうだし、あれはあれで良いと思う。自分じゃああはなりたくないけどね。で、他にはどんな動画が上がってた?」


「愛してるゲームの最中にビンタしてみたっていう、割と身内以外の他人が見たらうすら寒いネタを動画にしても、受けるようにしたのが上がってるな」

 愛してるゲーム。

 それは、愛していると相手に言って相手を照れさせる遊び。

 身内で楽しむ分には良いのだが、赤の他人がしているところなんて、もう見てられないほど背筋が凍る。

 田中と金田さん以外のバカップル動画配信者は普通に愛してるゲームをしている様子を動画にあげているのだが、田中と金田さんは違う。

 うすら寒くなる事を理解し、笑えるエンターテインメントに仕上げるべく、プラスαの要素を足したわけだ。


 ほんと、ある種の天才じゃないか? って思えて来る出来栄えな動画。

 普通に再生数もかなり伸びている。


「んふふ~。ねえねえ、愛してる! 好き、好き、好き~!!!」


「……」


「無反応は辞めてよ!」


「愛してるゲームとか、寒いよな~と心の中で馬鹿にしてた癖に、意外とあれ? 悪くなくね? という複雑な葛藤を抱いてた」

 それはそれは非常に複雑な感情だ。

 普段からちょっと蔑んだ目を向けていたが、いざやられてみると、満更でもない自分が居たのだから。


「でもさ~、この場合って照れてないから私の負けなんだよね」


「だろうな」


「そう思うとなんかムカつく~。愛してるの一言で、祐樹を照れさせられないのはお嫁さんとしてどうなのかってね?」


「ほほう。プライドが高いな。が、しかし、寒いよな~と言っている手前、俺は愛してるゲームに屈したりしないぞ」


「え~、本当に?」


「ああ」

 胸を張って言い張る俺。

 で、そんな俺の横に座っていた涼香はわざとらしく俺の耳元へ顔を近づけて来た。

 っふ、耳元での愛してるだなんて、分かっていれば怖くない。

 照れずに逃げ切れると高を括って待ち構える。


「ねえ、祐樹。今日の夜。お風呂の時さ、スクール水着を着てあげよっか?」

 やたら艶めかしい声で言われたその一言。

 愛してる、そう言われると思い身構えていた俺にとって、それはそれは、思いもしなかった一言。

 だが、まだだ。耐えられる! 俺は耐えられる。

 そう思っていた時だった。


 ぺろりと耳を舐められた。


「ぶふっ!! げほっ、げほっ。おま、それは反則だろ!」


「だって、祐樹が照れてくれないからね! ふふっ、照れた、照れた! この照れ屋さんめ!」

 俺の慌てように大喜び。

 もてあそばれたお仕置きとして、涼香を捕まえて同じように耳を舐めてやろうとするのだが、逃げに逃げられ捕まえられない。


「最近は祐樹にからかわれっぱなしだったからね~。今日の私は手強いよ?」

 可愛く笑う涼香。

 で、それからアパートという事もあり、ドタバタと鬼ごっこを繰り広げるわけにもいかないのは、互いに承知している。

 涼香はしょうがないなあと言わんばかりに俺に捕まってくれた。

 

 そして、声を抑えてわざとらしさ満載で叫ぶ。


「きゃ~、襲われる~。祐樹のえっち~」


「お前なあ。ほんとに襲うぞ?」


「右手が治ってからとか言ってるけど、私はいつでもOKだもん」


「っく。今日は照れないな」


「成長したからね!」

 冗談を言ってからかう涼香はからかうのは得意だが、からかわれるのは苦手。

 いつもなら、顔を真っ赤にする癖に今日は余裕で溢れていた。

 そう涼香も成長する人間。

 間違いなく、エロでからかわれても顔を真っ赤にしなくなって来ているのだ。

 それが悔しい俺は抵抗する。


「下着は勝負してるやつなのか?」


「うわ~、セクハラだ。でも、良いよ。ちょびっとだけ見せてあげる!」

 自分の穿いているズボンを指で摘まんで隙間を作って見せられる。

 淡いピンク色の下着で紛れもなく気合が入っていた。


「おまっ、本当に涼香か?」


「祐樹が思う程、私はもう初心じゃないもん。えへへ、でも、やっぱりまだ恥ずかしいから自分からはやめよ~」

 摘まんだズボンを手放す涼香。

 やっぱり、自分から見せつけるとかそう言うのはまだ恥ずかしいわけだ。

 そんな涼香に一安心していると、


「でもね、祐樹が見たいなら見て良いんだよ?」

 小悪魔っぽく微笑む。

 生意気なと思い、ちょっとばかり普段触れないような場所を触ってみた。


「んっ……」

 小さい声を漏らし、顔は赤くなるけど、別に逃げもしないし、騒がれもしない。

 どこか恥ずかしさの中に嬉しそうな一面も混ざっている表情をする涼香。 



 もう、右手が治ってからとかどうでも良くないか?



 が、なんとか耐える俺である。

 耐える必要なんて無いんだろうけどさ。



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