第49話検索履歴すら可愛い涼香

 木曜日。

 俺と涼香にとって物凄く微妙な日。

 俺は講義が4限だけで、涼香は3限だけ。

 たかだか90分のために大学へ行かなくちゃいけない面倒な日なのだ。

 他の日は最低でも2限ほど入っているのに。

 とはいえ、遠くから通っている人に比べれば全然マシなのは言うまでもない。


「いってきま~す」

 お昼すぎ。

 涼香は講義を受けるために大学へ行く。

 一人残された部屋。

 さっきまで、涼香が弄っていたパソコンが目に入る。

 携帯で調べ事をするよりも、パソコンで調べ事をする方が効率が良い。

 涼香は先ほどまで、なにかしらを調べていたのを知っている俺は、ついついパソコンの検索履歴を開いていた。


「なになに……夕食おすすめ、プリンター、通販サイトの名前に……」

 色々と出て来る涼香が調べていた事。

 その中にひと際輝くとある検索ワード。


「男にモテる仕草だと?」

 い、いったい、誰にモテようとしているんだ?

 俺以外の男に色目を使うつもりなのか?

 

「まあ、俺相手に違いないんだけどな。っくそ、ダメだ。可愛すぎるんだが?」

 これまで以上に、俺を惚れさせようと企む涼香。 

 そう考えるだけで、顔がゆるんでしまう。

 

「あいつ、ほんと可愛くなり過ぎだろ」

 幼馴染。

 もうこれ以上、知る事は無いほど相手の事を知っていたと思っていた。 

 でも、涼香が好きになった相手にこれほどまでに一途で可愛い事をしてしまう女の子だとは思っていなかった。

 こういう風に新しい涼香の良さを知れば知る程、もう止まらない。


「こうなったら、俺もあいつにもっと惚れて貰えるような男になるしかないな」

 涼香が俺に好かれようとするのなら、俺も涼香に好かれなくちゃダメだろ?

 それから、男のモテるコツをパソコンで調べる俺であった。


 あ、もちろん、涼香にバレないように検索履歴は消したからな?





 俺がたった一コマの講義を大学で受け、住んで居る部屋へ帰還。

 男にモテる仕草を調べていた涼香が、どんな行動をとってくれるのか待ち遠しい中、玄関を開ける。


「ただいま~」


「あ、お帰り~」

 わざわざ玄関までお出迎えに来てくれる涼香。

 その服装はちょっぴり露出多め。

 大学に行った時は普通の服だったのに、わざわざホットパンツに着替え、生足をすらりと晒している。


「ぶっ、げほっ。げほっ」


「ど、どうしたの?」


「な、何でもないぞ」

 涼香がモテる女の仕草で見ていたサイトに生足をチラつかせると男はドキドキすると書かれていたのを知っている。

 だからこそ、今涼香のしている行動がとてつもなく可愛くて仕方がない。


「そっか。そうだ。祐樹~。見て見て~、そろそろ熱くなってきたから、部屋着をホットパンツにしてみたんだ~。どう?」


「お、おう。に、似合うぞ」

 ダメだ。

 笑いそうになる。

 自慢げにホットパンツから見える生足を見せつけて来るとか、あの男にモテる仕草について書かれていたサイトの影響だと知っていると、ほんとダメだ。


「なんか、きょどってるね。あ、分かった。私のこのホットパンツから覗く生足に興奮しちゃったんでしょ?」


「ま、まあな」

 ダメだ。

 何この可愛い生き物。

 俺がネタバラシしたら、めっちゃ顔を真っ赤にして恥ずかしがるのが容易に想像できるせいか、ばらすのが楽しみだ。

 とはいえ、おそらく、これからもモテる仕草を学んだ涼香。

 きっと俺に色々と仕掛けて来るし、今は言うべきじゃないな。


「ふ~、にしてもホットパンツに着替えるくらいに暖かくなって来たよね~」

 上に来ているシャツをパタパタと煽る。

 ……これまた、書かれいてたモテ仕草。

 笑いたい。めっちゃ、笑いたい。

 けど、今笑えば、涼香の男にモテる仕草をするのが終わってしまうので、我慢する俺。




 それから、靴を脱ぎ手洗いを済ませ、リビングにあるソファーに座わり、適当に携帯を弄りながらテレビを見る。


「祐樹。今日の晩御飯は何が良い? まだ決まってないんだ~」


「肉系が良いな」


「りょーかい! じゃあ、回鍋肉ホイコーローとかどう? この前、回鍋肉のタレがちょっと安かったから買ってあるし」


「ったく、俺はお前に作って貰う身だ。文句なんて言わないからな?」

 優しく涼香にはにかむ。 

 そう、俺も涼香と同様にモテる仕草を調べた。

 それ曰く、なにげないはにかむ仕草に女の子はキュンと来るらしい。


「えへへ、そっか。じゃあ、回鍋肉ホイコーローにするね~」

 あんま分からん。

 本当に涼香がいつもより、喜んでいるのか分からないな。

 嫌な感じは覚えてなさそうだし、まあ良いか。


「ふ~ふふ~ん」 

 鼻歌を歌いながら料理する涼香。

 エプロン姿も、いつもと違って生足がすらりと伸びた感じが物凄く新鮮だ。

 包丁も火も使っていない時、俺は涼香の生足をす~っと指で撫でる。


「きゃあ! もう、祐樹! 料理中に脅かさないでよ!」


「悪いな。すらりとした生足がグッと来た」


「すけべ~。包丁とか握ってる時は絶対にやっちゃダメだよ?」


「分かってるぞ? だから、お前が冷蔵庫から食材を探している時に触った」


「抜け目ないやつめ」


「だろ?」

 それから、後ろで涼香の料理を見守る俺だった。

 そして、時たま、涼香は見つめる俺の方を見て微笑む。


「んふふ~。もうちょっとだからね~」

 自然を装って俺に微笑む涼香。

 そのしぐさだが、男にモテる仕草について書かれているサイトを読んでいる事を知っている俺にとって威力はいつも以上に凄まじい。


 だって、俺にキュンキュンして貰おうと何気ない微笑みを向けてくれてるんだぞ?

 めちゃくちゃ、可愛いくて死にそうだ。

 そんな感じで、モテる仕草を実践する可愛い涼香を堪能していく俺であった。





 そして、夜。

 涼香は腕をばっと広げて飾りっ気のない言葉で告げて来る。


「抱き着いて欲しいな~。えへへ」

 これまた、モテる仕草。

 いつもなら、もうちょっと抱き着いて欲しい時でも、『今日は疲れたから抱き着いて?』とか『祐樹が虐めるから抱き着いてくれないと拗ねちゃうよ?』と言った感じで抱き着いて? とお願いして来る。

 しかし、今日はストレート。

 理由は単純。男はストレートな甘え方をされた方がときめくって書かれていたからだ。


「しょうがない。にしても、男にモテる仕草って言うサイトを見て、それを俺に実践しちゃうとか可愛すぎだろ」


「あ、え、え、え、え? え?」


「パソコンで調べてたろ?」


「も、もしかして、全部知られてたの!?」


「まあな」


「今日、祐樹が不自然に笑うなって思ってたけど、それは全部知ってたから?」


「そうだぞ」


「くう~~~~~。やだ、めっちゃ恥ずかしいじゃん。って、祐樹?」

 あまりの恥ずかしさに見悶える涼香。

 抱き着いて? とか言ったくせに、俺から離れて恥ずかしさからくる火照りを冷まそうとしている。

 しかし、俺は逃がさない。


「お前が抱き着いて欲しいな~って言ったからな。逃がさん」


「ううぅ~。祐樹の馬鹿! 恥ずかしいから離れてよ!」

 恥ずかしさのあまり逃げようとする涼香が可愛すぎて、ぎゅ~っと離さないで抱きしめる俺。

 嫌われることはしたくないが、こんな可愛い所を見せつけられたら我慢できるわけがないだろ?

 片手ながらに頑張って抱きしめる涼香の顔は真っ赤っか。 

 それでいて、恥ずかしくてめちゃくちゃに唸っている。


「んんん~~~。もうやだ~~~」



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