第22話どの時代にも変な奴は居る

 色々と周りに回った俺達。

 ポップコーンだけではお腹は満たされない。

 がっつりとした食事を色々と買い漁って、みんなでシェアしながら食べる。

 そして、俺は片手しか使えないせいか、みんながみんな甘やかして、ご飯を食べさせてくれるのであった。


 ま、男子勢からだが。

 何が嬉しくて、男の手からご飯を恵まれなくちゃならん。


「ところで、新藤。田中はよく俺達に嫌がらせのようにデートの時の写真を送って来るが、お前と三田さんはどうなのか気になるっしょ。な、おまえら?」

 イケメンオタクの山口がふと口走る。

 そんな話題に食いついたのは男子だけではなく、女子もだった。

 どうやら、涼香も俺と同じく、普段の生活の事をあまり周りには言いふらしていないようだ。

 だからこそ、気になられてしまったわけである。


「ま、普通だよな? 涼香」


「うん、普通だよ? たまに、デートしたり、お話したり、ほんとそんな感じ」

 周りのご期待に応えて俺達の日常を語る。

 淡々とした感じで答えたせいか、みんなからの視線が突き刺さる。


「せっかくだし、ここでイチャイチャしてみなよ?」

 宮本さんの提案。 

 腐ってはいても、意外と両方いける口であるらしい。


「そうだそうだ。お前と三田さんがイチャイチャしてるのって、なんか想像できねえんだよな……」


「おうおう。皆での卒業旅行。でも、今は目をつぶってやっから、イチャイチャするっしょ」

 お熱い関係を見せろと言わんばかりな皆に押されて苦笑いする俺と涼香。

 だがしかし、疑われているのなら見せつけてやろうと言わんばかりな俺達が取った行動は簡単だ。


「祐樹。はい、あ~ん」


「んぐっ。やっぱり、ポップコーンは出来立ての方がうまいな」

 食べさせて貰う鉄板ネタを披露。

 涼香と俺は少しこそばゆさを感じて肩を小さくする。

 普通に恥ずかしかったんだが? やって後悔である。

 だって、大抵、こういう場面だと、


「っけ。田中と同じで隠しては居るけど、熱々かよ」


「あーあ。しらけちまったぜ」

 こういう風に弄られるんだからな?

 涼香も、俺みたいに妬まれはしないが、質の悪い感じで絡まれる。


「涼香がまさかあんな女の顔をすると思って無かった。うんうん、ひゅーひゅー。お熱いね~」

 

「涼香のあんな顔、マジ初めてみたんだけど。いや、涼香も女の子だね~」

 初めて、恋人であることをからかわれたのか、顔を真っ赤にして話を受け流す。

 そんな涼香と俺は顔を目を合わせて笑う。


『ああ、ったく、めんどくさい』ってな?


 恋人である事をからかわれながらも、向かったのは数年前オープンした区画である人気ゲーム会社のキャラが居るエリア。

 立体的に表現されるゲームの世界観は見ているだけで、童心に帰らせてくれる。

 まだまだ、子供な癖に何を言うかって感じだがな。


「見て見て、付け髭が売ってるよ?」

 涼香が指さす場所にはレジャーランドによくあるつけ耳と言わんばかりに、付け髭が並んでいた。

 日本国民なら誰しもが見た事があるであろう有名キャラのモチーフをかたどった付け髭である。

 レジャーランド内を歩いていると、割と付け髭をしている人を見かけた。

 その出どころはここだった訳だ。


「付け髭で1500円。ボロイ商売だな」


「そう言うこと言う? まあ、そう思っても口に出さないのがお約束でしょ?」


「ちなみに涼香はあれが欲しいから俺に指さしたんだよな? 待ってろ、買って来てやろう」


「え~、なになに。あの付け髭を買うん?」

 食いついて来た金田さん。

 どうやら、気になっていたのは俺達だけじゃない。

 で、あれやあれやという内に、じゃんけんで負けた二人があの付け髭をして、今日は一日中過ごすという事になった。


「じゃんけん。ぽん!」

 みんなでのじゃんけん。

 結果は俺と涼香が負けた。

 正直、付け髭とか恥ずかしくて仕方がないのだが、負けてしまったのだから仕方がない。

 自腹を切って、高い付け髭を購入し、装着して見せる。

 わざとらしく、髭がモチーフのキャラの真似をしながら、お披露目してやった。


「あはは、祐樹。似てない! 似てないから!」


「涼香。お前も、笑えない方だからな? 付け髭を付けてるお前も相当に酷いぞ?」


「うんうん。新藤君の言う通り、涼香も結構、やばいよ?」

 金田さんは手鏡を取り出して、涼香に渡した。

 手鏡を見た涼香は苦笑い。

 似合わない付け髭をした自分を受け入れられないご様子だ。


「っく、これで一日中過ごすとか普通に罰ゲームだよ……」


「まったくだ」

 付け髭を付けた俺と涼香はみんなから小馬鹿にされるのは言うまでもない事だよな?

 ったく、1500円もしたんだ。せいぜい、みんなをしっかりと楽しませてくれよ?

 

「っと、ちょうど近くにトイレあるから行って来るわ」

 一人がトイレへ。

 すると俺も、俺もと動き出す。

 もちろん、俺もだ。

 一足先に用を足し終わった俺は女子勢が待つ場所へと戻る。


 するとどうだ。

 今時風な男たちに『一緒に遊びません? なんか、奢るし。嫌だったら、すぐお別れで良いからさ』と遊ばないかと誘われているみたいだ。

 声は聞こえて来ないけどな。

 調子づいたナンパ男に苦笑いを浮かべて断る涼香達だが、それでも相手は諦めが悪く、まだまだ絡もうと言わんばかりだ。

 特に金田さんなんて、露骨に顔を近づけられて凄く嫌そうだ。

 これは不味いと思い、俺は駆け足で近づいて行く。


「待ったか? もうそろそろ、皆戻って来る」

 そう言うや否や、ナンパの顔つきは露骨に変わる。


「っち、マジで男連れで来てたのかよ~。あーあ」

 

「無いわ~。なら、もっとちゃんと男と来てますって言えや」

 時代錯誤なナンパ達はそそくさと居なくなるのであった。

 ったく、変な奴って何時の時代にもいるもんなんだな。


「災難だったな。なんか、されてないよな?」

 何もされてないのは分かっているが、一応聞いておくのだった。

 それから、俺以外の男子が戻って来た。

 で、田中が戻って来ると、金田さんはわざとらしく『怖かったよ~。田中っち。うえ~ん』とか言ってイチャイチャし始めた。

 まあ、金田さんは変な男に顔を強引に近づけられて、本当に怖かったのは良く分かっている。

 それもあり、まあ大目に見る俺達であった。


「祐樹的には、あんな風に泣き付かれた方が良かった?」

 

「お前の好きにしろ」


「ううん。怖くなかったよ? でも、ま、もうちょっと、怖い事があったら、ああいう風に泣き付かせて貰おっかな?」


「おうおう、そん時は慰めてやる」


「えへへ。そっか。ありがと」

 

「当たり前だろ?」

 願わくば、涼香が泣き付きたい時が起きないで欲しいんだけどな。

 泣き付きたい時もあるだろうし、そう言う時こそ、遠慮なく泣かせてやろう。


「田中っち。怖かったよ~」


「ああ。悪かった。俺が目を離したせいで……」


「そうだよ……。田中っちが居なかったから……。今度、遊び行く時はぜーったいに離れちゃダメだかんね?」


「おう、手を繋いでてやるから、安心しろ?」

 さてさて、途中から怖かったと言って、泣き付くのも冗談半分になり、ただ単にイチャイチャしてるあいつらを止めるとしますか……。


 

 

 

 


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