トレーニングウェアで誘惑してくるお嫁さん
「最近太って来たし、もっと痩せないとダメだよね!」
「お、おう?」
やけにやる気を見せている涼香。
何だかんだで、ダイエットを続けていることもあり順調に痩せてきているのを、俺は知っているわけで……。
今さら、そんなに息巻くことだろうか? と不思議に思った。
「というわけで、気を引き締めるためにトレーニングウェアを買ってきた!」
涼香の手には、スポーツブラと下は足首まであるレギンス。
そして、堂々と俺の目の前で服を脱ぎだした。
「おまっ、俺の前だぞ?」
「えへへ、夫婦なんだし別にいいじゃん」
初心な関係を続けていたが、それは着々と解消されていき、夫婦というよりも恋人らしい関係へと変化しつつある。
そりゃ、一緒にお風呂に入っていれば、ポロリと胸の中身も普通に曝け出されることも多々あるわけで……。
ゆえに、俺に裸や着替えを見せるのはもうそこまで恥ずかしくない、と言えるほどに俺と涼香の関係は縮まってきている。
今日は着替えを俺に見せつけてくる涼香。新品ということもあり、スポーツブラは伸びておらず、やや苦しそうに涼香の胸を締めあげ、同様にレギンスも涼香の下半身を締め付ける。
お嫁さんの生着替えに、興味がないわけがない。
緊張やら、興奮やらで、気づかぬうちに溜まってしまった生唾を、俺がごくりと飲みこんだときであった。
「んふふ、裕樹のえっち♡」
小悪魔じみた雰囲気を漂わせ、俺の瞳を覗いてくる。
涼香は俺に着替えを見せたことはあまりないわけで、その恥ずかしさからか頬はほんのりと赤くて、動きもぎこちないのがもどかしい。
そんな彼女がより一層とダイエットの気を引き締めるため、スポーツブラとレギンスを買い、俺の目の前で着替えた理由を俺は悟った。
「……俺を誘惑しようってか?」
「え~、違うよ。さすがに、裕樹に襲われたいからって、わざと体のラインが出る服に、裕樹の目の前で生着替えするわけないじゃん♪」
「……耐える。俺は耐えるからな! 絶対に!!!」
鋼の意志で俺は耐え抜く。
右腕のギプスが外れてから、俺は涼香の誘惑に負けることにしている。
それまでは、負けるわけにはいけないのだから。
誘惑に負けまいと、涼香の容姿から視線を外していたら、涼香はわざとらしく俺に近づいて来た。
「で、どう? 初めてスポーツブラとレギンスというトレーニングしてる人がするっぽいような恰好をしたけど、似合ってる?」
「そこそこ……って、ところか?」
「本音は?」
「めちゃくちゃいいです……」
「あははは、素直でよろしい! もうもう、可愛い奴め! ほら、好きなだけ見ていいからね?」
そう言われたら、嫌でも涼香が着ているウェアに目が向く。
胸全体を締め付け、動きやすくするためのスポーツブラ、下は足首まであるレギンス。両方とも、ややきつそうに涼香の体を締めあげ、体のラインを引きたたせている。
「結構きつそうだけど大丈夫か?」
「痩せたら、だぼだぼになるからね。ちょっと小さめの買ってみた」
「実際は?」
「ぴっちり目の方が裕樹を誘惑できるもんね! ほれほれ、ナイスボディなお嫁さんだぜ? 襲わないのかい?」
このお嫁さん、なかなか手ごわい。
と思いつつも、俺はこのままだと本当に涼香を襲っちゃいそうなので、ちょっとした指摘をしてみる。
「ちなみに、スポーツブラはその上に何か着るし、レギンスもその上にショートパンツを普通は穿くのが普通だからな。その格好で絶対に外に出るなよ?」
「え? ジムで体を動かしてる人っていうと、こんなぴっちりしたウェアだけを着ているイメージなんだけど?」
「まあ、今の涼香みたいな人もいないことはないだろうけどさ……。男の視線対策はしなくちゃだめだろ。変な目で見る人は普通にいる」
「なるほどね。この体は裕樹専用だし、気を付けなくちゃ。あ、裕樹の体は私専用だから、むやみに他の子に見せちゃだめだからね?」
「わかった。わかった」
「で、実際問題。この非常に目のやり場に困るトレーニングウェアの上に何を着たらいいと思う? 私、あんまり運動用の服は持ってないんだよね」
困った顔をしている涼香。大学生になったとき、断捨離でかなり捨てたみたいで本当に運動用の服を持っていないのだ。
「ん~、適当に俺の棚から、漁っていいぞ」
「おっけ~。んじゃ、お借りしちゃお~っと」
涼香は俺の服がしまってある棚を漁り出した。
なぜか、パンツがしまってあるところを。
「なにを漁ってるんだ?」
「裕樹のパンツだね! こう、勝手に漁って良いと言われたら、まずはパンツから漁るのが鉄則じゃん?」
「……まあ、わかる」
なんとなく俺も涼香の衣装棚を漁りたい気分になったことがある。
その際、真っ先に開けたのは下着が入っているところだからな。
「さてさて、上に着るものは~っと。あ、ジャージもあるじゃん。くんくん……」
涼香は、棚から取り出したばかりの俺のジャージの匂いを嗅ぎだした。
「はあ……、裕樹の匂いがしない。マイナス100点だね」
「そりゃ洗濯済みだし。てか、涼香って俺の匂い好きだよな」
「好きだね! なんか、裕樹の匂いを嗅いでると落ち着くんだよね~」
「匂いフェチってわけか」
「えー、私が裕樹の匂いを好きなのは、特殊なことじゃないって。誰だって好きな人の匂いなら、大好きに決まってるじゃん」
「そういうもんか?」
「裕樹は私の匂い嗅ぎたくならない?」
「ならない」
「強情だな~。えいっ!」
俺の顔を涼香は、胸に埋めるように抱きかかえてきた。
「んっ、んんんん~~~~!!!」
高級なクッションよりも、心なしか柔らかい涼香の胸は、いつも以上の破壊力を発揮している。なにせ、胸を覆い隠しているのは、スポーツブラだけなのだから。
いつものブラを着ているときより、一線を画す柔らかさを感じる。
しかも布の材質がすべすべなため、肌触りも格別だ。
柔らかさもそうだが、薄着なこともあり、涼香の匂いをいつもより濃く感じる。
俺の鼻腔をくすぐる涼香の匂い、それは芳香剤やアロマとは違い、自然で柔らかくて、どこはかとなく懐かしさを感じさせる匂いだ。
「涼香はいい匂いだ。嗅ぎたいですって言うまで、離してあげないよ~だ」
「絶対に言わない……」
胸に顔が埋まっていることもあり、くもった声で俺は言った。
必死に脱出を試みるも、涼香は全然逃がしてくれない。
どうやっても、外へ逃がしてくれない涼香、押してダメならもっと押せ。
敢えて、涼香の胸により一層と力を込めて突き進んでみた。
「いやん。もっと突っ込んでくるとか変態さんだね」
「くっ……。いい匂いじゃない。むしろ、臭い!」
涼香の拘束の力が一気に緩んだ。
ふぅ、やっと解放された。俺は久方ぶりの新鮮な空気を肺に取り込んだ。
「いつも思うけど、お前俺の顔を胸に埋めるの好きだよな……」
俺の文句に対して、涼香は上の空だった。
「く、くさいんだ。私、臭いんだ。ごめんね、臭いお嫁さんで……」
俺に臭いと言われてショックを受け、涼香は茫然と立ち尽くしている。
オーバーリアクションな涼香。これ、絶対に傷ついた振りをしてるだけだな。
「……」
わざと臭いと言っただけで、普通にいい匂いだ。
そんな風に言ったら、涼香の思うつぼなので、俺は沈黙を保つ。
ちらちらと涼香は俺の目を見て、慰めろと催促してくるが、それも無視。
30秒ほどの熱き攻防を経て、涼香は諦めて舌打ちした。
「ちぇっ。つまんないの。ここは、いい匂いだって慰めてくれてもいいのに」
「ったく、お前の魂胆なんてお見通しだっつうの。ほら、いい加減おふざけは終わり
だ。ちゃんとトレーニングウェアの上から着る服を選べって」
「はーい」
スポーツブラとレギンスの上に服を着だす涼香。
俺が上げた速乾性のシャツと短パンを着こむと思いきや、何故かジャージを着た。
「今の季節だと、まだそれは早くないか?」
「たくさん汗をかいて痩せるためだね」
ジャージを着た涼香に目を向ける。体のラインが完全に隠れたと思いきや、胸はそうでもなかった。いつも思うが、どうしたら、ここまで大きくなるんだか。
生みの親であるおばさんはわりと慎ましやかなのに。
「よし、そろそろ運動をスタートしよっと」
「あ、俺を誘惑するために、わざとトレーニングウェアに着替えただけじゃないんだな」
「だって、裕樹にいつ襲われても平気な体を維持したいからね」
「あざといな」
「嫌い?」
「いいや、めっちゃ好きだぞ」
「んふふ、知ってる♪ さ~てと、ダイエット、ダイエットっと!」
涼香は手始めにストレッチから始めた。
暇だし、俺も呑気に涼香のダイエットに付き添ってあげるとするか……。
俺のお嫁さん、変態かもしれない (旧題:幼馴染と送る甘々新婚生活!) くろい @kuroi
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