俺のお嫁さん、変態かもしれない (旧題:幼馴染と送る甘々新婚生活!)

くろい

第1話取り敢えず、夫婦してみる?

「宝くじ、一緒に買お?」

 一枚の宝くじすら買うお金を持っていなかったのだろう。

 腐れ縁の幼馴染である三田涼香が、いきなり媚びながら俺に聞いてきた。


「買わん」


「え~、夢見ようよ~夢。当たったら、私と祐樹(ゆうき)で半分こだよ? 3億を二人で半分で、1.5億ずつ。一生遊べるよ?」


「……はあ。たまには、お前の戯言(たわごと)に付き合ってやる」

 半分という言葉。

 何となくそれに合わせて、一口300円の半額である150円を手渡した。

 受け取ると、素早く宝くじ売り場に駆けて行く幼馴染の涼香(すずか)。

 宝くじ。実は高校生である俺達でも買える代物。

 お店によっては高校生相手に販売をお断りしている場合があるらしいけど。

 まさか、お断りされてないだろうな? とか思いながら待つこと1分くらい。


「買えたよ!」


「おう、良かったな」

 たまたま帰り道が一緒になった涼香(すずか)と俺。

 二人でこの日、宝くじを買った事で人生が大きく変わるのをまだ俺達は知らない。


   *


 時間が過ぎると言うのは早い。気が付けば、新年を迎えていた。

 そんな俺は今現在、何の気なしに買った宝くじのことが、気になって仕方がない。

 母の実家から帰って来たばかりだが、結果が知りたくて涼香の家へ新年の挨拶へと向かってしまう。


「明けましておめでとうございます」


「あけおめ~」

 礼儀正しくした俺に対し、あけおめ~と軽いノリ。

 ……まあ、幼馴染である。このくらい普通だな。

 でも、しっかりと挨拶した俺がバカバカしく思えたので、脳天を小突く。


「新年の挨拶くらいちゃんとしろ」


「うっ。頭を小突かないでよ? これ以上、私の脳細胞が死んだら、私はもっと馬鹿になっちゃうじゃん」


「おま、学年一位の模試では最難関大学にA判定を貰ってる癖に、そんなこと言うと、嫌味にしか聞こえないからな?」


「うん! 死ぬ気で頑張って最難関大学を合格しようとしてる祐樹への嫌味だからね!」


「ったく、で、だ。年末に買った宝くじはどこだ? どうせ当たらないとか言ったが、どうもやっぱり気になってな。早く見せてくれよ」

 子供みたいだねと煽るようなにやつきを俺に向けた後、宝くじの入った袋を取ってきた涼香は、思い出したかのように言う。


「そういえば、1月5日なのに、私初詣に行ってないんだ~」

 一応、受験生。神頼みくらいして置くのは当然。

 という訳で、俺は遅めだが、涼香を初詣に連れて行くことにした。

 涼香を寝間着から着替えさせ、近所の神社に二人で歩き始める。

 そして、そのついでにスマホ片手に、当選番号をチェックし始める涼香。


「……」


「ん? どうした?」


「祐樹……。これ、当たってるんだけど」


「ほほう。わざとらしく大げさにして俺をだまくらそうってか? ほれ、さっさと貸してみろ」

 涼香のスマホと宝くじを奪い取り、当たっているかどうかを確認する。

 えーっと、56組の123456734番が当選番号で……


「……」


「ね?」


「なあ、ヤバくないか? これ」


「うん。これ、すっごくヤバいよね……」

 そう、二人で買った宝くじ。

 1等が当選をすると誰が思っただろうか?


「ひとまず作戦会議だ」

 俺達は罰当たりな事に、初詣に行くのを辞めてしまう。

 1月5日、すっかりと新年の営業を開始したファミレス店に入りこれからについて話し始めた。


「どうすんだこれ……」


「と、取り敢えず、二人で買ったんだし、1.5憶ずつ分配で良いんじゃない?」


「というか、所有権は俺とお前どっちなんだ?」


「え、二人で買ったから二人のでしょ。馬鹿なことを聞かないでよ」

 冷静に物事を考えることが出来なくなる。

 ドリンクバーを頼んだというのに、なぜか二人していつまで経っても飲み物を取りに行かないで、ウェイトレスさんが運んでくれた水で喉を潤す。


「涼香。まさか、その宝くじは私が買ったもの! 俺には所有権が無いとか、言わないよな?」

 幼馴染とはいえ他人。大金となれば裏切られる可能性はある。

 気が付けば、疑心暗鬼に陥ってしまう。


「そ、そんなわけないじゃん。そういう、祐樹こそ私から奪おうって考えてるんじゃ……」


「あ?」

 険悪なムードが漂い始める。

 そんな中、俺はとある事に気が付いてしまった。


「贈与税……」


「え、あ。そうだね。どちらか一人が代表として受け取るんだし、相手に渡すとなると贈与税が掛かっちゃうかも」

 贈与税。自分のお金を相手に上げた時、相手が受け取った金額に応じて支払わなくてはいけない税金だ。

 年100万円? だったかそこらまでは非課税だが、それを超えると高い税率が課されると小耳に挟んだ気がする。


「贈与税を考えると、二人で綺麗に分けた場合、かなり取り分が減っちまうぞ?」


「ど、どうしよ」

 最難関大学に合格目指して頑張る俺と涼香。

 残念なことにまだまだ子供。税金の話や、お金周りの話に関してはまだまだ世間を知らない。

 そんな俺達は親に相談しようかと考えるも、しないことに決める。


 だって、今は2023年だぞ?

 成人年齢は18歳に引き下げ、高校三年生である俺と涼香はもう誕生日を迎えて二人とも18歳。

 親が俺達の財産を管理する権利は事実上なし。

 それだというのに、親に話せば……きっと、将来のため~とか言って少なからず没収というか、管理されて自由にお金が使えなくなるのが目に見えている。


「贈与税をどうすべきか……」


「だね。どうにかしないと……」

 スマホという文明の利器があるというのに頼らず、二人の頭だけで物事を考えてしまう。

 そして、とある馬鹿げた結論を導き出した。


「結婚」


「け、結婚? いきなり、なに言ってるの祐樹」


「いや、結婚してから二人で換金すれば、贈与税を課されずに共同資産って事で、自由にお金を使えるんじゃないかって思ったんだよ」


「……確かに。でも、結婚ってさ。私達、別に恋人でもないただの腐れ縁幼馴染だよ? 祐樹はそれで良いの?」


「でも、結婚すれば、片方がこの宝くじは私の物だ! と言い張れなくなるし、裏切りも防げる。まあ、最悪離婚すれば別に良い訳で……」

 突拍子もないアイデア。

 それを世間知らずな俺と涼香の二人は名案かのように扱う。


「祐樹は私と結婚しても良いの?」


「お前こそ、俺と結婚して良いのか?」

 贈与税。

 ふと出て来たその言葉が頭によぎって仕方がない。

 それは涼香も同じだったようで、二人で顔をまじまじと見つめ合わせた。

 同意とも取れる涼香の顔つきを見て、俺はハッキリと宣言する。


「良し、結婚だ」


「うん、結婚だ。お母さんたちを説得しなきゃ」


「おいおい、忘れたか? 今は2023年だ。成人年齢は18歳。別に、親の同意なんて要らないだろ」


「あ、そうだった」

 それから俺達は宝くじの当選した場合についてをあまり調べず、結婚の方法についてやたらと調べ準備を進めていく。

 そして、戸籍謄本やら色々と市役所で受け取るなど準備を進めた。

 18歳で成人。親にいちいち同意を貰っているかどうかの確認なんてない。

 とんとん拍子に準備が進んでいくも、婚姻届けの証人の欄で困った事が起きた。

 成人年齢は18歳に引き下げられたが、20歳以上の人の署名が必要だった。


「誰にする?」


「てか、待った。俺達、まだ一応、高校生だよな? そもそも高校生で結婚って校則は大丈夫なのか?」


「その辺は大丈夫だと思うよ。戸籍謄本やらをかき集めてる間に、生徒手帳の校則を読んでたら、別に結婚しちゃダメとか書いてなかったし」


「お、おう」

 婚姻届けを書いていた時にぶち当たった証人の欄。

 取り敢えず、一度持ち帰って考えてみよう。

 そう思っていた時だった。


「少しお節介させて貰えないかい? 高校生で結婚という言葉を聞こえてね。20歳を超えた大人の証人が見つからないんだろ? 私と妻で良ければ、書きますよ?」

 ちょうど婚姻届けを出しに来た二人が声をかけてくれた。

 俺達が高校生で証人が居ないと悩んで居たのが聞こえたのだろう。


「どうして助けてくれるんですか?」


「確かに、まだまだ二人は子供だと言われる年齢かも知れない。それでも、愛を信じて結婚したい。そんな二人を見たら、助けてあげたくなるのは当然じゃないか」

 別に証人になったからと言って何か大きな責任があるわけじゃ無い。

 たまたま出くわした婚姻届けを出したばかりの新婚さん二人が証人の欄を埋めてくれた。


 で、準備は終わったといえよう。

 後は書類を提出するだけで、晴れて結婚である。

 

「なんか、緊張してきたよ」


「お、俺もだ」

 恐る恐る窓口に婚姻届けを提出。

 成人年齢は18歳。もう、親の同意書なんて要らないわけで……。


「おめでとうございます」


 新藤(しんどう) 祐樹(ゆうき)と三田(みた) 涼香(すずか)は結婚。

 俺の籍に涼香が入り、涼香は新藤 涼香となったわけだ。


 急ピッチで進めた結果、まだ時間はある。

 1月5日。もう宝くじを換金することが出来る日。

 婚姻届けを出した後、その勢いで換金に向かった。

 高額当選者という事もあり、ちょっとした部屋に通されて説明を受ける。


「え~っと、お二方は共同購入でお間違いないでしょうか?」


「共同購入って、なんですか?」


「宝くじを二人で買ったという事です。共同購入の場合、それぞれいくら受け取るか比率を決めて、比率に応じた当選金を受け取る事が可能です」


「……贈与税とかは」 

 あれ? 

 なんか、嫌な予感がして来た。

 ぶわっと汗が噴き出て止まらないんだが? いや、ま、まさかな?


「もちろん掛かりませんよ?」


「……」


「……」


「どうかなされましたか? っと、すみません。書類の確認不足でした。お二方はご夫婦なので共同購入で当選金を分けなくてもそこまで支障はないかもしれませんね。でも、念のため、今後揉める可能性も有ると思われますので、お二人で分けるのをお勧めします。どうなさいますか?」


「あ、はい。綺麗に半分に分けてください」


「それでお願いします」


「ええ、それでは、当選割合は50パーセントづつ。半分づつに分けて、口座にお振込みさせていただきますね」


「……」「……」


「どうかしました?」


「「いえ、なんでもないです……」 

 贈与税がかかると思って結婚したとか空気的に口が裂けても言えないまま、黙々と手続きは進んで行くのだった。





 すべての手続きが終わり、当選金を新しく作った口座に振り込んで貰えることになった。さすがに、大金は即日振込ではないらしい。

 振り込まれるのが、本当に楽しみなのだが……。

 銀行から出た俺達は取り敢えず、現状を振り返ることにした。


「私達、馬鹿じゃない?」


「ああ、馬鹿だろ。高額当選に俺達は動揺しすぎてんだろ。なんで、結婚については滅茶苦茶に調べて、当選金の受け取り方とかについて調べなかっただよ……」


「あのさ、どうする?」


「いや、まあ。離婚すれば良いだけだろ」


「ん~、さすがに私も祐樹もバツイチになるわけじゃん? まあ、取り敢えずさ、結婚しちゃったわけだし、普通に夫婦として生活する?」


「腐れ縁。別に相性が悪いとか、そういう訳じゃない。もし仮に、本当に相性が良ければ、それこそ離婚せずにバツは付かないか……」


「取り敢えず、夫婦生活してみよっか」


「ああ、取り敢えず、夫婦になってみるのも悪くないかもな」





 こうして、俺と涼香の奇妙な夫婦生活が始まった。






 


(あとがき)

書籍版が10月20日発売します。

書籍版とWEB版では、大幅に異なりますので、ご注意ください。

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