第2話これからのこと

 幼馴染である涼香(すずか)と結婚した。

 お試し夫婦であり、普通に別れる可能性が非常に高い。

 親に言わず、内々にして隠して置いた方が都合が良いに決まっている。

 なんて事は出来ず、涼香は俺の配偶者となってしまっている。

 扶養問題やら、様々な問題が生まれており、それを放置するのは到底出来ない。

 

 なので、俺は実家のリビングで姿勢を正しながら、両親に話をする。


「大事な話があります」

 父さんも母さんも、なんだなんだ? と驚きもしない。

 その余裕、今のうちだからな? と言わんばかりにカミングアウトした。


「結婚しました」


「ぶふっっ!!!」


「げほっ、げほっ」

 二人して咳き込む。

 もう全てを話して楽になりたい。焦る気持ちのせいか、二人の事はお構いなしで話し続けた。

 宝くじが当たったから、涼香と結婚したこと、その他いろいろだ。

 あらかた、すべてを話し終えると、父さんはカンカンに怒る。

 うん。なんも相談せずに結婚すれば、こうなるのは目に見えていた。

 高校生で結婚はさすがにおかしい。

 幼馴染である涼香とはいえど、親御さんに顔向けできない。

 宝くじを当てたからと言って、して良い事と悪い事ぐらいしっかり判断しろ。

 だのだの、色々と言われ続けた。


「すみませんでした」

 馬鹿をした自覚は十分にある。

 頭を下げて父さんに謝り続けるも、俺は殴られた。

 ……殴られておかしくないので、なんの反抗もしない。

 むしろ、殴られて頭に血が上るどころか、血の気は無くなり、どんどん冴えていく意識。

 ああ、ほんと、何てことをしちゃったんだってな……。


「取り敢えず、涼香ちゃんの親御さんの所へ行くぞ」

 家でのんびりくつろいでいた父さんは、けじめを見せるためにスーツに着替えた。

 俺も同様に私服なんかじゃ無く、高校生の正装である制服に着替える。

 そして、父さんと母さんと一緒に涼香の家へ行く。

 

 涼香の家に辿り着くと、向こうもかなりきっちりとした服装で待ち構えていた。

 俺、涼香、両名の両親で家族会議が行われる。

 長い長いお説教。それによって、出された結論は……


「まあ、金銭的に余裕もあるのなら、結婚については問題なし……いや、問題大ありだが、大目に見よう。ただ、最後に親として聞かせてくれ。二人は本当に愛し合っているんだよな?」

 俺の父さんが代表して場を締め括る一言を告げた。

 なまじ幼馴染をしている期間が長いせいで、俺と涼香が出来ている事をまったくもって嘘だと思っていない。

 ……お世辞にも、別に恋愛感情だとかそう言うのがあるわけじゃ無くて、取り敢えず、夫婦になったものの、相性が悪かったら、離婚することを考えていると言えない雰囲気。

 離婚するかもとか言ったら、ガチでぶん殴られてもおかしくない。

 てか、あれだ。贈与税が掛かると思って結婚しちゃいました~とか正直に話していたら、絶対にヤバかった。

 それを今、カミングアウトして愛し合ってませんと言ったとしたら……。

 この場で、愛し合っている以外の事を言ったらヤバい。

 それが分かっている涼香と俺は、チラリとアイコンタクトを取って嘘を吐く。


「うん」


「はい」

 まあ、あれだ。

 この場は愛し合っているとか言っても、別に夫婦になってから仲が悪くなって別れる場合もあるし大丈夫……なのか?


「ははっ。それなら良い。ったく、宝くじが当たったから結婚しちゃうとは、二人とも今時の子らしくない熱さを持ってるんだな。さてと、母さん。寿司だ寿司を取ろう。今日は祝おうじゃ無いか」


「良いお酒出さなくちゃですね」


「にしても、まさか二人が出来ていたとは思ってなかった。父さんは驚きだ」


「ふふ、いきなりですが、やっぱり娘の結婚。嬉しいものですね」

 お説教が終わった途端だ。

 俺達の両親は手放しで俺と涼香の新しい門出を祝い始めるのであった。


 式はいつ上げるのか?

 新婚旅行はどこに行くのか?

 孫はいつ?

 

 もう、色々と根掘り葉掘り聞かれながら、盛大に祝われる。



 ほんと、とんでも無いことになったな……。







 怒られ、認められ、祝われた次の日。

 俺と涼香は二人して、公園のブランコに座り、黄昏ていた。


「凄いことになっちゃったかも」


「まあな。と言うか、あれだ。高校を卒業したら、二人で自由にすると良いって言われたが、つまり出てけって事だよな?」


「絶対そうだろうね」


「宝くじを当てたお金がある。部屋はまあ、ワンルームで良いとして……」


「いやいや、ダメに決まってるじゃん」

 言われて気が付く。

 実家を出た俺と涼香、わざわざ出て行ったのに別居はおかしな話だ。


「涼香と同棲か……まあ、夫婦だしなんの問題も無いか」


「同棲は結婚してない男女が使う言葉。私達の場合、同居だよ?」


「同棲を通り越して、同居。だいぶ、通り越したな。まあ、とはいえだ。幼馴染であるお前とは付き合いが長いし、普通に夫婦してみるのも悪くない。てか、母さん達が結婚指輪は? 婚約指輪は? って目を輝かせてたし、今度買いに行くぞ。今更になって、離婚するかも~だから買わないとか言ったら、本当に不味いことになりそうだし」


「だね~」

 のんびりとした雰囲気で今後について語らった。

 で、別れ際に涼香がわざとらしく口をとがらせて俺に言う。


「お別れのちゅ~でもする?」


「ぶっ! おま、いきなり何をだな……って、夫婦だしな。とはいえだ。色々と通り越したが、あくまで夫婦(仮)だ。今はまだ辞めて置こう。雰囲気に呑まれ、わざと夫婦っぽい事をする必要はないだろ。普通にのんびりいこうぜ?」


「あははは、だね~。んじゃ、バイバイ。はあ……、学校の先生と面談が怖い」

 事後報告だが、学校に報告しなければならない。

 割とどうなるのか分からないので、恐ろしいばかりだ。


「まあ、俺達には金がある。退学にはされないだろうし、なんか言われて、酷い目に遭ったら、ぱあ~っとお金を使って気晴らしだ」


「うんうん。それ良いね」


「っと、気を付けて帰れよ? 俺の奥さんやい」


「私の旦那さんこそ、気を付けなよ?」

 わざとらしく強調して言い合った奥さん、旦那さん。

 その言葉がもどかしくて、二人して口を綻ばせるのであった。




 次の日。

 生徒指導室で、親を交えて先生と話をした。

 曰く、校則で禁じられていないので問題なし。

 学校側としては校則違反で罰することは無いとの事だ。

 しかし、学生婚。

 周囲からの目とか、話題になって変に噂されるだとか、色々な理由で、学校では夫婦である事は隠すべきだと諭された。

 もちろん、言われたリスクの事は分かっている俺と涼香。

 残りの少ないたった2ヶ月ちょっとの間、高校では夫婦ではなく、幼馴染として過ごすことを約束した。


 思いのほか、嫌味ったらしく言われることが無かったせいか、ほっと胸をなでおろす俺と涼香。

 だが、それでも思う所があり、二人で語らいたい。なので、面談をしに来てくれた親とは別れ、二人でぶらぶらと繁華街に出向く。

 大学にこそ、受かってないが、春からは一緒に暮らすことになっている。

 自然と不動産屋の物件についての張り紙に目を奪われた。


「春から住む部屋を探しとかないとだね」


「ん~、夫婦だしなあ……。とはいえ、夫婦円満の秘訣は個人部屋がある事ってのを聞いた覚えがある」


「え~、それだとリビングと合わせたら2LDKだよ? 幾ら、宝くじを当てたからってそんな良い部屋、最初から借りたらすぐにお金無くなるよ?」


「だな。宝くじは半分こ。結果、手元には1.5億円。税金が引かれないとはいえ、働かなければ普通に普通の人生しか送れないもんな」

 舞い上がっていたが、別に1.5億円だけで暮らそうとしたら、豪遊なんて絶対に出来ないのだ。


「それでも他の人に比べたら、優しい人生を送れるから良いじゃん。で、良い物件はありそう?」


「っと、こんな物件はどうだ?」

 1LDKだというのに、リビングと部屋はしっかりと別れており、プライバシーを守ってくれそうな良さげな部屋だ。


「どっちがLDKな部屋を使う?」


「そうだなあ~。俺的にはこの物件だったら、別にどっちでも構わん」


「私もこの物件なら、LDKでも6畳くらいのフローリングの部屋、どっちでも良いかも」

 二人しての部屋選び。

 意外と楽しい。

 将来をこうなんと言うか、楽しく生きるために色々と考えて行動する。

 それだけで、ワクワクとしてしまう。


「お金の心配がないせいか、新生活が楽しみになって来たんだが?」


「私もすっごく楽しみ。あ、そうだ。せっかくだし、新しいお部屋に置くベッドとかこれから見に行っちゃう?」

 これからの生活に心弾ませているのは俺だけじゃない。

 涼香も楽し気に笑って期待に胸を膨らませている。


「ああ、一緒に見に行くか。ベッドも家電もなにもかも」


「うん! って、待った。私達、まだ普通に受験生だったよ」


「……言われてみれば、センター試験まであと少しだ。てか、お金はあるんだし、大学に行って就職しなくとも生きてけるわけで、お前はどうするんだ?」


「私はもちろん行くよ? ほら、祐樹が言った通り、1.5億。一応、生涯を終えるには十分かもだけど、豪遊は出来ないし。普通に大学に行って、卒業して、お金はあんまり貰えないけど、仕事がすご~く楽なとこで働いて、そのお金と宝くじのお金で悠々自適に人生を楽しむ!」


「俺も似たようなもんだ。っと、じゃ、家具を見に行くのはまた今度で。模試で二人ともA判定は取っているが、最後の大詰めだ。頑張るぞ?」

 受験まであと少し。

 宝くじを当てても大学に通いたい気持ちは変わらない。

 だからこそ、俺と涼香は取り敢えず、受験に向けて勉強するのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る