第30話アウトドアサークルにて
大学生活も本格的に始まりを迎えた。
履修登録をし、講義の1回目が行われて行く。
初回という事もあり、教科書、出席の取り方、テスト、レポート、などなどについて説明がなされた。
そう言った説明を聞いた後、意外と講義の時間と言うのはルーズらしく、初回の講義で90分丸々を使う講師はあまりいなかった。
もちろん、最初からがっつりと踏み込んだ内容をやる人も居たは居たんだがな。
にしても、90分かあ……慣れることが出来るだろうか?
と言った感じで、大学生活を思い耽る俺は涼香をテラスで待つ。
お、来たな……。
「待った?」
「待ってないぞ」
「じゃあ、帰ろっか」
「だな」
今日はもう受ける必要のある講義は二人ともない。
夜から矢代先輩が作ったアウトドアサークルで、コンパという名の宴会までは時間がまだまだある。
家まで遠い人はまだしも、たかだか数駅程度離れた場所に住んで居るわけで、わざわざ大学に残って時間を潰す必要はない。
ま、一緒に暇を潰してくれる友達が居れば話は別だがな。
生憎、出会った奴らはこれから講義があるらしく、俺と涼香はものの見事に暇になったという訳だ。
「お、祐樹。今日はもう講義は終わったか?」
ちょうど大学を出ようとした時、矢代先輩と出会った。
「はい、先輩主催のバーベキューまで時間があるので一回帰ります」
「ああ、そういや。実家を出て嫁さんと一緒に暮らしてんだっけな。んじゃ、これから暇なら、二人ともちょいと俺を手伝ってくれや。夜のバーベキューに向けた準備ってやつだ」
「え、あ、はい。涼香はどうする?」
「うん、私も良いよ」
「よし、決まりだ。んじゃま、今日、バーベキューをやる所に向かっといてくれ、俺は車で行くからよ」
言われた通り、バーベキューをする予定になっている場所へ。
アクセスはかなり良く、駅からそう遠くない場所。
二人して、車で来ると言う矢代先輩を待つこと10分。
「よ、待たせたな。車に荷物があるから運ぶのを手伝ってくれ」
「荷物ってバーベキュー関係のですか?」
「それもある。が、他にもあるぞ。ほれ、意外と大変だからテキパキやらねえと間に合わんぞ」
先輩が乗って来た車から荷物を下ろす。
バーベキュー用のコンロ、炭、椅子、などなど。
それに加えて……
「アウトドアの魅力を感じて欲しいんだよ」
テント、ランタン、ハンモック、タープ、寝袋。
バーベキューとは関係ない道具が出てきた。
なるほど、これらを設置するのに時間が掛かるから俺達の手を借りるわけか。
「ほれっ。キャンプ初心者用に俺が作ったテントの張り方だ。お前ら二人はそれを見て、やってみろ。なんか、分かんないことがあったら声を掛けてくれ」
手を振って別の作業をし始めた矢代先輩。
その傍らで、俺と涼香はテントを張り始めた。
「矢代先輩って凄い人だね。こんな風に色々と企画を準備して、やっちゃうなんて意外だよ」
「頼れる先輩だからな」
足の怪我の時も親身にしてくれた。
何事にも全力を尽くす男。
それが矢代先輩という人物だ。俺が今通う大学に入りたいって思ったのは矢代先輩に憧れを抱いていたからだ。
「っと、そっち抑えといてくれ」
「りょーかい」
少し汗ばむ季節。
二人でテントを張って行った末……20分くらいでテントを張り終える。
「ふぅ。これで良いんだよね?」
「説明書通りにやったんだ。これで大丈夫だろ。あっちで、別の事をやってる先輩に見て貰うか」
しっかりとテントが張れたかどうかを矢代先輩に見てもらう。
すると、矢代先輩は問題なしと軽く口にした後、俺達の方を向いて聞いて来た。
「で、どうだったよ。テントを張って見た感想は」
「達成感が感じられたというか、ああ、こういう風に張ったテントで夜を明かすってどんな気分なんだ? ってなりました」
「私も祐樹と同じです! ちょっと、泊まって見たいな~って思いました」
「おうおう。やらせてみた甲斐があった。さてと、俺の方も幾つか準備が出来た。ほれ、あそこを見て見ろ」
矢代先輩が指さした先は木が生い茂っている。
そして、木々にはハンモックが吊るされていた。
「たのしそう!」
「涼香さんの言う通り、あれは良いものだ。ほれ、休憩がてら体験して来い!」
矢代先輩に背中を叩かれた俺は涼香と一緒にハンモックの元へ。
ゆらゆらと揺れるハンモックで寝そべった涼香は満足げに感想を教えてくれる。
「これ良い……。なんというか、落ち着くかも。祐樹も寝そべってみなよ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
ゆらゆらと揺れるハンモック。
片手しか使えず、高所に設置したら俺が使えないと分かっている矢代先輩。
それがゆえに、ちゃんと低くハンモックを設置してくれたのだろう。
「おお、これは中々に心地が良いな」
「だよね! ハンモックでゆっくりと本を読んでみたくなってきた」
「それ良いかもな」
ハンモックの良さを味わっていると、先輩がやって来て嬉し気に語る。
「良いもんだろ? アウトドアって不便で我慢の連続って思われがちだけどよ。こんな魅力もあるんだぜ? さてと、そろそろ休憩も済んだろ? 俺を手伝ってくれや」
「分かりました」
「うん、手伝います!」
涼香と一緒に矢代先輩を手伝いを再開する。
そうしていく内に時間はドンドン過ぎ去って行って、矢代先輩が誘ったであろう人が一人この場にやって来た。
「よ。矢代ちゃん。後輩たちと元気に頑張ってんね」
「ああ、頑張ってんだよ。お前も早く来たなら手伝ってくれ」
「りょ~か~い。んじゃま、矢代ちゃんは一人で大丈夫そうだし、私はえ~っと……どう呼んだら良いの? あの二人は」
「ダブル新藤だから、新藤夫、新藤妻か祐樹、涼香、って感じで呼べ」
「センスなさすぎ~。じゃ、二人んとこ行くとしますか」
矢代先輩と話を終えた先輩が俺達の元へやって来た。
そして、俺達に挨拶をしてくれる。
「初めまして。山中(やまなか) 裕子(ゆうこ)です。よろしくう!」
「あ、どうも新藤 祐樹です」
「妻の涼香です」
隠しても無駄。というか、隠しても逆に怪しまれる。
俺と涼香はオープンで行くことに決めたわけだ。
まあ、聞かれなければわざわざ夫婦関係にあるって事は話すつもりは無いが。
「基本、私は人の事を名字で呼ばせて貰ってるけど、二人はそうだね~。あ、こんなのはどう? 夫の君は新藤くん。妻の君は新藤ちゃん。どう? 今みたいに呼んで良い?」
「あ、はい」
「はい、私もそれで大丈夫です」
「そっか。じゃあ、よろしく。私は気軽に山中先輩と呼んでくれたまえ! 新藤くんと新藤ちゃん。さてさて、学生で結婚しちゃうぐらいお熱い二人。面白い話が聞けるかな~なんてね?」
そう言うと、ちょっと離れた所に居た矢代先輩の声が響いて来る。
「あんまり、変な事をきくんじゃねえ~ぞ~! 聞いたら、俺がお前に鉄槌を下すから覚悟しとけ~」
「はいはい。わかってますよ~」
大声で山中先輩がそう言った後、俺達の方を向いニヤニヤとしながら聞く。
「二人はどこで出会ったの? あ、嫌なら話さなくても良いからね~」
ちょっとした山中先輩による質問攻めが始まる。
さて、どこで出会ったか……別に聞かれて困る事じゃないし話すか。
「そうですね。俺と涼香が出会ったのは……」
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