ドラゴンの介護福祉士
ゆあん
第一章 ドラゴンとわたし
私がドラゴンの介護士福祉士になったワケ
第1話 呆気なく死亡。そして異世界へ
嫌な予感はしていた。利用者の林さんが「タバコを吸いたい」と言い出した時点で。
私が務める施設では敷地内の喫煙が原則禁止されているのだが、長年のヘビースモーカーにとってそれは地獄にも等しいらしい。
この林さん、身長180センチ体重90キロオーバーと巨体な上、膝に人工関節、歩行介助が必要、糖尿病、そして適度な認知症に加えてアルコールとニコチン依存症だ。奥様は既に亡く、娘夫婦の依頼で本施設に定期利用しているのだが、
「うるせぇ! 黙ってタバコの一つも吸わせろい! そしたら落ち着くってんだからよ!」
と、一度火が付くと止められないのだ。
施設内エレベーターの点検作業が長引いており、既に二時間。林さんが主張を始めたのは作業開始とほぼ同時で、この押し問答はその間ずっと続いていた。そこに人のいい若い男性職員がいれば、「じゃあ階段で行きましょう」となる訳である。屋上は唯一、喫煙が認められていた。
俺なら大丈夫っすよ、力あるから。
そう言う男性職員とパートのおばさん職員が林さんに肩を貸しながら向かった時、私は不安になり、その動向を見守った。平面の歩行なら手すりさえあれば一人介助も容易だが、こと階段となると話は別で、本人にしても介助するほうにしてもかなりの力が必要になる。正直、やせ細ったおばさんでは力不足だ。
案の定、スムーズとはいかなかった。途中からは私が林さんのお尻を押す形で進むことになった。登り始めてしまったら途中では引き返せない。帰りには点検作業が終わっている事を願った。
さて残り数段という所、林さんが急にくしゃみをした。途端、膝が抜けるように折れ、階段を踏み外した。林さんの巨体は後ろ側に傾いていき、
「あ」
そう思った頃には、私の顔面に林さんの禿げ上がった頭が命中していた。誰かが私の名前を呼んだ気がした。
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