第37話 猫人族トーダちゃん登場
異世界生活始まって以来の危機が私に訪れていた。
「ぬあーーー! もう無理っ! ガッ!」
私は湧き上がるストレスに耐えきれなくなって雄叫びをあげ、両手を広げて大地に仰向けになった。空はどこまでも澄み渡って、気候はこの上なく快適だ。にも関わらずこんなにイライラさせられるのには訳があった。
「私才能ないなー。知ってたけど」
首だけ少しあげて谷間から足元を見る。そこには今しがた組み立てていた木材が見るも無残に倒壊した跡があった。この戦いも既に半日。集中力の無い私は既に投げやりの域を通り越して諦めに至っている。
私が挑んでいるのは冷蔵庫の制作だ。
「せっかく精霊石があるのに……」
イルさんに協力してもらってまで手に入れた氷の精霊石。思惑通りいつまでも冷たいその塊だが、肝心の箱が作れないのでは物を冷やすに至らない。こんな所で挫折するとは計算外だ。というか計算から抜けていたのがそもそも問題だった。
「なんとかしないとなー。しっかし、空は青いなー……」
イルさんは職責を優先し、気まずい元カノに頭を下げてくれたのだ。その誠意に答えなければ。
「アカネさん」
「わっ」
突然上から覗き込んできたのはアッテリアだ。キレイなお目々がこちらを見ている。
「苦戦しているようですね」
「うん、そうなの。私って、工作の才能全く無いのよね」
図画工作、ならびに美術は私の最も不得意な教科で、赤点を取ったことすらある。友達の横顔を真剣にデッサンしたら泣かれたことがあり、それ以来人の顔は描かない事にしている。
「そうだろうと思って、助っ人を呼んできましたよ」
「助っ人?」
「そうです、こちらの方です」
私は半身体を起こしてアッテリアの促す方を見た。そこに立っている人の姿を見て、私は思わず飛び上がった。
そこいたのは超絶美男子だった。それも若い。顔立ちはアイドルグループでセンターを張れるくらい中性的で可愛い感じだ。身長はすらっと高く、線が細い感じがまた良い。そして頭髪はさらっと長く、頭の上には耳がついて……
耳!?
「お、おう。俺の名前はトーダだ。よ、よろ、よろしくな。なんだよ、恥ずかしいからジロジロ見るんじゃねぇよっ」
トーダと呼ばれた美青年の頭には猫にそっくりな真っ白でふっさふさの耳が生えていた。よく見ると手足もふかふかで、長くてくるっと巻かれた尻尾まで生えている。その体躯をTシャツとオーバーオールで包み、鼻を指で擦りながらとにかく照れまくっている。
想像してみてほしい。アイドル美青年が猫耳をつけている姿を。
「トーダちゃんはこの山の
トーダの肩がけバッグは体躯に不釣合いな程大きく、いろんな工具が入っているのが想像出来た。外付けポケットからはトンカチのような物が半分見切れている。
「ば、ばっかやろう! 俺をちゃん付けで呼ぶんじゃねぇ! これでももう大人なんだぞ! アッテリアのばか! この年増!」
「……って感じで大変照れ屋ちゃんなんです」
アッテリアに年増と言ったのはこいつか。
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「ふーん、なるほどな」
トーダは氷の精霊石の前でしゃがみこんで私の説明を聞いていた。
「しかし姉ちゃん、あんた才能ないな。よくもまぁあんなゴミばっかり作れるよな。もったいないぜ」
「……それは自覚してる」
どうやら私は姉ちゃん呼ばわりらしい。最初はおどおどしててミスマッチ具合がなんとも言えなかったが、慣れてくると急に態度がでかくなった。猫耳を生やしたイケメンがヤンキー座りをして尻尾をくるくる動かしているという絵面はとてもシュールだ。
「ま、なんとかなんだろ。俺に任せな」
そう言うと指を払って「シッシッ」とされた。見た目は可愛いのに性格が全然可愛くない。しかし工作の才能が無く役に立てていないのは事実なので大人しく引き下がる事にした。
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アッテリア自家製のピーラの実コーヒーを飲んでいたら、額に美しい汗をかいたトーダが部屋に入ってきた。
「できたぜ」
「え? もう出来たの?」
「俺様にかかればこんなもんさ。ついてきな」
そういって猫の手で手招きする。本当、顔だけは絵になるくらいキレイなのに……。
庭に出ると、私くらいの高さの立派な箱が出来上がっていた。奥行きが長い棚と言ったほうがいいだろう。あの資材でこれほどの物ができるとは思わなかった。
「すごーい!」
一人暮らし用冷蔵庫が木製で作られた感じだ。扉は上下二つに分かれていて、開けると間仕切り板のようなもので棚がつくられている。一番奥には精霊石が置かれており、その冷気が早くもその中を満たしている。
「ちゃんと冷えてる!」
私とアッテリアのリアクションにご満悦そうなトーダちゃん。
「ああ。まず冷気ってのは下に落ちるものなんだよ。だから精霊石を一番上に配して、その降下していく冷気による気流が箱を満たせるように、空気の流れ道を作ってやる必要があった、そのためにこの棚には……って聞けよ!!」
キマったポージングで熱弁する彼をよそに、私とアッテリアは早速小瓶やら酒樽などを詰めてわーきゃーやっていた。これは本格的に使えそうだ!
「そんなこと言われてもわかんないもん、私。冷える、便利、それでいいじゃん。でも凄いね! トーダちゃん凄い!」
「ば、ちゃん付けするなって言ってるだろ! これだから女は! このペチャパイ!」
「なんだと? 言ってくれたね! 私の乳はね、ちっさいんじゃないんだよ! 控えめなんだよ! 張りだって手触りだって最高なんだから!」
「は、張り? 手触り?」
トーダは途端に顔を真っ赤にさせて、沸騰したみたいになっている。ふ、これだからお坊ちゃまは。
「これの良さがわからないなんて、やっぱりトーダちゃんはまだお子様だね。ちゃん付けで十分!」
私が、ねー、っとアッテリアに振ると、彼女もねーと言ってきた。
「アッテリアまで! 裏切り者! この年増!」
その瞬間、鬼のような形相になったアッテリアが素晴らしいフォームで駆け出した。トーダは一瞬の内に身を翻し、猫走りで
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