車椅子大作戦!
第53話 ドラゴンの決起集会
異様な光景だった。
洞穴内は東京ドーム程もありそうな広大な空間だが、ドラゴン数匹が詰め込まれると圧迫感が半端じゃない。その足元には灰色の毛皮の生き物がひしめき合っており、文字通り、足の踏み場も無い。
しかし中央の台座の上だけはすっきりしていて、そんな場所の中央に、私は立っていた。
「……そのためにはこうしてあーして……」
灰色の毛皮の正体は
「……作戦は以上です」
狼男たちは人間の言葉が判るらしく、話すこともできるらしい。しかし私が発表を終えても彼らはずっと黙っていた。彼らは自分の筋肉を自慢するかのように胸を突き出し、腕を後ろで組んでぴくりとも動かないのだ。
「あ、えっとぉ………」
私はたじろいだ。さすがにここまで
『集いし同胞達よ。我が父の最後の願いの為、その力を貸してくれぬか』
その言葉に続いた静寂は、ほんの数秒だった。
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
そして突然、洞窟内は割れんばかりの雄叫びで包まれた。
「え!? なになに!?」
狼男達が一斉に雄叫びを上げたのだった。皆思い思いに気合を入れており、ガッツポーズを取ったりボディビルダーのように筋肉を締めてみたり、なぜか隣と殴り合っているヤツまで現れている。先程までの静寂が嘘みたいだ。
『いいかいあんた達! これはアキマサじじの最後の仕事だよ! その生命に変えてもきっちりやり通しな! じゃないとこのトシコが許さないからね! 心しておきな!』
ヒロノブさんに続く気合の入ったキレイな声の持ち主はトシコさんだった。狼男達は増々盛り上がり、「アネサン!最高だ!」「一生ついていきやす!」と絶叫している連中もいる。
『わかったらさっさとしな! もたもたしてると食いちぎるからね!』
トシコの
『よーうお嬢さん。久し振りぃ、元気だったか』
その声に振り返ると、洞穴を抜けていく狼男達の群れの上を悠然と飛び越えてくる巨大な黒いドラゴンの姿があった。
「ウルさん!」
そこにはウル・キャピタンの姿があった。黒光りする立派な体躯を巧みに操り、殆ど無音で着地する。相変わらず飛行の滑らかさが抜群だった。
「お久しぶり、ウルさん」
『わりぃな、うちの面倒事に巻き込んじまって。お嬢さんも親父のことで大変だろうにさ』
「ううん、いいの。私がやるって決めたから。ウルさんも元気だった?」
『おうよ、この通りよ。最近はちょっとガキの面倒で疲れてはいたが、べっぴんさんに会えたおかげで活力が湧いてきたぜ』
ウルさんはトシコさんの旦那さんで、私が仕えるエルさんの次男だ。相変わらずチャラいようで、私に向かって半目を閉じている。なんだか憎めない人だ。
「なんか、色々凄いね。トシコさんとか……家庭環境とか」
『驚いたろ? トシコの一族はこの山周辺の狼男達を取り仕切ってるんだ。なんでも随分昔からの協力関係ってヤツみたいでよ、中でもトシコは熱狂的な支持を集めてるんだよ。ほら、あいついかにも強そうだしな』
「ああー……」
ふとウルさんの背中を見ると、あの日トシコさんに食らわされた一撃の傷が未だに癒えていないようだった。
「ウルさんも大変だね」
『まったくだぜ。親父さんもあの通り強面だし、肩身がせまくてせまくて。全く騙されたぜ』
「結婚するまで知らなかったの?」
『しらねぇよ。あいつったら、出会った時はそれはそれはお
「あんまり悪口言ってると聞こえちゃうよ」
『おっとそれはまずい、今のは内緒な!』
そう言って牙をひんむいていた。いつの間にか笑っていた私だが、それがウルさんの優しさだと気が付いてハッとする。私の緊張をほぐすためにわざとくだけた話題を振ってくれていたのだ。
「ありがとね、ウルさん」
『ん? なんのこと言ってんのかわかんねぇな』
「ふふ、損な性格だね。ところでウルさんがここに来たってことは、ウルさんも手伝ってくれるの?」
今回の作戦は非常に大規模なものとなる。失敗は許されないだけに、事前準備から作戦決行も含めてかなりの作業が必要となる。その内容をトシコさんとヒロノブさんに伝えた所、大勢の狼男を働き手として呼び集めてくれたのだ。そんな彼らに作業内容の説明をするのもやはり立案者からの方が良いだろうということで、私は出会ったばかりの狼男達の前で演説をしていたという訳だ。さすがの私でも緊張した。
『おうよ。トシコから聞いて直ぐに動いたぜ。お前さんに直接見てもらうのが一番だと思ってな、ちょっくらついて来てくれや』
そう言いながらウルさんは慣れた所作で翼を地面に垂らし、私が背中に乗るのを促してくる。かくいう私も慣れたもので、その背中へと遠慮せずに跨る。相手が女慣れしているとこちらが下手に気を遣わなくていい、というのを残念ながら私はドラゴン相手に知ったのだった。
ウルさんは空中を滑るように洞穴を抜けると、
『どうよ、これで』
「おおー! これこれ!」
そこにはまさに今回の作戦の肝となるものがあったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます