概要
辺境の北方部族の姫君レツィンは、活発で武芸に秀でた娘。
彼女は部族と「烏翠(うすい)」国との盟約により、国都の瑞慶府(ずいけいふ)に送られる。そして、預けられた王族の邸で、一人の若者・趙敏(ちょうびん)との運命的な出会いを果たすが、彼はなぜかレツィンに敵意を持っていた。一方、暴政の嵐は少年少女を容赦なく巻き込んでいき――。
異郷の地で勇気と友情をもって生き抜き、国運をも左右する少女を描く中華風ファンタジー。
2017年6月23日完結。
外伝『還魂記』と『戦場を渡る蝶』『古歌』も合わせてご一読ください。
〔注記〕「小説家になろう」「マグネット!」との重複連載です。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!大河ファンタジーとしても恋愛物としても楽しめる、読んで二度おいしい作品
最近の少女小説界隈で流行りの「中華モノ」というと、後宮という閉じた空間内で完結する話が多いイメージですが、本作は冒頭の口上にある神話から周辺諸国との関係性まできちんと設定が練りこまれていて、中華の壮大な世界観に浸ることができます。
また、ラゴから光山府へ、光山府から瑞慶宮へと舞台が移り変わる中で、繰り広げられるドラマは大陸の時代劇さながら。
他の方のレビューでも「読む中国ドラマ」とありましたが、まさにその通りだと思います。
加えて、この作品もう一つの魅力がキャラクター。
自由奔放で酒癖は悪いが人情に厚い柳承徳、不器用ながらも優しさを見せてくれる趙敏、そして物腰が柔らかく腹黒そうに見えるけ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!リバレーション!
まず申し上げよう。
自分が心の中に飼っている、単純極まりない作りの「少年漫画」脳は、ラストまでを読み、叫んだ。「なんじゃこりゃー!」と。そしてそれは、またたく間に後宮物語脳、歴史脳が塗りつぶしていく。どころか、「これですよこれ! 宿命からの解放! リバレーション!」と快哉を叫びさえする。そんな物語である。(どんなだ)
中国史に通暁なされている著者の筆であるから、フィクションノベルの世界でありつつも、そこには確かな「歴史」の息遣いがある。ラゴと烏翠、利害が噛みあうような、行き違うような、な両陣営。白でも、黒でもない。グレーな重なり合い。主人公のレツィンはグレーゾーンそのもの、まさしく生きる…続きを読む - ★★★ Excellent!!!神様! 私の願いを叶えて、みたいな少女物語。ベースは恋愛物。
本作品は、異世界ファンタジーに分類されてますが、歴史・伝奇ジャンルで私が読んだ矢弦陸宏氏の「蒼海のライジングサン」、芝原岳彦氏の「ガレオン船と茶色い奴隷」に作品の雰囲気が似てます。
あっ! 異世界ファンタジーの条件は満たしてますよ。私自身が、年老いた所以か、歴史モノに食指を動かし易く、そんな人間にも楽しめる、と伝えたかっただけです。
出だしに登場する占い老婆がヒロインに未来を預言し、その通りに物語は帰着するのですが、「預言に挙がったアイツは誰?」と予想しながら読み進める点は少女モノの王道。(男の私も楽しめました)
場面々々の描写が凄く丁寧です。作中の世界観は、森薫先生のコミック「乙嫁語り」に…続きを読む - ★★★ Excellent!!!あ~~今夜も、弦朗君に逢いたくなる…
序の<まず口上を一つ>で書かれた女神と男神の話が、本作『翠浪の白馬、蒼穹の真珠』を通しての隠し味となっていて、作中のところどころで真珠・毬・扇が出てきます。読者はそのつど、物語りの中にぐいっと力強く引き込まれる思いがすることでしょう。
そして最後に、再び女神と男神に再開し、「そうなったのか!」と思わず叫んで、読後のカタルシスへと導かれるは必定です。
これは先に読んだ『涼国賢妃伝~路傍の花でも、花は花~』の艶本の扱いに通じるところがあって、作者の結城かおるさんはほんとうに、<物語りを紡ぐ>のがお好きなのだなと感じ入り、読者はその巧さにただただ身を任せるしかありません。
登場人物3…続きを読む - ★★★ Excellent!!!壮大な大河ファンタジーの始まりは、甘酸っぱく切ない
作者の手がける「烏翠」シリーズ最初の長編です。といっても、どれから読んでも楽しめるように書かれているので大丈夫です。でも、初めての方、他の作品読んだよ、という方には、是非是非、これは読んでいて欲しいのです。
「烏翠」シリーズは中国をモデルにした架空世界です。中国をモデルに、ということは、中華と夷狄という区分があり、「烏翠国」は中華にあたる文明国です。一方、ヒロインのレツィンは「夷狄」にあたるラゴ族の少女で、「他者」として烏翠を見ていることから、この世界の持つ奥行きがよく見えてくる構図になっています。
いや、別に、そんなに面倒なことは考えなくてもいいのです。
レツィンは聡明ながら、とても…続きを読む - ★★★ Excellent!!!異国の地で、娘は、彼女の運命と遭遇する――
北方のラゴ族の長の妹レツィンは、隣国・烏翠との盟約に基づき入宮することになった。まず光山府に入って宮廷作法などを習うことになったレツィンだが、烏翠の都に入ったとたん、この国で起きている血なまぐさい政情の一端を目にしてしまう。
『ラゴ族の狩りでは獣の血の匂いがするが、烏翠の狩りでは人の血が匂うーー。』
占い師の老婆の言葉を胸に。光山府で暮らし始めたレツィンの前に現れる、彼女の運命とは。
中華風の文化をもつ烏翠の国の様子も魅力的ですが、辺境の異民族である活発なレツィンが、とにかく可愛らしいです。
異文化交流だけでなく、神話、政治、恋愛に活劇も含んだ壮大なストーリーは、きっと読者を満足させて…続きを読む - ★★★ Excellent!!!適度な甘さが心地良い
恋愛がメインの一つにある小説というと、過度にアマアマベタベタな場面に私は辟易することがある。
ですがこの作品では情景的にも心情的にも適度・適切という言葉が相応しい内容でした。
それは世界観や主人公レツィンの性格も影響してるでしょうが、それ以上に作者さんの語彙選択の妙を感じました。しっかりと考えられた語彙で、丁寧に描写されている。
そのおかげで安心して主人公の心情に気持ちを重ねられる。
また、ページ辺りの文字数でも読者への気遣いが感じられました。
個人的にはコミックやアニメで観たい。きっとビジュアル的にも素敵な作品になる。そう確信できる作品です。 - ★★★ Excellent!!!骨太で冷徹な史観なくして、こんなに魅力的な中華風ファンタジーは描けない
仮に、華朝の正史における烏翠伝を紐解くならば、この物語は、
安陽公主による芝居がかった策謀の一端と記されるのだろうか。
武官の父が粛清され、自身は布衣へ落とされた趙某の顛末など、
わずか数十字で著され、蠹蝕の間に埋もれてしまうのだろうが。
山間のラゴ族の姫君レツィンは、隣国の烏翠との盟約に従い、
かの国の都に赴いて、女官として王宮に仕えることとなった。
初年は年若い王族の邸宅に勤めて女官の仕事と礼儀作法を覚え、
翌年からは、おそらく一生涯の王宮出仕、籠の鳥となるだろう。
明るく利発で武芸に優れるレツィンは威勢がよすぎるけれど、
主君の弦朗君に見守られ、時に叱咤されながら成長していく。
官…続きを読む