第4話 官服の少年
「光山」とは直系王族を表す称号すなわち「
だが父の玉泉君は弦朗君が十三歳のときに没し、ごく若くして山号を継いだ弦朗君は、祖母である
弦朗君がレツィン等を伴い、帰邸すべく王宮を出ようとしたとき、馬を引いて近づいてきた若者がいる。浅葱色の官服に身を包み、やや小柄だが垢ぬけた雰囲気の、はしっこそうな眼と、鋭角的な
「こんなときに出迎えご苦労だね。……レツィン、この子は
「そんな紹介の仕方はやめてくださいよ、長々としていて、しかも恥ずかしい」
無礼にもふくれっ面で上司の言葉を
「こちらの方は?もしかしてラゴ族の?」
レツィンが自己紹介して頭を下げたところ、承徳は「ふうん」と軽い声を出した。
「…『あいつ』が果たして何ということやら」
――あいつ?
首をひねるレツィンをよそに、承徳は調子をがらりと変えて弦朗君に問いただした。まるで青天が
「それで――
弦朗君も部下につられたのか、顔に一筋の影が落ちた。静かな声音に苦さと悲しみが込められているように、レツィンは思った。
「…この子が太妃様の御前で鎮魂の舞を舞った。それが私の答えだ」
その言葉を聞くが早いが、承徳は上司の馬の手綱を放り出し、王宮の正門に向かって駆け出していた。その背後から弦朗君の声が追いかける。
「これ!王宮でそんなに早く走ってはいけないよ!…東の市に行くのはいいが、夜は私のところに顔を出しなさい。…」
言うことをまるで聞かぬ部下の後ろ姿を見送り、弦朗君はふうっと大きく息をついた。
「……柳の坊ちゃまも気の毒に。せめて鄭のお嬢様とお会いできると良いけれども」
そう言ったトルグも眉間に皺を寄せている。
「トルグ、もしかして処刑に行き会ったか?」
「ええ、サウレリ坊ちゃまとレツィンお嬢さんを王宮にお連れするときに」
「そうか――」
弦朗君はレツィンに対し、悲しそうな笑顔を浮かべた。
「この国、この都に着いて初めて目にするのがそのようなものだったとは、何とも気の毒だね。びっくりしただろう」
「いえ……ええ、とても」レツィンは正直に答えた。
「処刑の場に、女の子がいたろう?いや、実は私もその子には会ったことがないのだが、鄭要明の娘で、承徳の幼馴染だそうだ。柳家と、このたび粛清された鄭家は交誼があったはずだが、承徳も哀れな――」
「…あの女の子はどうなるんですか?」
レツィンは父親の死骸の前で呆然と座っていた少女を思い出しながら、遠慮がちに問うたが、弦朗君は首を横に振るだけだった。単にわからぬだけか、正確にその行く末を予測できるがゆえか――。
だが、レツィンの新しい主君は気を取り直したのか口元に微笑みが戻り、レツィンの肩口をぽんぽんと叩いた。
「さあ、このようなところで時間をつぶしていても仕方がない。一刻も早く帰ってそなたの旅の埃を落とし、夕餉にしよう。果たして烏翠の食はラゴの客人たちの口に合うかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます