第5話 『まだ15歳。色々卒業した』


 ソフィアとムフフな夜を過ごした翌朝。


 俺は色々な意味ですっきりした気分で冒険者ギルドへと向った。


 で。色々と予定とは違ったがギルドに丁度居合わせたクランクの奴に近寄って行った。


「よぉ兄弟。元気か?」


「は?」


 俺から声を掛けられた事も意外なら掛けられた言葉も意味不明だったのでクランクは当然のように困惑した。


「俺は今、自分でもビックリするくらい機嫌が良い」


「…酔っぱらってんのか?」


「いやいや。予想していた100倍以上良い女だったよ。ソフィアちゃん」


「っ!」


 当然のようにクランクの顔色が変わる。


「ハッタリはよせ。あの女は俺が予約済みだ。お前みたいなガキが支払える額じゃ…」


「あんな良い女に銀貨6枚とかせこい事言うなよ。俺は余裕で銀貨10枚払ったぜ」


「……」


 クランクから一瞬で表情が抜け落ちた。


「誰に喧嘩を売っているのか分かっているのか?」


「ギルド内で暴力沙汰を起こせば追放もありえるぜ。万年C級の慎重派のクランクさんよ。ギルドを追放されて唯でさえ少ない予約金を払える当てはあるのかい?」


「……」


 どうやらクランクはソフィアに対して相当『本気』だったらしい。


 まぁ、あれほどの女なのだから分からないでもないが、視線で射殺せそうなくらい怖い目で睨まれるのは初めての経験だった。


 昨日から『初めて』が多いね。






 クランクといざこざを終えて俺は定位置の席に付く。


 クランクに対して完全に喧嘩を売ってしまった形になったが、俺にはこの王都の中に『守らなければいけない対象』など存在しない。


 敢えて言うならば俺自身の防衛を優先しなくてはいけないが、それは今更どうこう言う話でもない。


 つまり、どんな嫌がらせを受けようとたいして痛くないという事だ。


「~♪」


「…ご機嫌だ」


 鼻歌交じりに昨夜のソフィアの痴態を思い出していたら思いっきり水を差された。


 いつの間にか例の女職員が俺の傍に立っていた。


「…なんだよ?」


「君はクランクを舐めている。確かにクランクは万年C級と言われているけれど、それでもC級になれるだけの実力はあるという事。いつまでもF級に居る君とでは相手にならない」


「俺がその気になったら、いつでもB級になれるって言ったら信じるか?」


「いいえ。まったく」


「つか。冒険者ギルドのランクなんて結局は唯の目安だろ?長年C級に居る奴はC級相当の実力があるのかもしれないがF級になったばかりの俺にF級相当の実力しかないと誰が証明出来るんだ?」


「私」


「おうふ。お前に俺の全てを理解されたつもりになられていたのかと思うと半端ない脱力感が襲ってくるわ」


「体つきや身のこなしを見れば大体の強さは分かる」


「魔法使いの体つきや身のこなしを見た事あんのかよ」


「使える魔法の種類を考慮すれば大体の修正は出来る。君がクランクに勝つ事はほぼ不可能」


「俺が使える魔法の種類を知らないのに勝手に勝率を出せる自信は何処から来るのやら」


「どんな魔法を使える?」


「こう見えて実は世界一の魔法使いだ」


「初級の火魔法を使えると考慮しても勝率は7%前後。やっぱり君に勝ち目はない」


「7%前後の勝率があるのに『勝ち目はない』って文法的におかしくね?」


 そう指摘したら何故か物凄く白い目で俺を睨んできた。


「成功率7%の依頼を受ける冒険者は唯の馬鹿。大抵そういうのから死んでいく」


「7%って計算したのはお前だし、俺は単純に文法ミスを指摘しただけなんだが?」


「人の揚げ足を取ったり、細かい事を気にする者は冒険者として大成出来ない」


「どういう統計でデータを集めて集計したのか詳しく知りたいからレポートにして提出して貰いたいね」


「私は仕事で忙しい」


「だったら仕事しろ」


「……」


 女職員は無言で去っていった。


 あ。あの女の名前を確認するの忘れてた。






 昼まで待ってみても今日も美少女の募集は来なかったのでソフィアの居る娼館に行ってみる事にした。


「おや。昼間からとはお盛んだね」


「ソフィアを身請けする為の条件ってなんだ?」


 からかってくる娼館の女主人に対して俺は聞きたい事を聞いてみた。


「1回しか抱いてないのに、そんなに気に入ったのかい?」


「ああ。かなり気に入った」


「…まぁ良いけどね」


 何故か嘆息された。


「ソフィアの身請けの条件だったね。ソフィア自身はもう借金の返済は終わっているしソフィア自身が同意すれば身請けは成立するよ。身請けの金額は一律金貨1枚だ」


「安くね?」


 金貨1枚は世間的に言えば大金だが、女1人に対しての金額としては安すぎる。


 日本円で言えば100万円で女1人を丸々買えてしまう訳だから。


「言っただろう?ソフィアが『同意』すればの話だよ」


「ああ。同意しなかった場合の条件もある訳か」


「そういう事だね。娼婦側が同意しなかった場合の条件として、その娘の器量によって値段が変わる。ソフィアの場合だったら金貨20枚ってところだね」


「高っ」


 王立魔法学院の入学金と同額なんですけど。


「で。どうするんだい?」


「何が?」


「ソフィアを身請けするのかい?」


「流石に金貨20枚は出せないな」


 恐らくクランクも同じ条件を突きつけられて身請け出来なかったってところだろう。


「だから…」


 俺は財布から出した金貨1枚を指でピーンと弾いて女主人に投げ渡す。


「とりあえず預けておく」


「ソフィアが同意しなかった時はどうするんだい?」


「予約金にしておいてくれ。気に入ったのは事実だからな」


「…ソフィアを手に入れたい本当の理由はなんだい?」


「クランクって野朗が気に入らないから、奴の惚れた女を奪い取って悔しがらせてやりたいだけだ」


「くっくっく。最低な理由だね」


 最低と言いながら何故か楽しそうに笑う女主人。


「だが私は気に入ったよ。少なくともクランクの『女を幸せにしてやりたい』なんて上辺だけの理由よりは本音っぽいからね」


「うわぁ。胡散臭ぇ~理由」


「まぁ、あんたの本音でソフィアの心が動くかは知らないが一応話は通しておくよ」


「よろしく♪」


 とりあえず用件はそれだけなので昼飯でも食ってから冒険者ギルドに戻る事にした。




 ★




 クランクに喧嘩を売って3日ほどが経過した。


 しかし何故かクランクはアレから姿を見せていない。


 何を企んでいるのか、それとも何も企んでいないのか――どうでも良いけど今日も美少女が募集してくる事はなく日は過ぎていく。


 今日の夕食は何にしようかと考えながら冒険者ギルドを出て――異様な雰囲気のクランクが俺を待ち構えていた。


「…お前か?」


「は?」


「お前が…ソフィアを予約しやがったのかぁっっ!!」


 そしていきなり吼えた。


「どうでも良いけど近所迷惑だから叫ぶのは勘弁して欲しい」


 別に俺に苦情が来る訳ではないが一緒に居て同類と思われるのは嫌だ。


「渡さなねぇ」


「……」


「ソフィアは絶対に渡さねぇからなぁっ!!」


 再度叫んでクランクは走り去っていった。


「あんなに激昂してても直接殴りかかっては来ないんだな」


 流石万年C級の慎重派。


 格下だと思っている相手でも直接対決は避けてきた。






 泊まっている宿に戻ったら娼館から呼び出しの手紙が来ていた。


 なんとなく今日のクランクの様子から用件を察したので引き返して娼館へと向かう事にした。






「クランクの奴、相当追い詰められてなんだか危ない感じがしたんだよ」


「ソフィアを俺が予約したからってのも1つの理由かもな」


「どっちにしろ、あんな状態の奴の相手をさせる気はないよ。ここは女のサービスを提供する場であって、女に暴行を許す場じゃないからね」


 女主人の目から見ても今のクランクは暴走しているようにしか見えなかったらしい。


「で。ソフィアとも話し合ったんだが場当たり的判断になるが、あんたに身請けして貰う方が安全って事になってね」


「うおい。俺はクランクからの避難所じゃねぇぞ」


「棚ぼたでソフィアが手に入るんだから良いじゃないか。別に後から返せとは言わないよ」


「まぁ貰えるなら貰うけど」


 女主人とそんな話をしていると手提げ鞄1つ持ったソフィアが姿を現す。


「えっと。よろしくお願いします…旦那様」


「…旦那様?」


「娼館から身請けされた女は奴隷じゃないけど一般人にも戻れないからね。奴隷の制約ほど強い戒めじゃないけど魔法の契約をする事になっているんだよ」


「契約ってどんな?」


「『擬似夫婦の契約』さ。正式な夫婦ではないけど契約した男以外に抱かれる事が出来なくなる制約を課せられる」


「ほぉ~」


 適当に頷いておくとソフィアは少しだけ不安そうに俺を見ていた。


 まぁ俺とソフィアって一晩一緒に居ただけの関係だし、いきなり身請けと言われても不安が先に立ってしまうのだろう。


「それじゃ契約の儀式を開始するよ」


「は、はい」


 幾分緊張したソフィアの返事。


 それから俺とソフィアを繋ぐ契約の儀式を施され俺はソフィアを身請けした。






 契約を終えてソフィアを連れて宿に戻る。


 2人で泊まる事になったのだからベッドの大きいダブルの部屋へと移る事にした。


 この部屋は小さいながらもお風呂が付いている事が特徴だ。


「あ、あの…よろしく…おねがいいたし…ます」


 部屋に入ったソフィアはガチガチに緊張していた。


 ここで落ち着けなんて言っても効果はない。


 今のソフィアに俺が出来る事があるとすれば…。


「さっき結んだ契約は『擬似夫婦の契約』って言うらしいな」


「え?あ、はい」


「まだ過ごした時間は短いし、夫婦と名目が付いていても所詮は擬似だ」


「……」


「でも、折角だから気持ちは追いついていなくても言葉にだけはしておく事にしよう」


「?」




「愛しているよ。ソフィア」




「っ!」


 言葉と同時に抱き締めるとソフィアは硬直して…。


「痛っ…!」


 それから何故か俺の肩に噛み付いてきた。


「…嘘つき」


 更に文句を言ってきた。


「全然っ!私の事なんてっ!愛していないくせにっ!」


「出会ったばっかりなんだから当たり前だろ」


「だったらっ…!なんでそんな事言うのっ!」


「良いじゃん。言いたかったんだよ」


「うぅっ!」


 ソフィアは唸って更に俺の肩に噛み付いてきて…。


「…ごめんなさい」


 急に弱々しい声で謝罪してソフィアに噛まれて血の滲んだ肩をペロペロと舐め始めた。


「私…本当は凄く不安でした。クランクさんが凄く怖くて…他に方法が無かったから身請けをお受けしましたけど…やっぱり凄く不安でした」


「そらそうだ」


「だから。嘘でも良いから…もう1回言って下さい」




「嘘じゃないさ。ソフィアを愛しているよ」




「…嘘つき♡」


 結局、文句は言ってきたけど今度は噛み付かずに抱きついてきた。


 俺もソフィアを抱き締めて、それから――新しい部屋の少し大きめのベッドの上に彼女を押し倒した。






「あ、あの…」


「ん?」


 事後。何故かソフィアはオドオドと俺に話し掛けてきた。


 最中は結構大胆に喘いでいたのに事後になった途端に恥ずかしがるのは結構そそられてグッドだ。


「こ、こんな事を言うと私がおかしいって思われるかもしれませんけど…」


「ん?」


「もっと…しても良いんですよ?」


「……」


「娼館で…男の人とする時は唯、我慢しているだけの時間だったのですが旦那様とするのは凄く…気持ち良い…です。だから…」


「もっと『しても良い』じゃなくて、もっと『して欲しい』って言われた方が俺は嬉しいなぁ~」


「~~~っ!」


 ソフィアが顔を真っ赤にして俺にしがみ付いてくる。


 やばい。可愛い。マジで惚れそう。


 あ。別に惚れても問題ないんだった。


「もっと…し、して…ください。旦那様♡」


「っ!」


 そして俺はソフィアの『おねだり』に理性を手放してソフィアを沢山可愛がる事にした。




 ★




「さて。それじゃ始めるとするか」


 ソフィアと色々あって、その色々が一段落した後、俺は魔法の鞄から『宝珠』を取り出してベッドの上に置く。


「なんですか?これ」


 お風呂上りで色っぽさ増量中のソフィアが俺のシャツのみを着てベッドの上に座り込んでいるのは暴力的に理性を削られそうだが今は我慢。


 同時に明日はソフィアの着替えを色々買いに行こうと心に決める。


「魔法の適正を調べる為の宝珠だ。これに魔法力を流すと色が変わってどんな魔法に適正があるのかを調べられる」


「…え?」


 俺の言葉が飲み込めなかったのかソフィアはキョトンとしている。


「えっと。どうして旦那様がそんな物をお持ちなのですか?」


「俺、魔法使いだし」


「…え?」


 更に呆けるソフィア。


「えっと。旦那様は貴族様だったのですか?」


「いや。没落貴族で身分的には平民と変わんない」


「…どうやって魔法をお学びになったのですか?」


 俺が法に触れる方法で魔法を学んだのではないかと不安になっているのだろう。


 まぁ、どう考えても俺が魔法を学ぶのは不可能に思えるのだから仕方ない。


「王立魔法学院で学んだ」


 答えと同時に魔法学院の卒業プレートをソフィアに差し出す。


「わ。これ…知っています。魔法学院の卒業証明証ですよね?あれ?旦那様はお若く見えるけど18歳だったのですか?」


「いや。15歳だけど」


「???」


「魔法学院は2ヶ月で卒業してきた」


「…え?」


「歴代最速の卒業らしい。前の最速卒業者が1年11ヶ月だったから大幅に記録更新されたって結構騒がれた」


「は、はぁ」


 ソフィアがなんか『付いていけない』って感じで置いてけぼりになって理解するのを諦めたっぽい。


「だから俺は『正規の魔法使い』だし、そしてソフィアを弟子にして魔法を教える事にもなんら問題はない」


「え?」


 今度こそ本当に驚いたのかソフィアは目を丸くして驚いていた。


「魔法を…私に…教えてくださるの…ですか?」


「ああ」


「…本当に?」


「しつこい。それ以上聞いてくるならキスして黙らせるぞ」


「……」


 ソフィアは数秒沈黙してから…。




「本当ですか?本当ですか?本当ですか?本当ですか?本当…んぐっ!」




 キスして黙らせる事にした。


「んぅっ♡ちゅっ♡あんっ…♡」


 1回したら、なんかもう夢中でキスしてしまった。


「…魔法の適正を見るのは明日で良いか?」


「はい♡」


 宝珠は隅っこに避けて夢中になるのに身を任せる事にした。






 翌朝。


 ソフィアが宝珠に魔法力を流すと色が青に変わった。


「青は水の魔法に適正があるって事だな」


「旦那様は何の魔法に適正があるのですか?」


「俺は火の魔法適正だけど」


「…え?」


「ん?」


「えっと。私は水の魔法に適正があるのですよね?」


「ああ」


「そして旦那様は火の魔法に適正がおありで…」


「そうだな」


「どなたが私に水の魔法を教えてくれるのでしょうか?」


「俺だけど?」


「……」


 ちょっと説明不足だったのでソフィアを混乱させてしまった。


「王立魔法学院で俺は万に届く魔法書を読んできた。だから俺の頭の中には火の魔法だけじゃなくて水の魔法の知識も入っている。水の魔法を直接指導は出来ないかもしれないが魔法の知識を教える事は出来るから」


「…万に届くって、旦那様って2ヶ月で学院を卒業したんじゃありませんでしたっけ?」


「1ヶ月もあれば1万冊くらい読めるし」


「…そうですか」


 なんかソフィアが色々と諦めたらしかった。



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