第13話 『S級魔法士。ライバル(笑)さん退場』


 レギニア=フォーレストは現状に対して不満を持っていた。


「(どうしてこうなるんだ?)」


 彼を取り巻く現状は決して悪いものではない。


 冒険者の仲間達に恵まれ、王都の中にも沢山の知り合いが出来て、更に着実に望む強さを手に入れつつある。


 それなのに何が不満なのかというと…。


「(どうして俺には…女が居ないんだ?)」


 惚れた女2人に振られてしまった事が気に入らないといえば気に入らないのだ。






 そもそもレギニアとラルフとでは価値観や優先順位が異なる。


 レギニアが1番に求めるものが『強さ』だったとして、対してラルフが1番に求めるものは『女』だった。


 分かりやすく例えるならばレギニアは休日に家族と出掛ける約束をしていても会社から緊急の仕事が入ったと言われれば家族に謝りつつも仕事を優先させるタイプ。


 対してラルフは休日に仕事が入ったと言われても平気で仮病を使ってスルーして家族サービスを優先するタイプだ。


 更に言うとレギニアは会社の人間関係を大事にして同僚の仕事をフォローしたり、付き合いで飲みに行ったりするタイプ。


 ラルフは会社の人間とは最低限の付き合いに留め定時には真っ直ぐ家に帰るタイプ。


 どちらが早く出世するのかといえば当然レギニアの方になるのだが、どちらが家族との絆を大事にしているかといえば確実にラルフになる。


 レギニアから言わせて貰えば『自分が出世する事は家族の生活水準の向上に繋がり、結果として家族は幸せになれる』――と思っているタイプ。


 ラルフから言わせて貰えば『会社の人間なんて所詮は他人なのだから家族と居る時間を1秒でも長く確保する方が家族は幸せになれる』――と思っているタイプ。


 言ってみればレギニアの考えは『男の理屈』でラルフの考えは『女の理屈』となる。


 正確にはラルフは男なので『女の理屈を理解出来る男』という事になるのだが。


 本来であれば2人の考えは一長一短であり、一概にはどちらが正しいと言える事ではないのだけれど――ラルフの優秀さがその前提を覆す。


 確かに仕事に対する姿勢はレギニアの方が優れているのだけれど、それはあくまで『会社に勤める』という前提があっての話だ。


 ラルフが会社の人間関係よりも家族を優先する以上、会社に勤め続ける意味はない。


 ラルフは早々に会社を辞めて――起業する。


 起業して確実に成功させるだけの能力がラルフにはあるからだ。


 そして起業してから軌道に乗ってしまえば後は放置。


 何もしなくても自分のところに収入が入ってくるようにコントロールして生活を安定させ、その上で家族と居る時間を更に増やす。


 本来『一長一短』である筈の事が『一挙両得』になっている。


 2人が持つ残酷なほどの『能力の差』が2人の立場に明確な差を付けてしまった。






 これが現在レギニアが現状を不満に思っている事に対する真実。


 レギニアは冒険者ギルド内の人間関係が良好で、仕事に遣り甲斐を感じて、同年代より高い収入を得ている。


 本来なら、その現状は満足するべきもので不満を訴えるのは贅沢な話なのだが、ラルフという対抗馬が居て、ラルフと現在の自分を比較してしまうと不満を訴えるなというのは無理な話になる。


 綺麗な女性を妻に迎えていて、憧れの女騎士に忠誠を誓われ、冒険者ギルドの紅一点に世話を焼かれて、その上S級魔法士でSS級冒険者だ。


「(不公平だ)」


 レギニアがそう思ってしまうのも無理はないくらい2人には明確な差が存在した。




 ☆




 そもそもの話、レギニアは自分の『性質』という物を勘違いして理解出来ていなかった。


 ラルフがレギニアの事を自分と同じ転生者であると確信した時に感じた違和感――『魂の質』が高い人間にしてはスペックが平凡過ぎるという解釈は的を射ていた。


 そもそもレギニアは自分が何故『強くなりたい』という望みを持っているのか、その原因も理由も知らない。


 その根源はラルフが初めてレギニアを見たときに感じた『野生』にこそ原因がある。


 レギニアはそもそも前世の時点から勘違いしていた。


 強くなりたいと思っているのに『人間としての鍛錬』や『人間としての格闘術』を習得する事に努めてしまった。


 しかし彼の本質は『野生』。


 魂の命じるまま、本能の命じるまま、それこそ人間としての理性を捨て去って獣のように行動する事で本来の性能を発揮出来る。


 それなのに人間として生まれてしまった故に『理性』を持ってしまった。


 頭で考えて強くなりたいという欲求に従う為に『酷い遠回り』をしてしまった。


 型にはまった動き、的確な訓練指導が彼の本来持つ筈だったスペックを制限し、本来得られる筈だった『強さ』を大幅に減少させた。


 転生してからもそれは変わらず、1番の障害となったのが皮肉な事にレギニアが師と崇める老人による過酷な指導だった。


 老人によって『人間の格闘術』を体に叩き込まれる事はレギニアにとって前世以上に自分のスペックを狭める行為であり、未来への可能性を摘み取る行為だった。


 その『酷い遠回り』が老人の死によってやっと開放され、彼本来の野生へと道へと進み始めた時――ラルフと出会ってしまった。


 周囲から見れば『慢心』や『過信』であったとしても、それは『野生』への回帰の表れであり、彼本来の『正道』であった。


 けれどラルフに敗れた事によって、その『正道』が間違っていたと『勘違い』させられ、その上でギルド長の口車に乗って『実績や信用』などという本来の彼からすれば無用の産物を信奉してしまう事になる。


 結果として彼はまたも『酷い遠回り』をする事になってしまった。


 彼は自分の事を『強くなった』と思っているようだが、それはあくまで『人間としての強さ』であり彼が求めるべき強さとは別物だった。


 それまであった『本能と理性』の鬩ぎあいが『理性』が勝り始めた為により人間に近くなったと言っても良い。


 それは言ってみればF1用のレーシングマシンのエンジンをママチャリのカゴに突っ込んで全力でペダルを漕いでいるようなものだ。


 分かる奴から見れば『なんでそんな馬鹿な事してんの?』としか言いようのない才能の無駄遣いだった。




 ☆




 そんなレギニアは『その夜』不意に目覚めた。


 正確に言うとずっと眠れない時間を過ごし、ついに眠るのを諦めて身を起こしたというのが正解だった。


 その夜は何故か肌がざわめき、血の流れが異様に速く感じて目が冴えて全く眠気が訪れない。


 そんな状態で彼は泊まっている宿から外に出て――空を見上げた。


「ああ」


 その日は満月だった。


 真円を描く月の光を瞳の中に吸い込ませた彼は――唐突に覚醒した。


 レギニアは狼男でもなければ、どこぞの戦闘民族のように大猿になるような変身は出来ない。


 けれど満月の光は『本能』を刺激する。


 それによって『理性』寄りだった彼は一気に『本能』寄りに傾き、本来の性質である『野生』を取り戻していた。


 そして本能に従って行動を開始した。


「(…女。…女っ。…女っ!)」


 本能に従って女を求めて街を徘徊し始めた。






 本能寄りになった彼は『野生』の五感が大幅に強化され、周囲にいる女の匂いを的確に感じ取っていた。


 感じ取っていたのだが…。


「(…せめて初めてくらいは…)」


 前世も含めて今までずっと清い身体――端的に言って童貞だった彼は『初めての行為』に対して『特別』を求めた。


 即ち初めての相手は有象無象の女ではなく、彼が求める『最高の女』で卒業しようと思ったのだ。


「…ちっ!」


 しかし彼は女騎士セレーナの居場所を知らなかった。


 幾ら『野生の本能』に目覚めたとしても知らない事を知る事が出来るような超能力ではない。


 セレーナが何処に住んでいるのか知らなければ襲いに行く事も出来ないのだ。


 もっともセレーナは貴族のお嬢様なので当然のように貴族領に住んでいて、そしてバカみたいに警備が厳重な場所に居るので例え知っていたとしても会いに行くのは非常に困難だっただろうが。


 だから――もう1人の『最高の女』を求める事にした。


 幸いソフィアの住んでいる自宅の場所は知っている。


 そこには『邪魔な男』も存在する筈だが本能で行動する彼にとって妨げにもならなかった。






 女を求めて翔ける。


 身体が信じられないくらいに軽い。


 腹の底から力が無限に溢れてくるようだ。


「(俺は…無敵だ!)」


 昂揚は興奮へと変わり、一刻も早く女が欲しくて人間を超えた速度で翔ける。


『駆ける』のではなく『翔ける』ような速度であっという間にソフィアの住んでいる家の前に辿り着き…。


「こんな夜中に何か用か?」


「……」


 その家の前で『そいつ』は佇んでいた。


 なんとなく予感はしていた。


 ここに来れば『こいつ』と対峙する事になるのではないかと『本能』が警鐘を鳴らしていた。


 けれど実物を見て思う。


「(…こんな程度か?)」


 目の前の『オス』に対して驚異を感じない。


 奥に居るであろう『メス』のツガイとして、こいつは――釣り合っていない。


 レギニア=フォーレストは目の前の敵対者――ラルフ=エステーソンを前にしてまるで驚異を感じなかった。




 ★




「(やれやれ)」


 気だるい身体に鞭を打ってベッドから抜け出してきた俺は目の前に居る真紅の瞳を爛々とさせて、更に男のシンボルをギンギンに自己主張させている馬鹿を見て嘆息を禁じえない。


 丁度ソフィアとの2回戦を終わらせて気だるい雰囲気でまどろんで、もう少し休んだら3回戦に行こうと思っていたのに――とんだ邪魔が入った。


「(満月の光にでも触発されて本来の『性質』を取り戻したってところか)」


 なんとなく対峙する相手――レギニア=フォーレストの状態を推察してみる。


 確かに以前ほど平凡過ぎるって印象は受けないが…。


「(それでも中途半端だな)」


 完全に『魂の質』の高さを生かしきれているようには見えない。


 精々目覚めたばかりのヒヨッコってところだろう。


「(まぁ…丁度良いか)」


 俺は右手の人差し指を立てて、その先端に小さな炎を灯す。


「っ!」


 それと同時に目の前に居たレギニアの姿が消えた。


 恐らくではあるが、俺の行動に反応して俺の動体視力では捉えきれない速度で死角に回り込んだってところだろう。


 けれど俺は既に周囲に魔法力を薄く張り巡らせて『レーダー』を展開している訳で…。


「(丸見え)」


 指先に灯した炎から『圧縮された炎熱のレーザー』を発射する。


「ぎゃんっっ!」


 悲鳴と共に俺から必死に距離を取る奴の姿を目で捉える。


 右手で左腕を押さえているところを見るとレーザーは左腕を貫通したらしい。


 俺が考案したレーザーには3つの種類があり、今のは速さと貫通力に特化した『アトミック・レイ』と名付けた攻撃だ。


 2つ目は2段構えの範囲攻撃を可能とする『サークル・リッパー』。


 そして3つ目が…。


「(折角だから実験してみるか)」


 指先に灯した小さな炎から奴に向けてレーザーが発射される。


 それはさっきの物に比べて明らかに速度で劣り、貫通力も乏しく、熱量もあまり期待出来ない攻撃だったのだが…。




 ☆レギニア




「(くそっ!くそっ!くそっ!)」


 腕を焼き貫かれた激痛を誤魔化す為に必死に心の中で罵りの言葉を発し続ける。


「(油断したっ!甘くみていたっ!こいつの雰囲気に騙されて強さを見誤ったから前にも負けたってのにっ!)」


 学習しない自分の頭を克ち割りたい衝動を必死に堪えながら俺は奴が指先から撃ち出したレーザーのような物に驚異を感じていた。


「(ギルドで聞いた話によるとこいつは『火の魔法』を使う。って事はさっきのは炎をレーザーみたい細くして撃ち出してきたって事か)」


 流石に光速ほどには速くないと思うが――全く見えなければ同じ事だ。


 続いて奴が指先から撃ち出してきた熱閃に身構えるが…。


「(…見える?)」


 確かに速い攻撃だったが今の俺にとっては目で見て回避するのに余裕なくらいの速度でしかなかった。


「(さっきのは不意を討たれて焦っていただけか?)」


 熱閃を余裕で回避して少しだけ気分を落ち着ける。


 この程度の速度なら冷静になれば幾らでも回避出来…。


「ぎゃっ!」


 背後から襲われた『痛み』に悲鳴を上げて仰け反る。


「な…にっ…?」


 背中の痛みが『熱さ』だと気付いて回避した筈の熱閃を受けたのだと理解する。理解するが――どうして背後から熱閃が来る?


 必死に背後に視線を送るが何も無い。何も――否。


「(小鳥?)」


 そこには小さな鳥が飛んでいて僅かな違和感を与えてくる。


「戦闘中に余所見とは余裕だな」


「っ!」


 忠告のような声と同時に飛んでくる熱閃を再度回避する。


 回避して…。


「ぐぁっ!」


 また回避した筈の熱閃が別の方向から飛んできて熱さと痛さに顔を顰める。


「(…また小鳥)」


 だが分かってきた。


 奴が熱閃を放つ方向には必ず小鳥が居て、そして回避した後に別方向から熱閃が襲ってくる。


「(答えは恐らく…『鏡』のようなものだ)」


 あの小鳥は恐らく奴の使い魔のようなもので熱閃を反射して跳ね返す特性を持っている。


 そうであるなら小鳥の数と位置を確認して反射する角度を把握出来れば――勝てる!


「(1…2…3…4…5匹。小鳥は全部で5匹、今居る位置は…)」


 準備をしている内に再び奴から熱閃が放たれる。


 まだ完全に把握出来ていないが大体の予想の上で反射の角度からずれる位置を割り出して移動する。


 ここなら熱閃は跳ね返って来ない…。


「ぐあっ!」


 油断したところに背後から熱閃をくらい悲鳴を上げる…。


「(なんでっ…?)」


 背後を振り返ると――6匹目の小鳥の姿。


「(くそっ!見逃してたかっ!)」


 歯を食いしばって今度こそ6匹の小鳥と反射する角度を計算して、奴の放ってきた熱閃を回避する。


 今度こそ確実に熱閃は襲ってこな…。


「がっっ!」


 再び背後から熱閃を食らって混乱する。


「(7匹目は…居ない?)」


 小鳥は6匹しか居なくて今の位置には絶対に熱閃は来ない筈だったのに――なんで?




 ★




「(まぁまぁ上手くいっているかな)」


 3つ目のレーザーを定期的に奴に撃ちながら俺は実験の結果に及第点を出していく。


 実験としては3つ目のレーザーの性能実験も含まれるが、それ以外にも『魂の質』の高さによって発現した『本能的に動いている奴』に『人間的な行動を強制』させたらどうなるのかという実験も兼ねている。


 小鳥型の式紙を配置したのはその為で、奴は『本能』ではなく『理性』で考えながら行動していき――自覚はないだろうがドンドン動きが鈍くなっていった。


「(ふむ。こいつの特性は本能…というより『野生の勘』で動く事によって急激的な強さを得るって感じだったのかな?)」


 それとなく分析しながら俺は3つ目のレーザーを放つ。


「くぅっ!」


 奴はどうやら式紙が『鏡』の役目をしてレーザーを反射しているのではないか?と考えたようだ。


 まぁ、そういう風に俺が誘導したのだが、勿論そんな単純なカラクリじゃない。


 否。真実はもっと単純。




『ホーミング・レーザー』




 俺が魔法力でロックオンした箇所に命中するまで延々と標的を追尾する特性を持ったレーザーだ。


 奴の思考を誘導する為に式符を6枚も使って式紙を作った訳だが、そもそも鏡があったとして光じゃないんだから反射なんて出来る訳がない。


 出来たとしても高熱で溶かされて式紙じゃ不可能だ。


「くそぉっ!」


 破れかぶれになって『ホーミング・レーザー』を無視して俺に突撃を掛けてくるレギニア。


「(おいおい。無用心すぎだろ)」


 3つ目のレーザーである『ホーミング・レーザー』は確かに速度、貫通力、熱量共に『アトミック・レイ』にかなり劣るものだが、それ故に1度に出せる数はそれなりに多い。


「っ!」


 計14本のレーザーが1度に放たれた事にギョッとして奴の動きは止まり…。


「っっっ!!!」


 体中を焦がされて声も出せずに地面を転がりまわって苦しみに悶えた。


「ソフィアは俺の女だ。ソフィアに手を出そうとする奴には…容赦しない」


「ひぃっっ…!」


 攻撃ではなく俺の言葉に悲鳴を上げるレギニア。


 この事実は俺の攻撃に身体が怯え始めたというよりも――『心が折れた』と解釈しても構わないだろう。


「う、うあぁっっ!!」


 実際レギニアは直ぐに俺に背を向けて逃げ出した。


「さてと」


 俺が式紙に与えられる命令は3つまで。


 小鳥に『飛行』『視覚』『リンク』を与えて追い掛けさせるのも良いが、夜で視界が利きにくく奴を見失いかねない。


 だから小型で目だけ大きいワームを掴ませて追跡させる。


 ワームに与える命令は『視覚』『暗視』『同調』の3つ。


 暗闇を見通す目の情報を小鳥の式紙と同調して使わせる『能力増設用』の式紙という事だ。


「(レギニアの速度は…随分遅くなっているな)」


 体中をレーザーで焼かれた影響もあるだろうが『恐怖』に『野生』が負けて力が出なくなっているのだろう。


 これならワームを抱えた小鳥でも追いかける事が可能だ。


 そうして奴が街の外にまで逃亡したところで…。


「(レーザーの直撃を食らって火傷で済んでいる時点で少しは疑問を覚えなかったのか?)」


 リンクした式紙の視線で対象を確認して2条の『ホーミング・レーザー』を発射する。


 たった2条のレーザーは的確に――奴の『頭』と『心臓』を貫いた。


 確かに『ホーミング・レーザー』は『アトミック・レイ』に対して速度、貫通力、熱量で大分劣るが、それは『アトミック・レイ』が強力過ぎるだけで『ホーミング・レーザー』でも人間を仕留めるには十分過ぎる攻撃力を備えている。


「(ソフィアを狙った奴を生かして帰す訳ねぇだろ)」


 逃走を許したのは『遠距離狙撃実験』の為だ。


 それと『ホーミング・レーザー』の威力を加減して、この場で仕留めなかったのは自宅で奴の死体を始末するのが面倒だったから。


「(後は…念の為にワームを仕込んでおくか)」


 確実に頭と心臓を撃ち抜いたので生きているとは思えないが、それでも街の外に待機させておいたワームを使って奴の身体に無数のムカデを寄生させて中から確実に食い殺させる。


 その作業を終えて後は待つだけという段階になって…。


「…は?」


 奴が――レギニアが唐突に起き上がって猛烈な速度で逃走を始めた。


「(へ?ちょ…どうなってんだ?)」


 頭と心臓を撃ち抜かれて、身体を中からワームに食い荒らされて、それでも元気良く逃げていくレギニアに流石に呆気に取られた。


 人間の限界を超える速度で街からドンドン遠ざかっていくレギニア。


「あ~。失敗したな」


『ホーミング・レーザー』は1度命中してしまうとロックオンが外れてしまう仕様にしてあった。


 それは1度命中したら大抵の場合は貫通してしまうので2度も同じ箇所を狙う意味が無いと思っていたからなのだが…。


「(何度も狙う必要はないが射程に居る時はロックオンが外れない仕様に変更しておくか)」


 実験の結果を反省しながら今回の修正案を練って家の中へと引き返す。


 逃げられたのは予想外の結果で『ベスト』ではなかったものの『ベター』と言えるくらいには悪くない感触だった。


 欲張らずにこの結果に満足しておくのが『俺らしい』というべきだろう。


 そう思って俺は夫婦の寝室に戻って…。


「お帰りなさい。旦那様」


 毛布を肩に引っ掛けただけの生まれたままの姿でソフィアが俺を出迎えてくれた。


「雑用は…終わりましたか?」


 3回戦を待機して待っていたソフィアは何処まで蟲惑的に俺を誘っていた。


 勿論、俺は速攻で彼女をベッドの上に押し倒し、彼女と自分を満足させる為に行動を開始した。


「あんっ♡」


 逃げていった馬鹿の事など直ぐに俺の頭の中から消え去っていった。




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